回折格子
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実験用の超大型回折格子

回折格子(かいせつこうし)とは、格子状のパターンによる回折を利用して干渉縞を作るために使用される光学素子の総称。グレーティング(: diffraction grating)とも呼ばれる。格子パターンは直線状の凹凸がマイクロメートルサイズの周期で平行に並んで構成されていることが多い。ただしその周期、材質やパターン厚(凹凸の差厚)などは用途や使用する波長域によって適宜異なる。主に物理化学分野で分光素子として用いられるものの用途は一概には言えない。回折格子による干渉縞が見られる身近な例としては、CDが挙げられる。(後述)(ただしCDは、構造的に回折格子になっているものの、情報の読み取りに回折を利用しているわけではない)観測衛星チャンドラのスペクトロメーターに使用された回折格子
概要CDの読み取り面の格子状構造による分光現象

回折格子を用いて得られる効果としてわかりやすいものは、CDの読み取り面に太陽光や室内光を当てたときに虹色に輝いて見える現象である。これはプリズムに光を通したときに見られる現象と似てはいるが、プリズムでは光の屈折によって色が分離する(スペクトルが表れる)のに対し、回折格子では光の回折と干渉によってスペクトルが見えている。また、単一方向から光を入射しスクリーンにスペクトルを投影してみると、プリズムで観察されるスペクトルのパターンは単に光の波長の順に並んだものであろうが、回折格子で観察されるものはそれを周期的にくり返したような形になるはずである[注釈 1]。この分光能力により理化学機器のスペクトロメーターや光学用のモノクロメーターの構成要素として回折格子が使われることが多い。

回折格子というと線が平行に走った単純な格子状のものを連想しやすく、以上の説明もそのようなものを想定して行ってきたが、パターンの形、周期、断面形状は様々であり、材質や製造法も場合によって異なる。また、回折の起こし方にも数種類ある。分光素子としてではなく、イメージング分野で光の位相分布を画像化するために用いられることもあり、同様の分野で使用されている回折格子と類似の構造を持つ光学素子としてホログラムゾーンプレートX線顕微鏡で使用される回折レンズの一種)などがある[注釈 2]。また、加速された中性子のような波動性を持つ粒子(物質波)のための特殊な回折格子もある。回折格子の断面の例の模式図。(A)はガラス板に溝を彫った場合など。(B)のブロックの模様の違いは屈折率の違いを表す。(C)は鋸歯の各表面で反射が起こるタイプで、分光素子として主に用いられる。

モデルとしてよく説明される回折格子は光を通すブロックと遮蔽するブロックが交互に並んだものだが、光を遮蔽せずとも隣り合うブロックを通過する光どうしに一定の行路差(位相差)がつけば回折は起こる。そこで、凹凸により行路差をつけるタイプ、屈折率の違いによって行路差をつけるタイプ、鋸歯状断面での反射により行路差をつけるタイプ(ブレーズ回折格子)などがよく用いられる。また、光の一部を遮蔽してしまうと光子数が減って損をするので、実際には上記3種のような光強度が減衰しない回折方式を採ることがほとんどである。

通常よく見られる回折格子は多数の直線が平行に並んだ1次元パターンを持つものである。実用ではこのパターンの回折格子が多くを占めるが、イメージング分野で使用される回折レンズは同心円状のパターンを有している。回折レンズは回折格子と同様の仕組を持ち、フレネル回折領域の干渉縞をある一点(焦点)に生じさせることでレンズの役割を果たす光学素子であり、そのために同心円状パターンの間隔は中心から端に向かって徐々に小さくなっている。この他、原理的にはどのような2次元図形格子でも回折と干渉を起こし得るし、ホログラムも回折格子の一種とみなせばそのパターン形は無数にあると言える[注釈 3]
形状による分類
平面型
平面ガラス板にアルミニウムなどの金属を蒸着し、その面上に溝を刻んだものが平面型の回折格子である。平面型回折格子には、透過回折光を用いる透過型と、反射回折光を用いる反射型がある。
凹面型
球面形の凹面に溝を刻んだものが凹面型の回折格子である。凹面回折格子によって反射された光で回折が起こる。凹面型回折格子を分散型回折格子として用いる場合は、
ローランド円の上に入射スリットと検出器を配置させる。非球面のものとしては、トロイダル面や楕円の凹面回折格子がある。
光の散乱方向による分類
透過型
平面回折格子では、透明な材質の表面に等間隔の溝を刻線した回折格子を光が透過し、その透過光で回折現象が起こる。透過型の回折格子は、フィルターとして用いられる。また回折現象として分かりやすいため教育分野では透過型の回折格子による説明が行われることが多い。分散型分光器として透過型回折格子が用いられることも無いわけではない
[注釈 4]が、反射型回折格子を用いる分光器の方がより一般的である。
反射型
回折格子によって反射された光による回折を利用したものを反射型回折格子という。一般的に用いられている回折格子の大半が、この反射型回折格子である。反射型および透過型回折格子は、溝の面の角度(ブレーズ角)を一定方向にそろえることで、特定の波長領域の回折光のエネルギーを強めることができる。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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