原核生物
[Wikipedia|▼Menu]
典型的な原核細菌の構造

原核生物(げんかくせいぶつ、: prokaryote, or procaryote[1])は、や他の結合細胞小器官を持たない単細胞生物である[2]。原核生物という用語は、古代ギリシア語の πρ? (pro)「前」と κ?ρυον (karuon)「仁、核」に由来する[3][4]エドゥアール・シャットンの研究に基づく2帝系(英語版)では、原核生物は原核生物帝(Prokaryota)に分類されていた[5]。しかし、分子的分析に基づく3ドメイン系(英語版)では、原核生物は 細菌(Bacteria、旧: Eubacteria)と古細菌(Archaea、旧: Archaebacteria)の2つのドメインに分けられる。細胞核(核)を持つ生物は、第3のドメインである真核生物(Eukaryota or Eucarya)に位置づけられる[6]

原核生物は真核生物よりも先に進化し、真核細胞を特徴づける核、ミトコンドリア、その他の明確な細胞小器官のほとんどを持たない。かつては、原核生物の細胞質内に細胞構成要素は存在しないと考えられていたが(細胞外膜を除いて)、タンパク質の殻(例:エンカプスリン・タンパク質ケージ(英語版))に囲まれた準細胞小器官と考えられる細菌微小区画(英語版)が[7][8]、他の原核生物の細胞小器官とともに発見された[9]シアノバクテリアのような一部の原核生物は、単細胞である一方で、バイオフィルムによってまとまったコロニーを形成することがあり、大きなコロニーでは多層の微生物マット(英語版)を形成することがある。粘液細菌のように、生活環に多細胞の段階を含むものもある[10]。原核生物は無性生殖を行い、配偶子の融合を伴わない二分裂によって生殖するが、遺伝子の水平伝播は起こりうる。

分子的研究(英語版)は、生命の3ドメインの進化と相互関係について洞察を与えてきた[11]。原核生物と真核生物の区別は、2つの大きく異なるレベルの細胞組織の存在を反映している。染色体DNAを含む皮膜を持つ核と、ミトコンドリアなど他の特徴的な膜結合細胞小器官を持つのは真核細胞だけである。原核生物の特徴的な種には、好極限性細菌メタン菌があり、これらはいくつかの極限環境でよく見られる[2]
歴史

原核生物と真核生物の区別は、微生物学者のロジャー・スタニエ(英語版)とC・B・ヴァン・ニールが1962年に発表した論文『The concept of a bacterium(細菌の概念)』[12]で確立された(ただし、原核生物はprocaryote、真核生物はeucaryoteと表記された)。この論文では、1937年のエドゥアール・シャットンの著書『Titres et Travaux Scientifiques』[13]を引用してこれらの用語を使用し、区別を認めている。このような分類をした理由の一つは、当時はよく藍藻類(らんそうるい、: blue-green algae)と呼んでいたもの(現在のシアノバクテリア)を植物として分類せず、細菌と合わせたグループにするためであった。
構造「細菌の細胞構造」および「古細菌#細胞の形態・構造」を参照
細胞構造

原核生物の細胞骨格は、真核生物のそれよりも原始的である。アクチンチューブリン相同体(MreB(英語版)とFtsZ)の他に、鞭毛(べんもう)を構成するらせん状に配列したフラジェリンは、細菌の基本的な細胞生理反応である走化性の構造的基礎を提供することから、細菌で最も重要な細胞骨格タンパク質の一つである。少なくとも一部の原核生物はまた、原始的な細胞小器官と見なせる細胞内構造体を含んでいる。

膜系細胞小器官(細胞内膜)は、光合成や化学無機栄養(英語版)などの特殊な代謝特性に特化した液胞や膜系など、いくつかの原核生物のグループで知られている。さらに、いくつかの種には、特定の生理的役割を担う炭水化物に包まれた微小区画が存在する(たとえば、カルボキシソームやガス空胞)。

原核細胞の構成要素構造
鞭毛(常に存在するとは限らない)グラム陽性菌グラム陰性菌の両方で使われる、細胞の運動を助ける長い鞭状の突起。
細胞膜細胞の細胞質を取り囲み、細胞内外との物質の流れを調節する。
細胞壁マイコプラズマ属テルモプラズマ属を除く)ほとんどの細胞で外側を覆い、菌体を保護し、形状を与える。
細胞質主に水で構成されるゲル状の物質で、酵素、細胞構成要素、さまざまな有機分子を含む。
リボソームタンパク質生成を担う細胞構造体。
核様体原核生物の単一のDNA分子を含む細胞質の領域。
細胞外被(糖衣とも。一部の原核生物の種のみ)細胞膜を取り囲む糖タンパク質-多糖類の皮膜。
細胞質封入体(英語版)リボソーム細胞質マトリックス中に散在する大きな塊などの封入体(英語版)。

大きさ原核生物と他の生物や化合物の大きさの比較

ほとんどの原核生物の大きさは1 μm-10 μmであるが、0.2 μm(マイコプラズマ・ジェニタリウム)から750 μm(チオマルガリータ・ナミビエンシス(英語版))までさまざまである。
形状

原核細胞はさまざまな形状をしている。細菌の基本的な形は、次の4つである[14]

球菌 - 球形または卵形の細菌は球菌(複: cocci、単: coccus)と呼ばれる。たとえば、連鎖球菌、ブドウ球菌。

桿菌 - 円筒状の細菌は桿菌(かんきん、複: bacilli、単: rod, or bacillus)と呼ばれる。

らせん状細菌(英語版) - 桿菌の中にはらせん状にねじれたものがあり、スピリラ(複: spirilla、単: spirillum)とも呼ばれる。

ビブリオ - 巴(ともえ)形、コンマ型のもの。

古細菌のハロクアドラトゥム属(英語版)は、平らな四角形の細胞である[15]
生殖
無性生殖

細菌と古細菌は無性生殖を行い、通常は二分裂によって生殖する。それでも遺伝子交換や組み換えは起こるが、これは遺伝子の水平伝播の一形態であって複製過程ではなく、単に細菌接合(英語版)のように2つの細胞間でDNA転移を伴うだけである。
DNA転移

原核細胞間のDNA転移は細菌と古細菌で起こるが、主に細菌で研究されてきた。細菌では、遺伝子転移は3つの過程で起こる。すなわち(1)細菌ウイルス(バクテリオファージ)を介した形質導入、(2)プラスミドを介した接合(英語版)、(3)自然形質転換である。バクテリオファージによる細菌遺伝子の形質導入は、宿主細菌の適応というよりも、ウイルス粒子の細胞内集合の際の偶発的な誤りを反映しているようである。細菌DNAの転移は、(細菌遺伝子ではなく)バクテリオファージの遺伝子の制御下にある。よく研究されている大腸菌(Escherichia coli)系における接合はプラスミド遺伝子によって制御されており、ある細菌宿主から別の宿主にプラスミドの複製を分配するための適応である。この過程でまれに、プラスミドが宿主細菌の染色体に組み込まれ、その後、宿主細菌のDNAの一部が別の細菌に転移することがある。プラスミドを介した宿主細菌のDNA転移(接合)もまた、細菌適応というよりは、偶発的な過程のようである。

自然な細菌性形質転換は、培地を介したある細菌から別の細菌へのDNA転移を伴う。


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:82 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef