原子価殻電子対反発則
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曲がった電子配置の例。水分子の非共有電子対、結合原子、結合角が示されている。水の結合角は104.5° である。

原子価殻電子対反発則(げんしかかくでんしついはんぱつそく、: valence shell electron pair repulsion rule)は、中心原子を取り囲む電子対の数から個別の分子の幾何構造を予測するために化学において用いられる模型(モデル)である[1]分子の構造を最も簡単に予測できる。電子対反発理論(でんしついはんぱつりろん)やVSEPR理論と呼ばれる場合もある。頭字語の「VSEPR」は英語では"ves-pur[2]:410あるいは "vuh-seh-per.[3]と発音されている。この理論の開発者に因んでナイホルム(英語版)・ギレスピー(英語版)理論と呼ばれることもある。

VSEPRの前提は、原子を取り囲む価電子対が互いに反発する傾向にあり、ゆえにこの反発を最小化する配置を取るというものであり、これによって分子の幾何構造が決定される。ギレスピーは、パウリの排他原理による電子-電子反発が静電反発よりも分子の幾何構造の決定において重要である、と強調している[4]

VSEPR理論は数学的波動関数ではなく可観測の電子密度に基づいており、ゆえに軌道混成とは関係がないが[5]、どちらも分子の形状に対処する。VSEPRは主として定性的であるものの、電子局在関数(英語版)やAtoms in moleculesの量子論(英語版)(QTAIM)といった量子化学トポロジー(QCT)法において定量的基礎を持つ[4]
目次

1 歴史

2 概要

3 反発の度合い

4 AXE法

5 出典

6 関連項目

歴史

分子の幾何構造と価電子の数(共有および非共有)との間の相関関係の着想は1939年に槌田龍太郎によって最初に提唱され[6]、それとは独立に1940年にオックスフォード大学のネビル・シジウィック (英語版)とハーバート・パウエルによってベーカー講義(英語版)で述べられた[7]。1957年、ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンのロナルド・ギレスピーとロナルド・シドニー・ナイホルムがこの概念をより詳細な理論へと洗練させ、様々な代替構造間からの選択を可能にした[8][9]

近年、VSEPR理論は科学的正確性と教育上の価値の両方の視点から時代遅れのモデルとして批判されてきた[10]。具体的には、VSEPR理論における水およびカルボニル化合物の等価な孤立電子対は、分子オービタル自然結合オービタルの対称性(σ vs. π)における根本的な相違を無視している。この違いは化学的に重要なことがある。そのうえ、孤立電子対が結合性電子対「よりも大きい」ことを示唆する計算的または実験的証拠はほとんど存在しない。分子構造を説明するための単純なモデルとしてベント則(英語版)がVSEPR理論を置き換えることができると提案されている。にもかかわらず、VSEPR理論は単純な分子の構造と電子分布の本質的要素の多くを捕えており、ほとんどの学部の一般化学の講義で教えられ続けている。
概要

VSEPR理論は、分子中の非水素原子の周りの電子対の配置を予測するために用いられる。分子は特に単純で対称性を持ち、中心的な原子が2つ以上の原子との結合に関与しているものが対象となる。これらの重要な原子と幾何と非共有電子対が次により大きな分子全体の幾何構造を決定する。

中心原子の原子価殻中の電子対の数は分子のルイス構造を描き、全ての結合基と非共有電子対を示した後に決定される[2]:410?417。VSEPR理論では、二重結合または三重結合は単一の結合基として扱われる[2]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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