同訓異字(どうくんいじ)は、異なる漢字だが、同じ訓を有するものの組み合わせ。異字同訓(いじどうくん)とも言う。 同訓異字となる漢字の組み合わせには次の3つの場合がある。 このうち、2. の場合は、正書法で使い分けが求められる場合があり、字義が似ているだけに日常生活においても混乱することが多い(例:整えると調える、収めると納めるなど)。1. についても書き手の印象などから使い分ける場合があり、2. との境界は曖昧である。これらの書き分けは、時代によって基準が異なる。例えば、常用漢字表の表外漢字・表外訓
概要
字義がほぼ同じで、同様の使い方ができる漢字
字義が類似しているが、違いがあり、書き分けられる漢字
字義がまるで異なるが、たまたま訓では同じ読みをする漢字
同じ読みでも同訓異字ではない例
音便の関係などによって、活用形で同じ訓読となるが、終止形が異なる場合
例:いって→行って(←いく)、言って(←いう)
助動詞と複合した場合
例:かける→○欠ける・○賭ける・×書ける(書く+える)
品詞が異なる
例:釣る・鶴
ただし、鶴と弦や蔓、釣ると吊るなどは同じ品詞なので同訓異字である。
また、送り仮名が異なる場合でも同じ品詞なら、これは同訓異字に含める例:分かる・解る・判る
なお、音読が同じとなる漢字の組は同音異字と呼ぶ。その中で熟語を構成するものは同音異義語と呼ぶ。 1972年6月、国語審議会漢字部会より『「異字同訓」の漢字の用法』[1]用法例が公表された。 2010年6月、文化審議会国語分科会により『「異字同訓」の漢字用法例(追加字種・追加音訓関連)』(改訂常用漢字表に伴う)[2]より異字同訓漢字の用法例が公表された。 2014年2月、文化審議会国語分科会が『「異字同訓」の漢字の使い分け例』[3]が公表された。
審議会等による「異字同訓」使い分け例示
同訓異字の例
名詞の例
あと:後・后・痕・跡・址・墟・蹟・踪
さき:先・前
うた:歌・唄・詩
こと:事・言;(楽器)琴・筝;(差異、とりわけ)異・殊・特
そら:空・天
つち:土・地・壌・槌・鎚・錘
ちから:力・権
つね:常・恒・平・経
なみ:(水面のなみ)波・浪・涛;(普通)並・平・凡・庸
なみだ:涙・泪・涕
のり:(貼り付ける材料)糊;(おきて、ものさし)規・則・法・度・律・憲・範
むら:村・邑・邨・斑・群
動詞の例(慣用的なものは除く)
あう:合う・会う・逢う・遭う・遇う
あける:開ける・空ける・明ける
あらわれる:現れる・表れる・顕れる・露れる
かくれる:隠れる・匿れる・潜れる
いきる:生きる・活きる・存きる
しぬ:死ぬ・歿ぬ・滅ぬ・亡ぬ
いたる:至る・到る・達る
いれる:入れる・容れる・淹れる
うつ:打つ・撃つ・討つ・伐つ・攴つ・撲つ
うつす:写す・映す・移す・遷す・撮す
うやまう:敬う・尊う
さげすむ:蔑む・鄙む
うむ:生む・産む・膿む・倦む・熟む・績む
おおう:覆う・掩う・蔽う・被う・蓋う
おかす:犯す・侵す・冒す
おごる:奢る・侈る・驕る・傲る・慢る・僭る
おさめる:治める・主める・統める・経める・収める・納める・修める
おそれる:恐れる・怖れる・畏れる・惧れる
おどす:脅す・威す・嚇す
おる:折る・居る・織る
おわる:終わる・了わる
かく:書く・描く・画く・欠く・闕く・掻く・舁く
かわる:変わる・代わる・替わる・換わる・更わる・迭わる
きく:聞く・聴く・訊く・利く・効く
きる:着る・切る・斬る・伐る・截る・剪る・馘る・鑽る
