電子伝達系(でんしでんたつけい、英: Electron transport chain)は、生物が好気呼吸を行う時に起こす複数の代謝系の最終段階の反応系であり、酸化還元反応により電子供与体から電子受容体へ電子を移動する一連の生物学的過程のことである。別名水素伝達系、電子伝達鎖、呼吸鎖などとも呼ばれる。水素伝達系という言葉は高校の教科改定で正式になくなった(ただ言葉として使っている人はいる)。 電子伝達系の最終的な電子受容体は、酸素分子である。電子伝達系は、光合成による太陽光からのエネルギーの抽出や、糖の酸化、細胞呼吸等に用いられる。真核生物では、ATP合成酵素による酸化的リン酸化の場となっているミトコンドリア内膜で重要な電子伝達系が発見されている。また、葉緑体のチラコイド膜でも見られる。 電子伝達系は、電子供与体から電子受容体に電子を移動させる酸化還元反応である。電子伝達系は、空間的に離れた酸化還元系を形成し、その中で電子は電子供与体から電子受容体に伝達される。これらの反応を駆動する力は、反応物と生成物のギブス自由エネルギーである。系全体のギブス自由エネルギーを減らす全ての反応は、熱力学的に自発的に起こる。電子の移動は、膜を通したプロトンの移動と共役しており、プロトン勾配を作る。プロトン勾配は仕事を生み出すのに用いられる。1つの電子の移動から約30単位の仕事が行われる。
概要
電子伝達系の機能は、酸化還元反応の結果として、膜の内外にプロトン勾配を作り出すことである[1]。プロトンが膜を通して戻れば、細菌の鞭毛の回転等の機械的な仕事を行うことができる。ATP合成酵素はこの機械的な仕事を化学エネルギーに変換し細胞のエネルギー源とするもので、全ての生物で高い保存性を持つ[2]。
また、光合成でも電子伝達系は存在しており、これは葉緑体のチラコイド膜に存在するシトクロムb6/f複合体にて行われる。葉緑体では、光が水から酸素、NADP+からNADPHへの変換を駆動し、細胞膜を通してプロトンを移動させる。ミトコンドリアでは、プロトン勾配の形成に必要な酸素から水、NADHからNAD+、コハク酸からフマル酸への変換が起こる。
電子伝達系は、酸素に電子が渡る主な場となって超酸化物を生じ、酸化ストレスを増加させる。
電子伝達系のポイントとなるのは、解糖系やクエン酸回路で生じた還元型補酵素NADH+H^+とFADH2がもっている水素イオンH+と電子e-である。これらがミトコンドリアを包む二重膜で働くことで、最終的にたくさんのATPとH2Oになる。
6O2 + 10(NADH+H^+)+ 2FADH2 + 34(ADP+リン酸)→12H2O+10NAD+ + 2FAD + 34ATP 呼吸鎖複合体(こきゅうさふくごうたい)とは、細胞呼吸(好気呼吸、嫌気呼吸関わらず)を行うほとんどの生物に見られる膜(ミトコンドリア内膜、チラコイド膜、原核生物の細胞膜)に存在する分子量10万から100万程度の巨大タンパク質である。呼吸鎖複合体 I, II, III, IV からなり、ATP合成酵素を呼吸鎖複合体 V とする事もある。
呼吸鎖複合体
ミトコンドリアにおける電子伝達系の生成物(NADHやFADH2)からATPを合成する。ミトコンドリア内膜では、NADHとコハク酸由来の電子が電子伝達系を通って酸素に渡され、酸素は水に還元される。電子伝達系には、電子供与体と電子受容体に関わる一連の酵素が含まれる。各々の電子供与体は、電気陰性度がより低い電子受容体に電子を渡し、この電子は次の電子受容体に与えられ、この一連のプロセスは、この鎖で最も電気陰性度が低い酸素に電子が届くまで続く。電子供与体から電子受容体に電子が渡されるとエネルギーが放出され、このエネルギーによりプロトンポンプを動かすことで、ミトコンドリア膜の内外にプロトン勾配が形成される。この全体のプロセスでは、水素の酸化エネルギーを用いてADPがATPにリン酸化されるため、酸化的リン酸化と呼ばれる。