周防灘(すおうなだ)は、瀬戸内海北西端に位置する海域である。旧豊前国に属す地域[注 1]では「豊前海」と呼ばれる。 北は山口県南岸、東は室津半島南端から屋代島、西は関門海峡に至る線で区切られる。南は大分県の姫島と山口県の祝島を結ぶ線を境界として伊予灘に接する。東部ほど深度が深く、西へ向かうに連れて浅くなる。 なお、「多島美」を謳う瀬戸内海であるが、周防灘には島嶼が少ない事も特徴であり[1]、たとえば防予諸島の中には、祝島や長島や姫島や平郡島や周防大島など、伊予灘や安芸灘との境界を形成している物も見られる。 気候は瀬戸内海式気候に属している。晴天の日が多く、降水量は比較的少ない。冬は関門海峡からの北西の季節風の影響を受け、雲が広がりやすく雨・雪を降らせる事があるなど、日本海側気候の特徴も見せる。しかし、季節風は山地で抑えられるため、沿岸の波は穏やかで海が荒れることは少ない。 伊予灘と共に航行上において重要な海域であるため、船舶同士の衝突などの海難事故が比較的に起きやすいという側面もある[2]。 有明海など日本列島の暖温帯域の、広大な浅海や干潟を擁した海域のほとんどは、現在では開発や汚染などで生態系が著しく破壊された状態にあるが、周防灘には例外的に良好な環境が多く残存していることも知られる。 北九州市の曽根干潟、大分県中津市の中津干潟、宇佐市の和間海岸などの広大な干潟が存在し、良好な環境が保たれていることが知られている。これらの干潟には絶滅が危惧されるカブトガニなどの生物が生息しており、貴重な野鳥が数多く飛来することでも有名である。 東京湾をはじめ、日本列島の各地で絶滅したとされるアオギスも、周防灘では今も細々と生き延びている[7]。日本のほとんどの産地が壊滅状態にある、在来の真のハマグリの個体群が生き残っている干潟も周防灘で発見されており、アサリやクルマエビなど他の多様な生物にとっても重要な生息地である[8][9]。 現在でも漁業が盛んであり、沿岸ではカレイ、ブリ、マアジ、マダイやサバなどの漁獲量が多い。また、西部ではカキ、海苔の養殖も盛んに行われている。 天然記念物であるスナメリも、瀬戸内海全体で大きく生息数と分布範囲を減らしたが、周防灘は現在でも比較的にスナメリがよく見られる海域であるとされる[10]。 江戸時代後期または明治時代前期までは周防灘や伊予灘や芸予諸島や別府湾等にクジラが普遍的に回遊していた可能性も示唆されており[3]、たとえば山陽小野田市の沿岸や三田尻にも多くのクジラが遊泳していたとエンゲルベルト・ケンペルらが書き記していたり[5]、上関町の祝島は特にクジラの生息に関する伝承が多く残されていたとされており、周防灘には瀬戸内海でも特に親子のクジラが多かったとされる[4][11][12]。
地理・気候
自然環境「祝島」および「長島 (山口県)」も参照現在の日本列島でも、比較的に保全状態が良好な貴重な干潟の一つである曽根干潟。かつて周防灘や伊予灘や芸予諸島や別府湾等に多く見られたクジラはコククジラやミンククジラであったとする説もあるが、厳密な証拠は存在しない[注 2][3][4][5][6]。