単振動
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単振動のアニメーション

単振動(たんしんどう、Simple harmonic motion)とは、量の時間変化が三角関数の正弦関数または余弦関数で表される振動である。調和振動(ちょうわしんどう)や、単調和振動、調和運動とも呼ばれる[1][2]。余弦関数(コサイン)を使った表現では、 x = A cos ⁡ ( ω t + ϕ ) {\displaystyle x=A\cos(\omega t+\phi )}

という形で表現される。単振動の表現にはいくつかのバリエーションがあり、三角関数の他に複素指数関数による表現もよく使われる。一般に、次の形で表される微分方程式(定数係数斉次2階線形常微分方程式)の一般解は単振動となり、この形の方程式は単振動の方程式として知られる。 d 2 x d t 2 + ω 2 x = 0 ( ω > 0 ) {\displaystyle {\frac {d^{2}x}{dt^{2}}}+\omega ^{2}x=0\quad (\omega >0)}

単振動は、振動現象あるいは波動現象における最も単純な形の振動であり、様々な物理現象を記述するとても重要な概念といえる。単振動の代表例は、減衰が無いと仮定したときの、フックの法則に従うばねで吊り下げられた重りの振動である。単振動を起こすは、一般に調和振動子と呼ばれる。単振動の重ね合わせ(単振動同士の和)も、振動・波動の様々な場面で現れる。直角2方向にそれぞれ単振動する点はリサジュー図形と呼ばれる軌跡を描く。
余弦関数による表現と基礎用語単振動のグラフ。横軸 t 縦軸 x 。

何かの量が時間経過に応じて変動しているとする。この量 x が単振動するとき、 x と時間 t の関係は余弦関数 cos によって x = A cos ⁡ ( ω t + ϕ ) {\displaystyle x=A\cos(\omega t+\phi )}

と記述できる[3]。変化量 x には変位圧力電圧電流といったさまざまな量を当てはめることができる[3]。x が電流あるいは電圧の場合は、単振動ではなく正弦波と呼ぶこともある[4]。ただし、物理学の波動分野では、空間と時間を独立変数として正弦関数で表される進行波を指して正弦波と呼ぶ[5][4]

単振動の場合、上式の A, ω, φ は全て時間に依存しない定数である[6]。式中の各パラメータの詳細は次のとおりである。

A は振幅と呼ばれる[7]。一般的に A の値はとする[8]。x が物体の変位の振動を意味しているとすれば、変位の中立位置 (x = 0) から最大値に相当する[9][10]。x の値が A と −A の間を往復する振動となる[8]

cos の中身 ωt + φ は位相と呼ばれる[10]。三角関数の中身であるため、位相は物理的次元を持たない無次元量で、しばしば角度とみなしてラジアン単位をあてる[11]。ωt + φ を位相角とも呼ぶ[9]。三角関数の性質によって、位相が 2π 増えるたびに、x は同じ値に戻ることになる[12]。ここで π は円周率である。

φ は初期位相や初期位相角と呼ばれる[13][9]。これは、φ が t = 0 のときの位相の値を意味しているためである[13]。φ を位相定数と呼んだり、単に位相角とも呼ぶこともある[14][7]。φ に 2π の整数倍を加えた値、すなわち φ, φ ± 1 × 2π, φ ± 2 × 2π, … はいずれも同じ振動を表す[15]。これらの中から、式がなるべく簡単になるように φ の値を決めることができる[15]

ω は角振動数や円振動数、角周波数と呼ばれる[16][17]。振幅と同じく、一般的に ω の値は正とする[8]。角振動数は、単位時間当たりの位相の変化量、あるいは位相の変化率を意味している[11]。単位は rad/s(ラジアン毎秒)または 1/s(毎秒)か Hz(ヘルツ)となる[7][17][11]

上述のとおり、位相が 2π 増えるたびに x は同じ値に戻る[12]。位相が 2π 増えるのに必要な時間を周期と呼ぶ[8]。周期は記号 T などで表される[8]。周期の定義より、周期 T と角振動数 ω には 2 π = ω T {\displaystyle 2\pi =\omega T}

という関係があるから、T は ω によって次のように表される[8]。 T = 2 π ω {\displaystyle T={\frac {2\pi }{\omega }}}

また、周期の逆数 1/T を振動数あるいは周波数と呼ぶ[18][17]。振動数は記号 f や ν などで表され、角振動数によって表現すれば f = ω 2 π {\displaystyle f={\frac {\omega }{2\pi }}}

となる[19][17]。振動数は 1 秒間に振動する回数を意味しており、単位は Hz(ヘルツ)である[17]。混乱のおそれが無い場合は、角振動数 ω を指して単に振動数と呼ぶこともある[13][17]。ただし、ω の値と f の値が 2π 倍違う点には常に注意を要する[10]
その他の表現
正弦関数による表現

