可変電圧可変周波数制御
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JR西日本281系電車のVVVFインバータ部山積されている使用済みのVVVF装置(東京総合車両センター

可変電圧可変周波数制御(かへんでんあつかへんしゅうはすうせいぎょ)英語Variable voltage variable frequency control(英語略称VVVF)とは、インバータ装置などの交流電力を出力する電力変換装置において、その出力交流電力の実効電圧周波数を任意に制御する手法である。

日本では、鉄道車両交流モータ駆動方式として、可変電圧可変周波数を英語に直訳した語[1] の頭文字をとって、VVVF制御(ブイブイブイエフせいぎょ、もしくは、スリーブイエフせいぎょ[2]、トリプルブイエフ制御[3])と呼ぶが、鉄道分野以外で一般に「電動機の可変速駆動制御」などと呼ばれるものに含まれる[4]。家電分野ではインバータ・エアコンなどに使われる。

なお、概要の項で示される通りVVVFは和製英語であり、英語圏では主にVFD[5](鉄道車両などではTraction inverter)などと呼称もしくは記述されることが多い。

半導体素子を用いた直流交流に変換する装置は → インバータ

直流電化区間で運転される鉄道車両の補助電源装置は → 静止形インバータ

電圧-周波数比例モータ制御は → VVVFインバータ制御

鉄道関係(技術解説)は → 電気車の速度制御

をそれぞれ参照の事。
概要

電力変換装置の出力電力手法には可変電圧可変周波数制御のほかに、定電圧定周波数制御(CVCF制御)、可変電圧定周波数制御(VVCF制御)、定電圧可変周波数制御(CVVF制御)がある。

電気鉄道では交流電圧波形の最大値が架線電圧に達するまでは周波数と電圧を比例させ(VVVF制御領域)、架線電圧に到達後は誘導電動機ではスベリを増やして定出力とし、スベリ限界以降はトルクが速度の2乗に反比例する特性が基準になる(CVVF制御領域)。このVVVF制御された出力特性は弱界磁制御を行う直流直巻モータの特性に酷似している[6]。静止形インバータ(SIV)はCVCFとされるが、定電圧制御を行うものはVVCFに帰還制御を施したとも言える。

この制御で得られる可変電圧可変周波数の電力は、交流電動機を可変速駆動する目的で消費される。そのため、電力変換装置に接続された交流電動機を可変速駆動する制御方式を指すことがある。

このような出力や電動機制御を実現する鉄道用インバータ装置をVVVFインバータと呼ぶ。VVVFは和製英語である。台湾韓国などでは、日本企業が名付けた呼称の影響を受けてこう呼ぶ場合もある。

この技術は鉄道車両電車電気機関車トロリーバス)、自動車電気自動車燃料電池自動車ハイブリッドカーホウルトラック)、エレベーターといった輸送用機器やファンポンプ、空調設備、圧延機などさまざまな産業用機器、さらには家庭用電気機械器具家庭用エアコン冷蔵庫洗濯機他)などで広く搭載され活用している。

PAM」、「PWM」というのは直流から任意の交流疑似正弦波波形を生成する方式に使用され、前者がパルス振幅を変えて交流波形を生成する(パルス振幅変調)もの、後者がパルス幅を変えて交流波形を生成する(パルス幅変調)方式でありPAMは電圧を昇圧(降圧)させる部分と交流に変換するインバータ部で構成される。PAMは装置の構造がやや複雑になるため今は鉄道車両では採用および搭載されていない。PWMは多くのインバータ制御で使われており従来の多段合成変圧器を用いた正弦波インバータより小型高効率にすることが可能である。

大電力のVVVF制御に多用される方式である、「3レベルインバータ」は耐電圧の低い素子を使用するために電源の中間電圧レベルを供給する回路方式であるが、動作としてはPWMである。これに対して直流電源電圧をオン?オフする元々の単純な方式を「2レベルインバータ」と言う。高調波損失を抑えるという意味ではマルチレベルインバータの方が良いものの、高電圧用の半導体素子の開発に伴い2レベルインバータに回帰し始めた。

