古語辞典
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古語辞典(こごじてん)とは、国語辞典の一種。上代から近世末期までの慣用句について、意味・語誌・用法などを説明し、用例を添えたもの[1]

現在は、用例全文に現代語訳を施した、全訳古語辞典が発売され、特色を競っている。また、電子辞書やインターネット辞書も、近年利用者を増やしている[2]
構成
見出し

一般的に古語辞典の見出しは「かな表記【漢字表記】」のように書かれる(例:こごじてん【古語辞典】)。また、それぞれの詳細は以下の通り。

かな表記仮名遣いは基本的に「歴史的仮名遣い」が用いられる。見出しにはひらがな読み仮名にはカタカナが多く、単語の区切りには「-」を用いることがある(例:まつを-ばせう【松尾芭蕉】マツオバショウ)。活字は明朝体が用いられることが多かったが、最近ではゴシック体も見られる。活用のある用言終止形を見出し語とする辞書が大半である。
漢字表記現在では「常用漢字表」あるいは「人名用漢字表」における新字体が用いられることが多い。送り仮名は「送り仮名の付け方」(昭和48年6月内閣告示)に従っているものが多い。

語義がほぼ同じである場合は、見出しの表記が少々異なる語も一つの項にまとめられる。語義が異なる場合には別項とする(例:じてん【字典】、じてん【辞典】、じてん【事典】)。
排列

近代以後の古語辞典は、項目を五十音順に排列する[注 1]。個々の辞典によって細部は異なるが[注 2]、基本的なルールはだいたい同じである。また、「ゝ・ゞ・?・?・々」などの踊り字固有名詞以外では見出し語に使用せず、ひらがなが用いられる。

清音濁音半濁音については、そのまま清音、濁音、半濁音の順となる(例:はり【玻璃】、ばり【罵詈】)。

直音促音拗音については古語辞典により異なる。促音、拗音については直音で収録されている場合もある。

複合語についても古語辞典により異なる。

完全に独立項目とするもの(例:こごきょういく【古語教育】やこごしんぎかい【古語審議会】をこご【古語】とは別項目として配置)。

親項目に続けてインデントを下げて配置するもの(例:こごきょういく【古語教育】やこごしんぎかい【古語審議会】をこご【古語】を親項目としてその中に配置)。


同音の場合の配列についても古語辞典により異なる。

用言についても古語辞典により異なる。

終止形として完全に独立項目とするもの(例:ほきうた【祝き歌】やほきたてまつる【祝き奉る】をほく【祝く】とは別項目として配置)。

連用形として親項目として続けてインデントを下げて配置するもの(例:ほきうた【祝き歌】やほきたてまつる【祝き奉る】のほき【祝き】を親項目としてその中に配置)。


種類

目的や用途に応じて、規模や基本方針が異なる。概ね以下の2種類がある。
古語辞典

用例全文に現代語訳を施していない従来型のもの。用例全文に現代語訳がなくても理解できる上級者向け。同じサイズであれば全訳古語辞典よりも収録語数が多い[注 3]

古語辞典の名を持つ最初のものは、1929年(昭和4年)に刊行された松岡静雄編『日本古語大辞典』であるが、これは出典を上代文献に限定しており、収録語彙にも偏りがある[4]。古語辞典の先駆といえるのは、1932年(昭和7年)に刊行された江波煕編『参考古語辞典』で、学習用と同時に受験参考書用に編纂されており、今日の形式の原型を示している[5]。なお、現代における典型的な古文学習用の古語辞典は、1953年(昭和28年)に刊行された三省堂編修所編『明解古語辞典』が最初である[6]
全訳古語辞典

用例全文に現代語訳を施してあるもの。対象が高校生などの初学者であるのと、用例全文に現代語訳を施す分、手頃なサイズに収まるよう、従来の古語辞典よりは収録語数を抑えている。1987年(昭和62年)に刊行された北原保雄編『全訳古語例解辞典』以降、多数の学習古語辞典が取り入れている[6]
歴史「日本語#辞書」および「日本語学#歴史」も参照
近世以前「国語辞典」を参照
近世

近世には、石川雅望『雅言集覧』、太田全斎『俚言集覧』、谷川士清『和訓栞』といった辞書が出た[注 4]。『俚言集覧』は俗語方言などを収めたもので[13][14][15]、『雅言集覧』は和歌や擬古文で使用される語彙を網羅的に集めたものであり[13][16][17]、いわば前者は国語辞典であるが、後者は古語辞典である。『和訓栞』は本格的な五十音順の辞書であり、前編は古語・雅語、中編は雅語を収めた古語辞典、後編は方言・俗語を収めた国語辞典で、見出し語の下に語釈・用例をかなり細かく示している[注 5]
近代以降戦前まで

