『和漢朗詠集』(わかんろうえいしゅう)は、平安時代中期の歌人で公卿の藤原公任(藤原北家小野宮流)が漢詩・漢文・和歌を集めた、朗詠のための詩文集である。長和2年(1013年)頃に成立した。『倭漢朗詠集』あるいは巻末の内題から『倭漢抄』とも呼ばれる[1]。
もともとは藤原道長の娘威子入内の際の引き出物の屏風絵に添える歌として撰集され、のちに公任の娘が藤原教通(道長五男)と婚姻を結ぶ際の引き出物として、朗詠に適した和漢の詩文を達筆で知られる藤原行成が清書し、それを冊子として装幀されたものといわれている[2]。 平安時代前期・中期の貴族生活と国風文化の流れのなかで編纂された詩文集である。当時、朗詠は詩会のほかにも公私のそれぞれの集まりで、その場にふさわしい秀句や名歌を選んで朗誦し、場を盛り上げるものとして尊重されていた[2]。朗詠の盛行の様子は、『源氏物語』『紫式部日記』『枕草子』など王朝文学における物語・日記文学・随筆にも描かれている[3]。また、『大鏡』には、安和2年(969年)、源雅信が村上天皇を偲んで「嘉辰令月」を朗詠したことが記されている[3]。 『和漢朗詠集』は、こうした要請に応ずる形で撰した詩文を朗詠題ごとに分類、配列したものである[1]。勅撰和歌集『後拾遺和歌集』序に「大納言公任卿(中略)やまともろこしのをかしきことふたまきをえらびて、ものにつけことによそへて人の心をゆかさしむ」とある[1]。 上下二巻で構成。その名の通り朗詠に適した漢詩および漢文588句(多くは断章。日本人の作ったものも含む)と和歌216首を選んだものである[1][4]。主として三代集(古今和歌集、後撰和歌集、拾遺和歌集)と大江維時編『千載佳句 構成は、勅撰和歌集『古今和歌集』等にならい、上巻に春夏秋冬の四季の歌、下巻に雑歌を入れている[1][4]。
背景
構成と内容
上巻
春立春 早春 春興 春夜 子日付若菜 三月三日付桃花 暮春 三月尽 閏三月 鶯 霞 雨 梅付紅梅 柳 花 落花 躑躅 款冬 藤
夏更衣 首夏 夏夜 納涼 晩夏 橘花 蓮 郭公 蛍 蝉 扇
秋立秋 早秋 七夕 秋興 秋晩 秋夜 八月十五夜付月 九日付菊 九月尽 女郎花 萩 槿 前栽 紅葉附落葉 雁付帰雁 虫 鹿 露 霧 擣衣
冬初冬 冬夜 歳暮 炉火 霜 雪 氷付春氷 霰 仏名
下巻
雑風 雲 晴 暁 松 秩B草 鶴 猿 管絃附舞妓 文詞附遺文 酒 山附山水 水附漁父 禁中 古京 故宮附故宅 仙家附道士隠倫 山家 田家 隣家 山寺 仏事 僧 閑居 眺望 餞別 行旅 庚申 帝王附法王 親王附王孫 丞相附執政 将軍 刺史 詠史 王昭君 妓女 遊女 老人 交友 懐旧 述懐 慶賀 祝 恋 無常 白
代表的な詩句