国際原子時
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1984年から1993年まで国際原子時の較正に使われていたセシウム原子時計の共振部。国立科学博物館の展示。

国際原子時(こくさいげんしじ、フランス語: temps atomique international、略語:TAI、ドイツ語: Internationale Atomzeit、英語: International Atomic Time)は、現在国際的に規定・管理される原子時である。地球表面(ジオイド面)上の座標時の実現と位置付けられる。

国際単位系 (SI) では、「セシウム133原子基底状態の二つの超微細準位の間の遷移に対応する放射周期の9192631770倍の継続時間である。」と定義されている[1]
概要

国際原子時 (TAI) は、世界50ヵ国以上に設置されているセシウム原子時計を数多く含む約300個の原子時計により維持されている、時刻の加重平均である。現在、国際原子時 (TAI) は国際度量衡局 (BIPM) が運用・管理する。

TAIの定義は参加する原子時計同士の定期的な比較による較正であり、時間の遡及により最高精度が維持される。この較正はナノ秒精度を要求する用途で用いられ、大多数の時刻サービス利用者は、複数台の原子時計で較正された時間間隔を過去に参照した原子時計から供給される、TAIのリアルタイム評価値を利用する。GPS衛星が発射する電波の時刻信号はTAIに裏付けられたリアルタイムの時刻源として広く使われている。

TAIの原点は1958年1月1日0時0分0秒 (TAI) に置き、その時点で1958年1月1日0時0分0秒 (UT2) と一致させた[2]。ただし、1976年に国際原子時 (TAI) の歩度がSI秒の定義値より速いことが判明し、1977年に国際原子時 (TAI) の歩度を修正しているため、正しい歩度で遡ると一致しない[3][4]
定義

国際原子時 (TAI) は、1970年国際度量衡委員会 (CIPM) の下部機関である秒の定義に関する諮問委員会(CCDS、現CCTF)で勧告S2を採択し、次のように定義されている。Le Temps atomique international est la coordonnee de reperage temporel etablie par le Bureau international de l'heure sur la base des indications d'horloges atomiques fonctionnant dans divers etablissements conformement a la definition de la seconde, unite de temps du Systeme international d'unites.[5][6]

訳:国際原子時(TAI)は, 国際単位系における時間単位であるの定義に従って, いくつかの機関で運転されている原子時計の指示値に基づいて国際報時局が定める基準となる時刻の座標である.[7] ? CCDS、1970年(CIPM、1970年に含まれる)勧告S2、PV, 38, 110-111 及び Metrologia, 1971, 7, 43

なお、当時は国際報時局(BIH、現IERS)が国際原子時 (TAI) を管理していたが、1988年1月に国際度量衡局 (BIPM) に移管された[8][9]

1980年に、秒の定義に関する諮問委員会(CCDS、現CCTF)は相対性理論の効果を考慮して TAI の定義は次のように完成された。Le TAI est une echelle de temps-coordonnee definie dans un repere de reference geocentrique avec comme unite d'echelle la seconde du SI telle qu'elle est realisee sur le geoide en rotation.[5][6]

訳:TAI は, 回転するジオイド上で実現される SI の秒を目盛りの単位とした, 地心座標系で定義される座標時の目盛りである.[7] ? CCDS の声明、BIPM Com. Cons. Def. Seconde, 1980, 9, S 15 及び Metrologia, 1981, 17, 70

一般相対性理論によれば、くるいのない理想的な時計であっても、それが刻む時刻は、その時計が過去に、どのような重力場のなかをどのような運動をしたかによって相互比較では差が生じる。このような時刻を「固有時」と呼ぶ[10]。地球ポテンシャルの影響として、時計の置かれている場所の標高ジオイドからの高さ)の違いに対応して、おのおのの時計の固有時は1 km当たり1.1×10?13の歩度差が生じるので[11]、国際原子時 (TAI) の作成に寄与する原子時計はジオイド上のSI秒を基準に補正を行うことになる[12]

さらに、この定義は1991年国際天文学連合 (IAU) の決議A4(基準座標系部会の勧告Vと勧告W)によってより詳細なものとなった。

「TAI は、その理想とする地球時 (TT) を実現する一つの時刻系であり、地球時とは一定の差 32.184 s だけ異なっている。地球時は、四次元地心座標系の時間座標である地心座標時 (TCG) とは、一定の歩度差を持つと関係付けられている.」(Proc. 21st General Assembly of the IAU, IAU Trans., 1991. vol. XXIB, Kluwer を参照.)[7][13]

国際原子時 (TAI) の作成に寄与する世界各地の約200台の原子時計データは、おのおのの時計のランダムなくるいを、統計平均によって減らす操作の前に、それぞれの時計の固有時を、時計位置のジオイドからの高さに基づいて、地球重心座標系の座標時である地心座標時 (TCG) へと変換している。1992年現在の国際原子時 (TAI) のくるいは100兆分の1以下なので、これ以下の精度で補正するためには、時計位置のジオイドからの高さが10 mの精度で正しく分かっている必要がある[10]
歴史
積算原子時

1949年アメリカ合衆国の国立標準局(NBS、現NIST)で、アンモニアを用いた分子周波数標準器が組み立てられ、また1955年6月にはイギリス国立物理学研究所 (NPL) でセシウム原子周波数標準器が実用化され、その後、各国のセシウム標準器も相ついで実働されるようになってきた。

当時は水晶時計の原発振周波数を原子標準器で定期的に較正し、その偏差率を積分して、水晶時計を補正するという手順で行われたので、この当時の原子時は積算原子時とよばれた。

この積算原子時と暦表時 (ET) との比較から、1秒間におけるセシウム原子の固有振動数が9192631770 Hzと測定され、この周波数値は第13回国際電波科学連合 (URSI) 総会(1960年)や第11回国際天文学連合 (IAU) 総会(1961年)で公認された。そして、1960年代には市販のセシウム原子時計が各国の天文台研究所に普及する。

現在の国際原子時 (TAI) は1958年1月に原点を置いているが、精度は劣るものの積算原子時を1955年7月まで遡ることができる[14][15]
原子時

1958年、各国の天文台の世界時 (UT) を集計し確定世界時を算出していた国際報時局(BIH、現IERS)が原子時のデータを集計処理する責任を担うことになった。国際報時局(BIH、現IERS)の中央局(パリ天文台)があるフランスの原子標準を仲介として、各国の原子標準との比較結果を集計することにより原子時を算出するようになる。この原子時のうち、最初にイギリスの国立物理学研究所 (NPL)、スイスのニューシャテル天文台、アメリカ合衆国の国立標準局(NBS、現NIST)の3機関のセシウム標準を使って1958年1月1日0時 UT2 を起算点において積算を始めた原子時系を、A.3(A3とも表記する)という(その後 A.3 に寄与する原子標準は次第に増えていく)[16]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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