南極海捕鯨事件
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南極海でのシーシェパードによる日本の捕鯨活動妨害については「シーシェパード」をご覧ください。
国際司法裁判所がおかれている平和宮

映像外部リンク
Whaling in the Antarctic (Australia v. Japan: New Zealand intervening) ? Delivery of the Court’s Judgment (31 March 2014) - 本案判決の映像。国際司法裁判所。

南極海捕鯨事件(なんきょくかいほげいじけん、英語:Case concerning Whaling in the Antarctic、フランス語:Affaire du Chasse a la baleine dans l'Antarctique)とは、日本による第二期南極海鯨類捕獲調査(以下JARPA II)の国際法上の是非を巡って、2010年5月31日にオーストラリアが日本を国際司法裁判所提訴した国際紛争である[1][2]。日本が国際司法裁判所の紛争当事国となる初めてのケースであり、3年間におよぶ提訴内容の調整を経て、2013年6月に口頭弁論が開始された[3]。2014年3月31日に本案判決が下され裁判は終了した[4][5]。その内容は日本にとって全面敗訴に等しいものとなった[6]
経緯「日本の捕鯨#調査捕鯨」も参照ミンククジラ。

1982年に国際捕鯨委員会(International Whaling Commission: 以下IWC)で商業捕鯨モラトリアムが採択された結果、1985/86年捕鯨シーズンより大型鯨類の商業的捕獲が禁止された。日本は米国からの圧力により異議申立を取り下げた一方、国際捕鯨取締条約第8条では調査を理由に捕鯨が認められていると解釈し、同条に基づく特別許可を1987/88年捕鯨シーズンから発給し、南極海での調査捕鯨(Japanese Whale Research Program under Special Permit in the Antarctic: JARPA I)を開始した。初年度の1987/88年シーズンにはミンククジラ300頭の捕獲枠を設定し、1988/89シーズンから1994/95シーズンまでは毎年330頭、1995/96から2004/05シーズンまでは毎年440頭に捕獲枠を増加させ、計6,795頭のミンククジラを捕獲した[7]

2005/06シーズンからは新たな計画JARPA IIが開始された。JARPA IIでは、ミンククジラの捕獲枠を935頭に倍増させた上で、ナガスクジラ(ワシントン条約付属書I掲載種)10頭の捕獲枠を新設、2007/08シーズンからはナガスクジラの捕獲枠を50頭に増加させた上で、ザトウクジラ(ワシントン条約付属書I掲載種)の捕獲枠50頭も新設して規模を拡大した。なお、ザトウクジラについては、反捕鯨国の世論を考慮して捕獲枠を維持したまま捕獲を延期し続けた(この一方JARPA II調査計画ではザトウ50頭が必要サンプル数と表明されており、この計画書の改訂がなされなかったことから、ICJで問題とされた)[7]

2007年、IWCでは南極海の特定海域で鯨類を死に至らしめるような調査捕鯨を一旦中止するよう日本に求める決議が採択されたが[2][8]、日本はこの後も調査捕鯨を継続した[2][9]

2007年オーストラリア連邦総選挙(英語版)では、日本の調査捕鯨に対して法的措置を採ることを公約に掲げたオーストラリア労働党が勝利した[2]。同党は選挙後に日本に対する法的措置を念頭に置き外交交渉を開始したが、この交渉が決裂したことを受け[2]、2010年5月31日、日本を国際司法裁判所に提訴した[1][2]
管轄受諾宣言

オーストラリアが主張する国際司法裁判所の管轄権は、国際司法裁判所規程に従った両国の選択条項受諾宣言に基礎を置いている[2][10]。以下両国の管轄受諾宣言を概説する。

オーストラリアの管轄受諾宣言要約[11]日本の管轄受諾宣言要約[11]
オーストラリアが、国際司法裁判所規程第36条2の規定に従い、国際司法裁判所の管轄を、同一の義務を受諾する他の国に対する関係において、当然かつ特別の合意なしに義務的であると認めることを宣言する。この宣言は国際連合事務総長に宣言の終了を通告するまで効力を有する。