こたえる:答える・応える・堪える
さがす:探す・捜す
さす:刺す・指す・差す・挿す・射す・注す・点す・螫す
さめる:冷める・覚める・醒める・褪める
したがう:従う・順う・随う・遵う
しみる:染みる・沁みる・凍みる・滲みる・浸みる・泌みる
すく:好く・空く・透く・隙く・漉く・抄く・鋤く・梳く・剥く
すぐれる:優れる・秀れる・卓れる・英れる・傑れる・偉れる・俊れる
すすめる:進める・薦める・勧める・奨める
そこなう:損なう・害なう・残なう
そむく:背く・反く
たつ:立つ・建つ・断つ・絶つ・裁つ・截つ・起つ・経つ・発つ・顕つ・佇つ・勃つ
つく:付く・附く・吐く・着く・突く・衝く・撞く・就く・即く・憑く・漬く・浸く・点く・搗く・舂く・蹤く・跟く
つくる:作る・造る・創る
つる:釣る・吊る・痙る・攣る
とく:解く・説く・溶く・融く・梳く・熔く・鎔く
とる:取る・採る・捕る・執る・摂る・撮る・録る・獲る・穫る・盗る
なおる:直る・治る
なく:泣く・鳴く・啼く
ならぶ:並ぶ・列ぶ・伍ぶ
ねる:練る・煉る・錬る・寝る
のこる:残る・遺る
のばす:伸ばす・延ばす・展ばす
のる:乗る・載る
はかる:図る・計る・測る・量る・諮る・謀る
ひく:引く・弾く・牽く・惹く・轢く・碾く・退く・挽く・曳く・抽く
ひらく:開く・拓く・啓く・披く・展く
ひろめる:広める・弘める・布める
ふく:吹く・噴く・拭く・葺く
ふむ:踏む・践む・履む
みたす:満たす・充たす
みる:見る・観る・看る・視る・覧る・診る
もどる:戻る・復る・還る
ゆく:行く・往く・逝く・之く
よる:寄る・因る・拠る・依る・由る・縁る・選る・撚る・縒る・倚る・凭る・頼る
よろこぶ:喜ぶ・悦ぶ・歓ぶ・慶ぶ
わかる:分かる・判る・解る
形容詞の例
あつい:熱い・暑い・厚い・篤い
あぶない:危ない・殆ない
おおい:多い・衆い
すくない:少ない・寡ない・戔ない
おおきい:大きい・巨きい
ちいさい:小さい・微さい・矮さい
かたい:(固まっている)固い・堅い・硬い・剛い;(むずかしい)難い
きよい:清い・浄い・潔い・澄い・純い・聖い・廉い
きたない:汚い・濁い・穢い
こい:濃い・密い
うすい:薄い・淡い
こわい:怖い・恐い・強い
たかい:高い・上い・貴い・崇い・尊い・尚い・尭い
ひくい:低い・下い・賎い・卑い・矮い
つよい:強い・豪い・毅い・剛い・勁い
よわい:弱い・懦い
はやい:早い・速い・快い・迅い・疾い・捷い
おそい:晩い・遅い・慢い・徐い
ひとしい:等しい・均しい・斉しい・同しい
ひろい:広い・博い・洋い・汎い・寛い・宏い・弘い・曠い・浩い・豁い
せまい:狭い・陋い・隘い・窄い
むごい:酷い・惨い・厳い・峻い・残い
やさしい:(たやすい)易しい;(寛大)優しい・寛しい
やわらかい:柔らかい・軟らかい
やすい:(経費が少ない)安い・廉い;(たやすい)易い
よい:良い・吉い・好い・善い・美い・義い
わるい:悪い・凶い・壊い・歹い・邪い・奸い・惡い
形容動詞の例
おだやか:穏やか・平やか
やすらか:安らか・泰らか・康らか・靖らか・寧らか
ゆたか:豊か・富か・裕か・穣か
副詞の例
まったく:全く、完く
みだりに:妄りに、濫りに
わずか:僅か、微か、些か、纔か
出典^ 「異字同訓」の漢字の用法(昭和47年6月28日 第80回国語審議会 参考資料)
^ 「異字同訓」の漢字の用法例(追加字種・追加音訓関連)(平成22年6月7日 文化審議会答申「改定常用漢字表」に付された参考資料)