南方振動
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エルニーニョ・ラニーニャ現象に伴う太平洋熱帯域の大気と海洋の変動

エルニーニョ・南方振動(エルニーニョ・なんぽうしんどう、英語: El Nino-Southern Oscillation、ENSO、エンソ)とは、大気ではインドネシア付近と南太平洋東部で海面の気圧がシーソーのように連動して変化し(片方の気圧が平年より高いと、もう片方が低くなる傾向にある)、海洋では赤道太平洋の海面水温海流などが変動する、各々の相が数か月から数十か月の持続期間を持つ地球規模での自然現象の総称である。

大気に着目した場合には「南方振動」、海洋に着目した場合には「エルニーニョ現象」と呼ぶことができる[1]。エルニーニョ現象と南方振動は当初は別々に議論されていたが、研究が進むにつれて両者が強く関係していることが明らかになり、「エルニーニョ・南方振動(ENSO)」という言葉が生まれた。ENSOは、大気と海洋が密接に連動した現象(大気海洋相互作用)の代表であるとともに、それが世界的な天候変化に波及するテレコネクションの代表でもある。

現在学術的には、この一連の変動現象を「エルニーニョ・南方振動(ENSO)」とし、その振れ幅の両端にあたるのが、太平洋赤道域東部の海水温が上昇する「エルニーニョ現象」、およびその正反対で太平洋赤道域東部の海水温が低下する「ラニーニャ現象」、とする考え方が一般的である。
概要直近の強いエルニーニョの観測された1997年12月の海面温度。東太平洋の赤道付近の海水温が平年より5°C以上上昇しているのがわかる。気象庁の観測と推計による、1868年以降の北緯4度 - 南緯4度から西経90度 - 西経150度(NINO.3とほぼ同じ)海域の表面海水温の変化。赤はエルニーニョ、青はラニーニャ。近年の地上平均気温の推移。エルニーニョ/ラニーニャとの関連性については、意見が分かれている。米国/フランスTOPEX /ポセイドン衛星が撮影した海面の高さの測定値を用いて作成された画像。この画像では、白、赤の領域は、蓄熱の異常なパターンを示している。
エルニーニョ詳細は「エルニーニョ」を参照

エルニーニョ現象(スペイン語: El Nino event)とは、中部・東部太平洋赤道付近において海水温が1年以上にわたって上昇する現象のことである[2]

「エルニーニョ(El Nino)」というのはもともと、南米のペルーエクアドルの国境付近の海域で毎年12月頃に発生する海水温の上昇現象を指していた[3]。地元の漁業民の間では、この時期がちょうどクリスマスの頃であることから、スペイン語で神の御子イエス・キリストを意味する「エルニーニョ(El Nino)」と呼ばれた[3]。この海域では通常は寒流ペルー海流の影響で海水温が低いものの、クリスマスの時季では暖流赤道反流の南下の影響で海水温が上昇している[4]

1950年代以降になると、数年に一度、この海水温の上昇現象が3月以降も継続し、かつ太平洋の広範囲に影響を及ぼすことが判明した[3]。これを「エルニーニョ現象(El Nino event)」とよぶ[4]

太平洋では通常貿易風(東風)が吹いており、これにより赤道上で暖められた海水が太平洋西部に寄せられるが、代わって太平洋東部には冷たい海水が湧き上がり、これを湧昇流という[5]。エルニーニョが発生するとこの暖かい海水を押し流す貿易風が弱まり、暖かい海水が東太平洋に戻るようになり、海水温度が上がる[6]

エルニーニョ現象が発生した際には、東太平洋赤道域の海水温が平年に比べて1 - 2°C前後上昇する。時に大幅な上昇を示すこともあり、1997年 - 1998年にかけて発生した20世紀最大規模のエルニーニョでは、エルニーニョ監視海域において最大で3.6°C上昇した[7]

エルニーニョに伴う海水温の変化はまずその海域の大気の温度に影響を及ぼし、それが気圧変化となって現れ大気の流れを変えて、天候を変えてという具合にして世界中に波及する。大気と海洋が密接に関連して発生する現象を大気・海洋相互作用[8]、ある地点の気圧や温度などが遠隔地間で協調しながら変化する現象をテレコネクションという[9]

具体的には海水温の「西低東高」が気温の「西低東高」、さらには気圧の「西高東低」を引き起こすことでウォーカー循環と呼ばれる従来の赤道付近の大気の循環を変化させてしまう。これがロスビー波の伝播、赤道偏東風ジェット気流亜熱帯ジェット気流(Js)の流路変化などによってドミノ式に低緯度・中緯度・高緯度へと波及し特有の気圧の変動を起こす。気圧の変化は湿・乾・暖・寒さまざまな性質を持った各地の大気の流れを変化させ、通常とは異なる大気の流れによって異常気象が起こる。

中緯度の日本においても夏は梅雨が長引き冷夏、冬は西高東低気圧配置が安定せず暖冬となる傾向がある。
エルニーニョ現象の過程
何らかの原因(波動伝播、西風バーストなど)で、太平洋を流れる赤道海流が弱まる。

海流が弱まったせいで暖水が西太平洋へ集まるスピードが弱まり、西太平洋で暖水域が広がり中部太平洋にまで暖水が広がる。

海水温上昇により中部太平洋の気圧が下がり、西風バーストの強化・東進が促される。

暖水が東太平洋にまで広がり東部赤道域の海面水温が低下し、それに対応して東太平洋の気圧が下がる。

西太平洋に向かう貿易風が弱まるなどして気圧の変化が世界中に波及し、異常気象を発生させる。

何らかの原因(赤道波の伝播、暖水の南北移動など)で太平洋を流れる赤道海流が強まり、海水温が平常の状態に戻る。

平常状態となった、気圧変化が世界中に波及し、異常気象も収まる。

ラニーニャ

ラニーニャ現象(スペイン語: La Nina)は、エルニーニョ現象と逆に東太平洋の赤道付近で海水温が低下する現象。

ラニーニャはスペイン語で「女の子」の意味である[10]。「エルニーニョ(El Nino)」の反対ということで「アンチエルニーニョ(Anti-El Nino)」と呼ばれていたこともあるが「反キリスト者」の意味にもとれるため、男の子の反対で「女の子(La Nina)」と呼ばれるようになった。

東太平洋赤道域は平年でも、同じ赤道域の西太平洋や大西洋などに比べて海水温は低い。ラニーニャの時は、東太平洋赤道域で冷たい海水の湧昇が強くなって水温が低下するとともに、サーモクライン(水温躍層)の浅い冷水海域が赤道に沿って西に拡大し、東西の温度差がさらに大きくなる。

エルニーニョと同様に、世界中に波及して異常気象の原因となる。その性質上、エルニーニョ時と正反対の異常気象になる場合がある。例えば、エルニーニョで大雨となるアマゾンではラニーニャの時は少雨・干ばつとなる。これは発生域である太平洋赤道域では顕著だが、そのほかの地域では当てはまらない場合も多い。エルニーニョが終息した反動で発生するケースもある。

エルニーニョとラニーニャは表と裏の関係はあるものの、いくつかの違いがある。それは以下の通りである。

力学的なメカニズムにより、ラニーニャによる海水温の低下はエルニーニョによる海水温の上昇ほど強くならない。

エルニーニョの次の年にはラニーニャが現れることが多いのに対し、ラニーニャは長期に渡って(2 - 3年)持続することが多い。

総論

エルニーニョ現象とラニーニャ現象はお互いにコインの表と裏のような密接な関係にあり、切り離して考えることはできない現象である。この海域の海水温や気圧の変動に関する研究が進むにつれ、エルニーニョやラニーニャは海洋と大気の相互作用によって起こることが明らかにされた。相互作用とは、太平洋の赤道付近の大気や海洋にはエルニーニョ・南方振動(ENSO)と呼ばれる一種の連動システムがあるとする考え方で、エルニーニョやラニーニャは常に変動を繰り返しているこのシステムの中で起こる現象とされる。

エルニーニョ・ラニーニャそれぞれの発生例を見ると、近年はそれぞれ約4年ごとに発生し、一度発生すると1年から1年半持続している。エルニーニョとラニーニャは交互に発生することが多い。ただし間隔を置いて発生したり、続けて2度以上発生したりすることもある。交互に発生するメカニズムとして、1980年代後半以降に遅延振動子理論(delayed-action oscillator theory)などの仮説がいくつか提案され観測データ解析などによって検証が行われている。

エルニーニョ・ラニーニャ現象の世界共通の定義はなく、各気象機関などが定めた複数の定義が存在する。その中でも、日本の気象庁と米国海洋大気局の定義が各国の研究者で学術的に広く使われている。

ちなみにエルニーニョやラニーニャが発生していない平常時の状態を「何も無い」という意味のスペイン語、ラナーダ(La Nada)と表現することもある。ただし、これはスペイン語圏においてもほとんど使われておらず、日本でも耳にすることは多くない。

エルニーニョ・ラニーニャは、数週間から数か月先の天候を予測する長期予報において大きな撹乱原因となる。猛暑の予想にもかかわらず一転して冷夏となるといった大きな予想の外れを生む原因であるため、この予測は予報精度の向上に不可欠であるとされる。
発生の根本的な原因

海水温や気圧の異常を引き起こす根本的な原因を突き止めようと研究が行われているが、根本的な原因は未だに詳しく解明されていない。しかし、一部分については解明されてきている。

まずエルニーニョの場合、海水温の異常が発生する数か月前に東から西に流れる赤道海流(北赤道海流南赤道海流)が弱まったり反転したりする現象が観測されている。


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