近代国語辞典の始まりは『言海』であると一般に認められている。『言海』は1875年(明治8年)2月起草、1884年(明治17年)脱稿、これを4分冊にして1889年(明治22年)5月に第1版を刊行、1891年(明治24年)4月に完結した後、1冊にまとめられ、大正末年までに四百数十版を重ねた[19]。『言海』以前にも辞書の形式を備えたものがないわけではなかったが[注 6]、収載された語彙が豊富なのと語釈が精確なのとをもって、日本の辞書史上に不朽の足跡をのこす労作であった[22]。しかし、時代の推移にもとづく新語の増補のないまま版を重ねてきたこと、もともと古語の多いこと、また漢語の多くはむしろ漢和辞典に譲っていることなどの点から、次第に古語辞典としての価値しかもたなくなってしまった[23]
戦後から現代まで「主要な古語辞典」を参照
主要な古語辞典

ここでは、一般向け古語辞典と高校生以降を対象とする高校生 - 一般向け(ここでは、端書きに高校生向けと記載されているものも指す)辞典を五十音順に出版社ごとに列記する。この中には現在、絶版になっているものも含む。一般書店では小型版が主流である。
岩波書店

同社の代名詞『広辞苑』で有名。古典の文学全集としては日本最大の『日本古典文学大系』を有する。
岩波古語辞典


大野晋佐竹昭広前田金五郎【編著】 収録語43,000 小型 一般向け
同社を代表する古語辞典。1974年に初版刊行以降、1990年の補訂版まで刊行。用言の見出し語が終止形ではなく連用形であるのが特徴で、その用言から派生した言葉は全てその見出し語の下に追い込んであるほか、上代特殊仮名遣ローマ字で示すなどの工夫を凝らしている[24]。また、スマートな語釈に定評がある姉妹版の『岩波国語辞典』とは対照的に、語源について詳しく、語義の説明に独特の蘊蓄が傾けられているが[25]、これについては「その解説が適当かどうかを判断する力が求められる」という意見があり[26]、注意を要する。
旺文社

古くからの古参で、受験、学習用に強みを持つ。古語辞典の類も多く、改訂も盛んに行っている。デジタルコンテンツへの取り組みにも積極的である。
旺文社古語辞典


松村明山口明穂和田利政【編著】 収録語43,500 小型 高校生 - 一般向け
同社を代表する古語辞典。1960年に初版刊行以降、2015年の第十版増補版まで刊行。初版発行より55年以上のロングセラーで、累計売上は2001年の第九版発行時点で1,100万部にのぼる。収録語数は小型古語辞典としてはトップクラスで、見出し語を3段階の重要度別に表示している。古語辞典の中でもオーソドックスな語義の解釈に定評がある。「語意・語感」「学習」「基本義」などの特設欄で語を解説し、用例も豊富に採録している[27]。巻末にはカラー付録として、図版が収録されており、別冊付録として『助動詞・助詞の早わかり表と百人一首の手引き』が付いてくるのが特徴[28]。一方、電子辞書版もあり、その特徴について記述する。電子辞書ならではの特徴であるが、2016年9月現在、本書『旺文社古語辞典 第十版』も後述する姉妹版の『旺文社全訳古語辞典 第四版』と併せてカシオ計算機の『エクスワード(EX-word)』に搭載されているモデルがあり[29]、同時に検索することもできる。そのため、電子辞書が登場する前は、基本は全訳古語辞典で調べ、全訳古語辞典に見出し語や語義が見つからない場合に、非全訳ながらも収録語数の多い古語辞典から調べるといった使い方をする場合に、従来は手間のかかる作業だったのだが、電子辞書の登場によって瞬時に行えるようになった。
旺文社全訳古語辞典