単振動は、下記に示すように他の形でも表現できる。どの形の表現が便利かは場合に依る[20]。正弦関数 sin を用いた場合、単振動は x = A sin ⁡ ( ω t + ϕ ) {\displaystyle x=A\sin(\omega t+\phi )}

と表される[21]。しかし、初期位相 φ の値を変えれば、sin の式でも cos の式でも全く同一の運動を表すことができる[8]。そのため、単振動を sin で表すか cos で表すかの違いに重要性は無い[8]。同一の単振動を、cos で表現したときの初期位相を φ とし、sin で表現したときの初期位相を φ′ とすれば、 ϕ = ϕ ′ − π 2 {\displaystyle \phi =\phi ^{\prime }-{\frac {\pi }{2}}}

という関係になる[16]。cos 形式の単振動を sin 形式に置きかえるときは、cos 形式だったときの初期位相に π/2 を加えてずらせばよい[12]
余弦関数と正弦関数の和による表現

単振動は、次のような余弦関数と正弦関数の和の形でも表現できる[14]。 x = B 1 cos ⁡ ω t + B 2 sin ⁡ ω t {\displaystyle x=B_{1}\cos \omega t+B_{2}\sin \omega t}

ここで、B1 と B2 は定数である[14]。単振動の正弦関数による表現 x = A sin ⁡ ( ω t + ϕ ) {\displaystyle x=A\sin(\omega t+\phi )}

と比較すると、B1、B2 は振幅 A、初期位相 φ と次のような関係がある[14]。 A = B 1 2 + B 2 2 {\displaystyle A={\sqrt {B_{1}^{2}+B_{2}^{2}}}} tan ⁡ ϕ = B 1 B 2 {\displaystyle \tan \phi ={\frac {B_{1}}{B_{2}}}}

自由振動の問題などでは、振幅と初期位相が既知として与えられるのではなく、t = 0 のときの x の値、および t = 0 のときの x の速度(後述参照)の値が与えられ、単振動の形が定まる[22]。これらの値を x0、v0 と表すとする。 この cos と sin の和の形式の場合、cos 側が x0 を表現する役割を持ち、sin 側が v0 を表現する役割を持つ[23]。すなわち、x0 と v0 が与えられたときの単振動は、下記のように表現できる[22]。 x = x 0 cos ⁡ ω t + v 0 ω sin ⁡ ω t {\displaystyle x=x_{0}\cos \omega t+{\frac {v_{0}}{\omega }}\sin \omega t}
複素指数関数による表現複素指数関数の実部・虚部

e をネイピア数、i を虚数単位とすれば、複素指数関数とは αeiβ の形式で表現される関数である[24]。単振動は、次のような複素指数関数の実部または虚部を取ったものに相当する[25]。 x = Re ( A e i ( ω t + ϕ ) ) = A cos ⁡ ( ω t + ϕ ) {\displaystyle x={\mbox{Re}}(Ae^{i(\omega t+\phi )})=A\cos(\omega t+\phi )} x = Im ( A e i ( ω t + ϕ ) ) = A sin ⁡ ( ω t + ϕ ) {\displaystyle x={\mbox{Im}}(Ae^{i(\omega t+\phi )})=A\sin(\omega t+\phi )}

ここで、Re() は括弧内の複素数の実部を取ることを意味し、Im() は括弧内の複素数の虚部を取ることを意味する[25]。複素指数関数と三角関数にはオイラーの公式より、 A e i ( ω t + ϕ ) = A cos ⁡ ( ω t + ϕ ) + i A sin ⁡ ( ω t + ϕ ) {\displaystyle Ae^{i(\omega t+\phi )}=A\cos(\omega t+\phi )+iA\sin(\omega t+\phi )}

という関係があるため、上記の式が導かれる[26]。複素指数関数の定数係数 A を複素数 Ac に拡張すれば、φ を陽に表さずに次のように表現できる[27]。 A cos ⁡ ( ω t + ϕ ) + i A sin ⁡ ( ω t + ϕ ) = A c e i ω t {\displaystyle A\cos(\omega t+\phi )+iA\sin(\omega t+\phi )=A_{c}e^{i\omega t}}

ここで、定数係数 Ac は A および φ と次のような関係である[27]。 A c = A cos ⁡ ϕ + i A sin ⁡ ϕ {\displaystyle A_{c}=A\cos \phi +iA\sin \phi }

したがって、この形式では、振幅 A と初期位相 φ の情報は複素数 Ac の中に含まれる[27]。複素数に拡張された振幅は複素振幅と呼ばれる[28]

複素指数関数の形式は微分・積分しても関数の形が変わらないという利点がある[29]


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