囲炉裏
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囲炉裏囲炉裏端で帳面をつける様子(1914年)

囲炉裏(いろり、居炉裏とも表記)とは、屋内に恒久的に設けられるの一種[1]。伝統的な日本の家屋において床を四角く切って開けを敷き詰め、炭火などを熾すために設けられた一角のことである。主に暖房調理目的に用いる。数える際には「基」を用いる。古くは、比多岐(ひたき)や地火炉(ぢかろ)とも言った。
概要アイヌ民族の伝統家屋・チセ内部の囲炉裏「アペオイ」。鉤に囲炉裏鍋がかかっている。「木尻」にあたる部分は土間のままである。札幌市厚別区北海道博物館」にて撮影。

囲炉裏は炊事専門のかまど、属人的な火鉢とともに、日本の伝統家屋の火の座を構成した。

地方により特有の形態を持つ囲炉裏は、その呼び名も地方ごとに異なり、多くの呼称があった。現在でも使われるものに、炉、地炉、ヒジロ、ユル、ユルイ、ユルリ、イナカ、エナカ、ヘンナカ、エンナカ、イリリ、イレ、シタジロ、スブト、ジリュなどがある。
機能囲炉裏でおやきを作る。

囲炉裏は次のような様々な機能を有する。
暖房
囲炉裏は暖をとるために用いられる[2]。部屋の中央付近に置かれ、部屋中を暖める。
調理
囲炉裏は食物の煮炊きに用いられる[2]。囲炉裏では自在鉤(後述)や五徳を用いて鍋を火にかけ、炊飯をはじめとする、あらゆる煮炊きを行なった。また魚などの食材を串に刺し、火の周囲の灰に立てたり、灰の中に食材を埋めて焼くことも多い。酒を詰めた徳利を灰に埋めて燗付けすることもある。北陸地方(かまど)が作られるようになったのは昭和30年代からで、それまで煮炊きは囲炉裏で行なっていた。温暖な西日本では夏季の囲炉裏の使用を嫌い、竈との使い分けが古くから行なわれている。
照明
囲炉裏は夜間の採光に用いられた[2]。火が主要な照明であった近世以前において、囲炉裏は安全に部屋を照らすことのできる設備であった。古くは炉辺の明かし台で松明を燃やし、手元の明かりとした。また、照明専用具として油や蝋燭があった。
乾燥
火棚を組み、衣類・食料・生木などの乾燥に用いたり、衣紋掛けを炉辺に置いて、濡れた着物を乾かした。
火種
マッチなどによる着火が容易でない時代、囲炉裏の火は絶やされることなく、竈(かまど)や照明具の火種として使われた。
家族のコミュニケーションの場
囲炉裏には家族や人を集結させる場としての機能があった[2]。食事中や、夜間は人が自然に囲炉裏の周りに集まり、会話が生まれる。通常家族の成員の着座場所が決まっており、家族内の序列秩序を再確認する機能もあった。囲炉裏の周囲の着座場所の名称は地方によって異なるが、例えば横座、嬶座(かかざ)、客座、木尻または下座(げざ)といったものが挙げられる。土間から最も遠い席(横座)が一家の主人の席であり、土間に近い席(木尻)には子どもたちが座り、その間の両側に客人や主人の妻が座った[3]
家屋の耐久性向上
部屋中に暖かい空気を充満させることによって、木材中の含水率を下げ、腐食しにくくする。また薪を燃やすときの煙に含まれるタール木タール)が、梁や茅葺屋根屋根の建材に浸透し、防虫性や防水性を高める。ただし、家の中に煙が充満することで眼病などの原因にもなる。
様式
位置

囲炉裏はに組み込んで設置される場合と土間に設置される場合とがある[1]

日本の伝統的な民家は床敷きの部位と土間の部位が大黒柱を軸に結合した形態を取り、囲炉裏が切られるのは多くの場合床敷きの部位の中央である。しかし、地域によっては床敷き部分の土間寄りの辺に接して切る場合もある。南部曲り家に見られる「踏み込み炉」は土間囲炉裏の典型で、農作業中に土足のまま囲炉裏の周りに腰掛けられる造りとなっている。また、東北地方などの寒冷地には掘り炬燵のような掘り下げたものもある。囲炉裏は生活にかかせないものとして地方ごとに独自に発展した形態を持つ。

家によっては複数の囲炉裏が存在し、身分によって使う囲炉裏が指定されていた。囲炉裏が二基ある場合、(たきぎ)を燃料とした家人用の囲炉裏と木炭を燃料とした客人用の囲炉裏とを使い分けることもあった。また、が出ない木炭の囲炉裏では、贅沢な自在鉤や茶釜を用いることも多かった。現在では大きな火鉢や木製のテーブルの中央で炭火を熾す座卓を囲炉裏と称することも多いが、本来的に囲炉裏は移動できない設備であり、移動ができるものは火鉢と称する。