宮腰賢石井正己小田勝【編著】 収録語22,500 小型 高校生 - 一般向け
同社を代表する全訳古語辞典。1990年に初版刊行以降、2011年の第四版まで刊行。オーソドックスを追求し続け、正確な訳に定評がある。大学入試で求められる訳し方を意識して、用例の訳が逐語訳である。教科書と過去5年分の大学入試問題を分析し、収録語を決定している。重要語の核となるニュアンスがわかる「重点義」、表現技法を図示した見出し和歌・俳句、語彙・読解問題に役立つ「慣用表現」欄などを盛り込み、古典を学ぶ上で間違いやすい点、わかりにくい点、覚えておくと便利な事柄などを重点的に解説している。巻頭カラーページでは、服装・武具・調度・動植物・色などに関する図版が収録されている[30]。古語辞典の中では、電子辞書やスマートフォンの電子辞書アプリのパイオニアであり、1992年にセイコーインスツルが辞書の文字情報をフル収録した『TR700』を発売して以降、電子辞書のシェアはセイコーインスツルがトップだったが、2001年にカシオ計算機が高校生向けに電子辞書に初めて搭載される古語辞典として本書『旺文社全訳古語辞典 第二版』を『エクスワード(EX-word)』に搭載したモデル『XD-S1200』を発売して以降、一躍カシオ計算機が電子辞書のシェアでトップに立ち、電子辞書のシェアはカシオ計算機の独壇場になる転機となった[31][32][33]。以来、エクスワードの古語辞典の搭載されたモデルに本書が選ばれることが多く、同社の『旺文社古語辞典』も併せて搭載されたモデルが出るようになり、2006年にPCのソフトウェア[34]、2011年にiOS向けスマホアプリ[35]が発売されるなど、デジタルコンテンツへの取り組みにも積極的である。
旺文社全訳古語辞典小型版


宮腰賢・石井正己・小田勝【編著】 収録語22,500 小型
旺文社全訳古語辞典の小型版。1997年に旺文社全訳古語辞典第二版を刊行以来、携帯に便利な小型版も刊行している。
旺文社全訳学習古語辞典


宮腰賢・石井正己・小田勝【編著】 収録語12,200 小型 高校生向け
高校生の学習用途に特化した全訳古語辞典。2006年刊行。通常、同サイズの古語辞典は3段組の紙面であることが多いが、2段組の紙面で、初学者にも見やすく紙面を編成している。古語辞典としては、漢文の囲み記事があるのがユニークである。巻末には高校古典の教科書で用いられる定番教材を集めた、『古文五〇選』が収録されており、原文の左側には、品詞分解の傍注が付いており、単語ごとに分解して、辞書で調べるための手助けとなる[36]
旺文社高校基礎古語辞典


旺文社【編著】・古田東朔【監修】 収録語15,800 小型 高校生向け
高校生の学習用途に特化した古語辞典。1988年に初版刊行以降、1996年の第二版まで刊行。古語辞典と古典便覧参考書の合体と高校授業と入試に直結がコンセプト。他の辞書に比べて収録語は少ないが、解説は初学者でもわかるように非常に丁寧である。用例は教科書・大学入試問題から採用し出典を明示している[37]
学研教育出版

受験・教育系に強みを持つ。
学研全訳古語辞典


金田一春彦【監修】・小久保崇明【編著】 収録語26,000 小型 高校生向け
同社を代表する全訳古語辞典。2003年に初版刊行以降、2014年の改定第二版まで刊行。古典学習・入試対策を用途とする。最重要語に語義の変遷の囲み記事を設け、重要教材を読み解く力を養うためのコラムを新設した。古典教科書から用例を採集。古語辞典では初めて用例の出典にジャンルと時代を明示した[38]
角川書店

小型漢和辞典『新字源』で有名。日本最大の収録語数を有する『角川古語大辞典』を有する。古語辞典の類も最も多い。発行は角川学芸出版が行っている。
角川古語大辞典


中村幸彦岡見正雄阪倉篤義【編著】 収録語100,000 大型 一般向け
同社を代表する古語辞典であり、日本最大の収録語数を有する。1982年に第1巻(あーか)を刊行以降、1999年の第5巻(ひーん)まで刊行。2012年にプリントオンデマンド版を刊行。古今雅俗にわたる10万余語を採択。中世・近世語多数。人名地名等の百科事典的説明も充実[39]日本語の成り立ちと歴史・語の変遷の詳説・適切な用例など、斯界の権威による集団討議を経た、古語辞典の最高峰である[40]
角川古語大辞典CD-ROM版


角川古語大辞典編纂委員会【編著】 収録語95,000 大型 一般向け
『角川古語大辞典』のCD-ROM版。2002年刊行。全5巻、40年の歳月をかけて完成した、9万5千項目の『角川古語大辞典』の完全CD-ROM版。出典、作者、地名等さまざまな角度からの検索も可能[41]


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