千年の愉楽
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『千年の愉楽』(せんねんのゆらく)は、中上健次の連作短編集。1980年7月から1982年4月にかけて「文藝」に掲載され、1982年昭和57年)8月河出書房新社から刊行された。1992年10月、河出書房新社より文庫版が刊行された。

本作を原作とした同タイトルの映画が若松孝二・監督で制作され2013年に公開されている。
小説
あらすじ

作品の舞台は和歌山県新宮市の「路地」と呼ばれる被差別部落である。「中本の一統」と称される高貴にして穢れた血に生まれて早死にを宿命づけられた若者たちの刹那的な生き様を「路地」に住まう全ての人の生き死にを記憶している産婆オリュウノオバの目を通して、マジック・リアリズムの幻想的なタッチで神話的に描いている。
半蔵の鳥
美男の血統である中本の一統の中でも群を抜いて男振りの良い半蔵は、中本の淫蕩な血に突き動かされるままに女遊びを繰り返す。しまいにはそのことで怨恨を買って男から後ろから刺されて死ぬ。
六道の辻
中本の一統の三好は、盗人などをして暮らしている。ヒロポンを打ち、ダンスホールや玉突き場で遊び暮らすが、ある時、殺人を犯してしまう。三好は身を隠すように飯場で働き始める。それからほどなく、若くして失明して、絶望して縊死する。
天狗の松
子供の頃に天狗にさらわれ神隠しに会ったことがある文彦は飯場に出かけて生計をたてている。あるとき巫女を「路地」に連れ帰る。文彦は情交中にその女を殺してしまう。また飯場に戻るも、盗みの共謀者となってしまい生きる気が抜けたようになり首をくくって死ぬ。
天人五衰
戦時の中国大陸を放浪し引き揚げて「路地」に戻ってきたオリエントの康は地廻りの頭となる。二度、銃撃を受けたが生き延びたオリエントの康は、新天地を求めて南米に渡るが、革命運動に巻き込まれて行方不明になる。
ラプラタ綺譚
盗人をして義賊のように盗品を「路地」の者に分け与えていた新一郎は、下駄直しをしたり山仕事の人夫をしたりしていたが、ある時、銀の河が流れているという南米ラプラタに渡る。しばらくして路地に戻って来た新一郎は盗人を再開するが、ほどなく水銀を飲み自殺する。
カンナカムイの翼
中本の一統の達男は十五の年で北海道の鉱山に働きに行き、アイヌの若い衆と知り合い意気投合する。達夫は鉱山の労働争議の交渉の最中に殺される。
映画

千年の愉楽
監督
若松孝二
脚本井出真理
原作中上健次
出演者寺島しのぶ
高良健吾
高岡蒼佑
染谷将太
井浦新
佐野史郎
音楽中村瑞希
ハシケン
撮影辻智彦
満岩勇咲
編集坂本久美子
製作会社若松プロダクション / スコーレ
配給若松プロダクション / スコーレ
公開 2013年3月9日
上映時間118分
製作国 日本
言語日本語
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若松孝二監督が映画化し、2013年3月9日若松プロダクションおよびスコーレ株式会社の配給で公開された。「ロケ地の三重で先行上映したい」という監督の意向により、2013年1月6日津市三重県総合文化センターで、同年2月9日尾鷲市の尾鷲市民文化会館(せぎやまホール)で先行上映されている[1]2012年10月17日に亡くなった若松の遺作となった。

2011年11月7日から11月15日まで三重県尾鷲市須賀利町ロケーション撮影が行われた[2]

また、第69回ヴェネツィア国際映画祭オリゾンティ部門に招待された。これにより、若松監督作品としては2008年から2012年までの4年間でベルリン国際映画祭の『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』(2008年)、『キャタピラー』(2010年)、カンヌ国際映画祭の『11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち』(2012年)に続き、世界三大映画祭への出品を制覇したことになる[3]
あらすじ (映画版)

「路地」と呼ばれる地域に、産婆の妻・オリュウノオバ(以下オリュウ)と毛坊主の夫・礼如の夫婦がおり、地元の人の生き死に寄り添い数十年間暮らしてきた。その「路地」には、“中本家に生まれた男たちは代々、周りの女が放っておかない容姿を持ちながら若くして不運な運命を辿る”という言い伝えがあった。

老婆となったオリュウは、奇しくも産婆として初めて取り上げたのが中本家の赤ん坊で、数年前に故人となった礼如の遺影に当時のことを語りかける。数十年前のその日、中本彦之助は礼如と2人きりで会話し、中本の先祖が犯した罪を自身が罰を受けることで“中本の汚れた血”を清めると告げた直後森の中に消えてしまう。時同じくしてオリュウは彦之助の妻の出産に立ち会い、「中本の血を背負っていようが、恐ろしいことはない」と言葉をかけて息子・半蔵を取り上げる。

生まれたその日に母子家庭となった半蔵は数年後に母までが失踪したため、「路地」にいる知人の家を転々としながら育てられ、10代後半に一時地元を出て働きに出る。その後別の町で知り合った女性と共に帰郷した半蔵は、「夫婦で「路地」で暮らすことに決めた」とオリュウと礼如に告げて2人を喜ばせる。半蔵は仲間に誘われて山仕事をするようになるが、しばらく経ったある日半蔵が浮気しているとの噂がオリュウの耳に入る。後日半蔵は、夫がいる身の女に手を付けたことがその夫にバレて刺されてしまい、知らせを聞いて駆けつけたオリュウは早すぎる彼の死を悼む。

そのやじ馬の中に「これが中本の血を引く男の最後か」とつぶやく男・田口三好がおり、姓は違うが彼もまた中本の血を引く若者だった。三好もオリュウが取り上げた子で、生来負けん気の強い彼は10代半ばで不良となり、時々顔を合わせる彼をオリュウと礼如は心配していた。


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