ただし以下の場合を除く。
a.紛争当事国が他の平和的紛争解決手続きに付託することに同意をしている場合
b.海洋水域(領海、排他的経済水域、及び大陸棚)の画定に関する(concerning)紛争、もしくは関連している(related to)紛争を除く。及び、海洋水域(領海、排他的経済水域、及び大陸棚)が係争中である海域もしくはこれに隣接する海域の開発利用から生じるか、開発利用に関するか、もしくは開発利用に関連している紛争の場合を除く。
(以下略)
2002年3月22日外務大臣 アレクサンダー・ダウナー(英語版)日本国が、国際司法裁判所規程第36条2の規定に従い、国際司法裁判所の管轄を、同一の義務を受諾する他の国に対する関係において、相互条件で、当然かつ特別の合意なしに義務的であると認めることを宣言する。この宣言は1958年9月15日以降に発生した紛争に適用される。

ただし紛争当事国が他の司法的、仲裁的解決に付託することに合意している場合はこの限りではない。2007年7月9日国際連合日本政府代表部特命全権大使 大島賢三

両国の宣言中に言及される国際司法裁判所規程第36条2を以下に引用する。この規程の当事国である国は、次の事項に関するすべての法律的紛争についての裁判所の管轄を同一の義務を受諾する他の国に対する関係において当然且つ特別の合意なしに義務的であると認めることを、いつでも宣言することができる。
a.条約の解釈
b.国際法上の問題
c.認定されれば国際義務の違反となるような事実の存在
d.国際義務の違反に対する賠償の義務の性質又は範囲 ? 国際司法裁判所規程第36条2

上記国際司法裁判所規程第36条2に基づき、「同一の義務を受諾する他の国に対する関係において」、原告国オーストラリアには宣言を行った他の国を一方的に国際司法裁判所に提訴する権利があり、被告国日本には宣言を行った他の国によって国際司法裁判所に紛争が付託された場合裁判所の管轄を受け入れる義務がある[注 1][11]。ただし両国ともに相手国と他の紛争解決手段について合意をしている場合については裁判所における義務的管轄を除外しており、ワシントン条約に関する紛争の外交交渉が決裂した場合には常設仲裁裁判所に付託することを定めたワシントン条約第18条が、国際司法裁判所における義務的管轄を除外する両国の合意を構成するかが争点となる[2]
両国の主張

両国の公式の主張を以下概説する。日本の調査捕鯨の模様(オーストラリア政府撮影)

オーストラリアの主張

国際捕鯨委員会では、母船式捕鯨モラトリアム(1979年採択)、商業捕鯨モラトリアム(1982年採択)、南極海@media screen{.mw-parser-output .fix-domain{border-bottom:dashed 1px}}サンクチュアリ[訳語疑問点]等付表修正を採択した結果、商業捕鯨は禁止されている[12]

この結果、現在国際捕鯨委員会で合法的に認められている捕鯨は、①商業捕鯨モラトリアム等に関して異議を申し立てた上での商業捕鯨、②先住民捕鯨、③条約第8条に基づき、科学的調査研究を第一義的目的とする捕獲に限定されている[12]

しかるに、日本の「調査」捕鯨は鯨肉の確保と販売、捕鯨会社並びに日本鯨類研究所の組織維持、及び官僚の天下りを第一の目的としており、捕獲許可発給は科学的調査を目的とするものでなければならないとの国際捕鯨取締条約第8条の規定に反している[12]

日本の「調査」捕鯨は鯨類資源管理に関する科学的貢献度はゼロに近い[12]

日本が設定した調査捕鯨捕獲頭数は、日本以外の学者の誰から統計的妥当性を支持されていない。日本側の専門家として証言したラース・ワロー(英語版)教授は、なぜこの頭数に設定されたのかわからないと証言した。日本側弁護人のアラン・ボイル教授に至っては、口頭弁論で統計学のテキストを振りかざしつつ、日本の捕獲頭数の統計的妥当性について「私はこれが何を意味するのか、まるでわかりません (I haven't the foggiest idea what that means)」とすら発言した[13]

「調査」捕鯨捕獲頭数は、ミンククジラ850頭(±10%)、ナガスクジラ50 頭、ザトウクジラ50頭と日本は設定しておきながら、実際の捕獲頭数は年々減少の一途を辿っており、2013年にはミンククジラ103頭しか捕獲していない。鯨肉が売れないから在庫調整のため捕獲頭数を削減しているのであって、「調査」捕鯨が科学とは関係がないことはここからも明白である[12]

したがって、日本の「調査」捕鯨は条約第8条で認められる科学的調査目的の特別捕獲に当たらず、非合法である[12]


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