固定価格買い取り制度
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固定価格買い取り制度(こていかかくかいとりせいど、Feed-in Tariff, FIT, Feed-in Law, FiL)とは、エネルギーの買い取り価格を法律で定める方式の助成制度である。

地球温暖化への対策やエネルギー資源の確保、環境汚染への対処などの一環として、主に再生可能エネルギー(もしくは、日本における新エネルギー)の普及拡大と価格低減の目的で用いられる。設備導入時に一定期間の助成水準が法的に保証されるほか、生産コストの変化や技術の発達段階に応じて助成水準を柔軟に調節できる制度である。適切に運用した場合は費用当たりの普及促進効果が最も高くなるとされる。世界50カ国以上で用いられ[1]、再生可能エネルギーの助成政策としては一般的な手法となっている[2]。その一方、買い取り価格の設定次第で過大な設置や利用家庭の負担が増大する危険性がある。
名称

固定価格制度、フィードイン・タリフ制度、電力買い取り補償制[3]などとも呼ばれる。FIT(Feed-in Tariff)と略称されることが多い。「?を与える,入れる」(introduce continuously)[4]という意味の Feed in と「関税,関税率,料金表」という意味の Tariff という言葉からなる。再生可能エネルギーを導入した際のコスト負担を買取価格に「入れ込んだ料金体系」という意味である[5]
歴史

固定価格買い取り制度は1978年、米国において導入されたPublic Utility Regulatory Policies Act(PURPA)法がその走りとされる。PURPA法は特にカリフォルニア州などにおける風力発電の立ち上げに貢献した[6]。しかし現在のように国家レベルで顕著な効果を挙げられる制度は1990年にドイツが採用したのが最初とされる。再生可能エネルギーの普及促進政策としては他にも固定枠(クオータ)制や入札制などもあり、既存市場との整合性や安さを根拠として固定価格買い取り制度以外の方式を採る国も多かった。しかし固定枠制や入札制では、その主張に反して、いずれもその効果は固定価格買い取り制度に劣るものとなった[6][7]。その一方でドイツは固定価格買い取り制度によって再生可能エネルギーを大量に普及させると同時に生産コストを下げ、電力総需要に対するシェアを2000年の6.3%から2007年末には14%に倍増させる[8]など、他の方式より大幅に勝る成果を挙げてみせた。この結果を踏まえ、現在では多くの学術的報告や公的機関がその優位性を認めている(#評価を参照)。採用数は特に2005年以降に急増し、2009年時点では少なくとも50以上の国々と25以上の州・地域で採用されている[1]。現在では再生可能エネルギーの普及政策として、最も一般的な手法となっている[2]
しくみ
原理

地球温暖化への対策エネルギー資源の確保のため、枯渇性燃料への依存度を下げて再生可能エネルギーを導入する際は、価格的競争力が大きな障害となる。この価格が下がるためには、大量普及によって生産コストや流通コストを低減させると同時に、技術開発を促すのが望ましい[6]。これまでの実績から、バイオマス風力発電太陽光発電などの価格は経験曲線効果(もしくは学習曲線)に基づき、普及量の増大と共に、法則性を持って低減することが知られており、そこから将来の価格低減速度を予測できるとする論者もいる[6]。固定価格買い取り制度はこの主張に基づき、電気料金に少額の上乗せをして得られた資金を用いて普及を助成する方式の1つである。固定価格買い取り制度の特徴は、個々の発電所に対するエネルギーの売り渡し価格(タリフ)を設置時点で長期間固定する一方、発電所の設置時期が後になるほど、(価格低減に従って)助成額を減らすことである[6]。この仕組みにより設備導入費用の回収の目処が立てやすくして投資・融資を促進する一方、新規導入設備への助成水準の柔軟な調整が可能となる[6][9]。一方で、固定価格買い取り制度には、高コストの劣った方式のサプライヤーを甘やかすといった批判も一部で指摘されている。
制度

固定価格買い取り制度では、エネルギーの売り渡し価格(タリフ)を法律で決定する[6]。再生可能エネルギー源の事業者は、タリフを決まった期間(20年など)にわたり、法律で保証される(これが「固定価格買い取り制度」とも呼ばれる理由である)。この価格は、普及量や生産コストの推移に従って定期的に見直され、計画的に逓減していくが、既に導入された分についてはこの見直しは影響しない。定期的な見直しを通じたタリフの逓減により、国や地域全体でみた電力量あたりの助成費用は抑えられる。一方、既存の発電事業者のタリフは変更されないため、個々の事業者の投資リスクは低く保たれる。固定価格買い取り制度はこの点において、分散型電源の特徴を利用している[6]

一般的に固定価格買い取り制度においては、対象技術の普及の初期に導入した事業者ほど高いタリフが設定される。普及が拡大してエネルギーの生産コスト(設備価格や運転費)が技術開発に従って低減するのに合わせ、後期に導入した事業者ほど助成額は減らされる。この助成に必要な費用は多くの場合、電気料金に上乗せして全ての電力消費者から電力の利用量に応じて徴収され、国は直接金銭の収受を行わない[6]。ドイツの場合、徴収額は標準的な家一軒当たり2 - 3ユーロである[10]。タリフの額が過大もしくは過少にならないよう、対象となる技術ごとに、普及量や生産コストの低減状況に応じて定期的に調整される[3][6][9]
タリフの決定方法

固定価格買い取り制度における、発電所ごとのタリフの決め方には大きく分けて2通りある[9]。スペインのように、発電事業者が複数の方式を選択できる国もある[6][9]
Fixed Tariff

タリフを一定期間固定する方式で、多くの採用例で用いられている。発電所が導入された時期によって、その後一定期間(たとえば10 - 20年間)のタリフの額が決定される。発電事業者にとっての投資リスクが低く、また助成費用も最小に済む[9]
Premium Tariff

電力料金に一定額を上乗せする方式である。Premium Option, Feed-in Premium (FiP), Solar Premium(太陽光発電の場合)などとも呼ばれる。需要が逼迫する時間帯の給電を促す効果があるほか、市場での取引が可能なのが特長である。その一方、電力料金によって買い取り額が変動し、また購入が義務づけられないため、発電事業者にとってのリスクが高い。このため、Fixed Tariffに比較して助成費用が高くなりやすい[9]
タリフ決定時の考慮事項

タリフを定期的に調整する際は、下記のような事柄を考慮する必要があるとされる[9]

設備への投資額

免許手続きなどのコスト

運転と保守(O&M)の費用

燃料価格(バイオマスの場合)

インフレ率

融資の利率

投資家の利益率

また、枯渇性燃料の利用に伴う下記のような外部コストの削減分も考慮される場合がある[9]

気候変動(地球温暖化

大気汚染に伴う健康被害

農業生産の減少

物理的損傷

エネルギー安全保障への影響

全量買い取りと余剰買い取り

電力を消費する建造物等に助成対象の発電設備を付加した場合、自家消費分の電力の取り扱いによって下記の2方式に分かれる。それぞれ異なった特徴を有する[11]
全量買い取り
自前の設備であっても、発電した電力(エネルギー)は一旦全て買い取られ、自家消費分の電力は別途系統電力で賄う。ドイツ等で一般的な方式である。余剰電力が少ない公共・産業用の設備への助成では必須とされる。また電力事業者自身の設備や市民発電所等にも用いられる。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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