回生制動時には電力の通過方向が逆になり、実質コンバータとしての機能も持ちかねている。

交流での回生制動を可能にする交直変換回路として整流部にPWMコンバータが用いられるようになったが、その理由は力行・回生双方向性を持ち、力行時にはコンバータとして使用しつつ、回生時にはインバータとして使用する必要があるためである。

絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)の登場以前では2レベルがほとんどであった。例外として、黎明期のGTOサイリスタ素子は高耐圧対応の部品が無かったために敢えて3レベルとしたインバータもある。東急6000系電車 (初代)などが該当する。東日本旅客鉄道(JR東日本)の209系920番台(登場時は901系C編成)では従来の大電流の平型GTOサイリスタに代わり、冷却装置に取付ける際の絶縁を考慮しなくて済む低耐圧モジュール型GTOを使用して、制御装置の諸費用削減や整備性の向上を図っている。

一つのインバータで複数の非同期モーター (IM)を駆動することが行われているため、制御装置とモーターの関係が#C#Mで表記されている。例えば1つのインバータを持つ制御装置が4つの非同期モーターを駆動する場合、1C4Mとなる。永久磁石同期モーター (PMSM)などの同期モーター (SM)の場合は、一つのモーター毎に一つのインバータが必要となるため個別駆動 (1C1M)のみとなる[7] が、4つのインバータを持ち4つの同期モーターを制御する制御装置も登場しており、これが1C4Mと表記されることもある。なお、非同期モーターの場合であってもインバータで空転再粘着制御が行われているため、粘着利用率だけを見る場合、軸毎に制御できる個別駆動の方が性能的に有利とされる[8]
沿革

VVVF制御は、交流電動機誘導電動機同期電動機)を可変速駆動するためのインバータの制御技術である。特にかご形誘導電動機は構造が簡単なため、保守費用が非常に安く、電動機自体の価格も安い、という利点があることが古くから知られていた。しかし、回転速度(回転数)が電源の周波数に依存するという特性があったため、長らく可変速度を必要とするものでの使用は困難であった。

かご形誘導電動機の速度制御には、インバータ開発以前にも極数変換によるものがあったが、これは連続的な速度制御はできなかった。インバータの出力電圧と周波数を連続的に変化させる可変電圧可変周波数制御が、交流電動機の連続的な速度制御を実現した。これは、近年の半導体技術、特にパワーエレクトロニクスの進歩に伴い、高速・高耐圧・大容量の制御素子が開発されて実現可能となったものである。

1960年代後半頃から、ファンポンプや抄紙機など産業用途での利用が始まり、1970年代後半から1980年代前半には鉄道エレベータ1990年代には冷蔵庫エアコンなど家電機器でも利用されるようになった。

後に、汎用インバータの製品価格が安くなり、送風機などでは風量や静圧調整のためプーリー交換やモータ交換をするよりインバータ制御で調整した方が安価になっている。

なお、ブラシレスDCモータの可変速制御回路も回路的にはインバータと全く同じであるが、同期モータであるため『すべり』がなく、正確に回転子の位置を調整(フィードバック)しないと同期がずれる『脱調』を起こし、停止する。
使用される電動機

主としてかご形三相誘導電動機巻線形三相誘導電動機の制御に使用される。2000年代後半に入り、駆動周波数と回転周波数がほぼ正確に一致しオープンループ制御が可能となる高効率な永久磁石同期電動機(PMSM)や大容量な電磁石同期電動機が徐々に使用されつつある。ただしこれらは電動機1つにつき主制御器(インバータ)1台が必要な個別制御でなければ正常に駆動できず、重量、設置面積(この2点は、同期電動機に積極的な東芝が1つのパワーユニットに複数のインバータを収める2 in 1あるいは4 in 1と呼ばれる手法で軽減している)、価格、主制御器の保守などの面で課題が残る。


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