なお、形状としては正方形のものと長方形のものがある[1]

茶室にも囲炉裏と良く似た火の座があるが、茶道では「」と称し、畳の間に切る。寸法も一(42.42cm)あるいは裏千家の大炉の場合でも一尺八寸(54.54cm)四方で、一般的な囲炉裏よりはるかに小さい。茶道の水屋では、直径一尺程度の鉄の円形の丸炉(がんろ)というものが用いられる。書院茶では丸炉のみが用いられる。
燃料

燃料は炭のこともあるが、薪であることが多いとされる[1]

囲炉裏はかまどと異なり、火力よりも火持ちのよさが重視され、燃料には薪を用いることが多かった。現代家屋では煙の出ない炭火が用いられることが多いが、昔の民家では山中で容易に入手できる薪に比べ、木炭は貴重な存在であり、炭火は火鉢専用であった。火を長くもたせるには、乾燥しすぎていない薪を用いるか、籾殻や灰を掛けて燻らせながら燃やすなどの方法があるが、民家では枝を短く伐らずに長いまま薪として用い、押し込みながら燻らせる様にして燃やし、火を長くもたせた。地方によっては掘り起こした切り株を割らずにくべることもあった。また、囲炉裏は火を扱う場であるため、火の神を祀ることも多かった。

山暮らしを実践している大内正伸は、「薪ストーブ代わりにしていた鋳物カマドと比べて囲炉裏の使用で薪の使用量が激減した。地面に落ちている枯れ枝がそのまま使える。雨で多少濡れた枝でも細いものは天日に2?3日晒せば乾く。薪の炎で鍋料理を作りながら燠火をずらせば炭火焼も同時にできる。余った燠火を火消し壷に入れれば燠炭が作れ火鉢・あんか・こたつで使える。灰をかけて燠炭を翌朝まで保つには大きな燠炭ができる太い薪が適している」と記している。また、過去に大量に植林されたスギは今や需要が落ち込んでおり、燃料としては火持ちが悪いので薪ストーブには向かないが、カマドや囲炉裏であれば火力調節もでき、調理に便利な燃料である。山中に大量に捨てられているスギの枝葉に至るまで利用できるとしている。[4]ただし、エアータイト型の薪ストーブの場合は、杉であってもゆっくり燃やせるので、燃料としての問題点はない。
構造自在鉤

自在鉤(じざいかぎ)天井から吊るされた先端が鉤状のもの。自在とも呼ぶ。火力を調節するため、てこを外して筒の中に通した鉄や木製のの高さを変える[5]。自在鉤に鍋や鉄瓶をかけて煮炊き・湯沸しを行う[1]。英語圏では “pothook” という似た道具がある。かつては火の神の依代(よりしろ)としての考え方もあった。

横木自在鉤の上方に付いている、鉤を任意の位置で留めるためのてこで、火除けの意味を込めて魚の形をしている場合が多い。字義のとおり木製の物もあるが耐摩耗性を得るため金属製の物もある。

炉縁囲炉裏の縁である。ナシの材が多く用いられた[1]。目につく部分であるため、銘木を用いたり様々な装飾が施されることもある。

天、天棚、火棚地域によるが、囲炉裏上部には天(あま)が設けられる事もある[6]。天棚(あまだな)あるいは火棚(ひだな)とも呼ばれる[6]。これは囲炉裏上部に天井から吊るす木や竹製の板で、囲炉裏よりひとまわり大きく造られ、舞い上がる火の粉を防ぐと共に、煙や熱を拡散させる働きがある。ヒエアワといった穀類などを乾燥させたり、川魚などの食品を吊るし、煙で燻して干物を作ったりする[6]。近年作られる火棚は装飾用として格子状に作られるものが多いが、その場合は上部に何らかの煙を遮断するものがないと、火の粉や煙が通り抜けてしまい、本来の用を成さない。

囲炉裏に付属する道具岐阜県白川郷、長瀬家の囲炉裏に設置された金輪
五徳(ごとく)
鉄などの金属製の台であり、上下何れかに円形の枠を形成し、3本の足が伸びている構造。五徳の上部に網を乗せ焼き物をする場合と、直接鍋などを乗せ煮たきをする場合がある。北陸地方特有の上部に大きな輪の付いたものは金輪(かなわ)と呼ばれ、内容物を含めれば自在鉤(の摩擦力)では固定できないほどの重量がある大きな鉄鍋をのせて使われる。
わたし
金属製で左右に長い格子状のものに、足と中央に柄を取り付けたもので、囲炉裏で餅や団子などを焼く台として使うもの。柄を持ち火元に差し出したり、熾き火を下部に掻き入れて使う。


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