エビ目(十脚目)
エルンスト・ヘッケルによる様々な十脚類
分類
十脚目(じっきゃくもく)、あるいはエビ目は、甲殻類の分類群の一つである。エビ・カニ・ヤドカリを含み、世間で「甲殻類」として第一に認識されるものは、ほとんどこれに含まれる。甲殻類全体としては大型になるものが多く含まれ、人の目に触れる機会も多い。食用として利用される甲殻類は十脚類を除けばシャコ類などごく僅かになる。 頭部、胸部、腹部からなり、それぞれ6つ、8つ、6つの体節からなる(種によっては退化している体節もある)。なおカニ類には腹部がないように見えるが、これは腹部が胸部の側に折りたたまれているからである(いわゆるカニの「ふんどし」の部分)。 頭部の6つの体節のうち最初のものは先節と呼ばれ、上唇を持つ(以下では「0番目の体節」として扱っている)。詳細は「節足動物#系統関係と体節の相同性」を参照。1番目から5番目の体節には順に第1触角、第2触角、大顎、第1小顎、第2小顎がある。胸部、腹部の体節にある計14の体節には脚がある。「十脚類」という名称はこれらの14対の脚のうちエビ類が歩行に用いる5対の脚(カニ類における1対の鋏脚と4対の歩脚)から名付けられたものである。 十脚類の体節とその役割[1]ウシエビモクズガニ参考:シャコ(口脚目) 外骨格は石灰化が進んでいて硬いのが普通。背甲はよく発達して胸部全体を覆い、外見的には完全な頭胸部を形成する。背甲は胸部と背中側で癒合、側面は胸部の側面と離れてそれを囲い、その内側に鰓が収まる。そのためこの腔所を鰓室(鰓腔とも)、それを覆う背甲を鰓蓋という。 頭部にはよく発達した眼柄を持った複眼がある。また、触角は二対、第一触角は2又形、第二触角は外肢が鱗状、棘状などで枝がないように見えるものも多い。口器としては一対の大顎、それに続いて二対の小顎があるほか、胸部の最初の三節の付属肢が顎脚となって参加する。第二小顎の外肢は広がって顎船葉となり、これで鰓室に水を送る。 胸部のあとの体節の付属肢は外肢の退化傾向が強く、内肢のみの歩脚状に発達する。一部の歩脚は鋏脚になる傾向があり、特に第一脚(第四胸肢)は強大な鋏になる例がよく見られる。 腹部は群によってその外見が大きく異なる。基本的には六節と尾節からなる。各体節には一対の腹肢があり、尾肢と尾節はまとまって尾扇を形成する。いわゆるエビ類では腹部は細長くて筋肉がよく発達し、付属肢が遊泳に使われるほか、腹部を大きく撥ねるように動かすことで急速な移動ができる。ヤドカリ類では節や付属肢の退化が見られる。カニ類では腹部の退化はさらに顕著で、頭胸部よりはるかに短く小さくなってその下面に折り畳まれる。 非常に多彩。基本的には肉食だが、雑食やデトリタス食などのものも多い。寄生性のものも知られ、二枚貝の中から見つかるカクレガニ 干潟や湿地などではカニ類、ザリガニ類などがさまざまな鳥類や哺乳類の餌として重視される。他方で、スナガニ類が孵化直後のウミガメの重要な捕食者であったりと、脊椎動物が彼らの捕食対象となる例もある。 上記のように受精卵を雌が保持する例が多いが、一部は孵化後も雌がしばらく保護する例が知られる。ただしそれ以降も家族集団を作る、と言った例は少ない。しかしテッポウエビ類では真社会性のものが発見されており、昆虫以外での数少ない例として注目される。干潟などではカニ類が極めて密集した集団を形成する。これは群れというより、生息環境で規定された結果的な集団と見た方がよい。ミナミコメツキガニのように決まった巣穴をもたず集団で移動する例も知られる。また、このような密集した集団の中で雌雄の交渉や雌を巡っての雄同士の争いが見られる例も多く、動物行動学的な研究の対象となっている。このような習性面での知見は、昆虫に比べてこれまで多く知られてこなかったのは、やはり大部分が海中で起きていることであり、ヒトの眼に触れることが少なかったためと思われる。 淡水や陸に生活するものの多くは、幼生期を海中で過ごす必要がある。その際は産卵のために親が海へ下る、あるいは幼生が川の流れに乗って流下し、大きくなると川を遡上するという通し回遊をすることになる。陸生のものではある時期に一斉に海を目指して移動し、海岸で放卵する例があり、人目を引くことがある。多くはないが全生活史を淡水域、あるいは陸上で過ごすものもある。 基本的には雌雄異体で、体内受精をする。受精卵は根鰓亜目においてはそのまま放出されるが、抱卵亜目ではゾエア幼生になる頃まで雌が腹肢に保持する。根鰓亜目ではノープリウスで孵化するが、抱卵亜目はゾエア、あるいはより進んだ段階の幼生が誕生する。特に淡水生や寒海生のものでは幼生を経ず直接発生する例もある。 ゾエアは頭胸部と腹部がはっきりと分化し、胸部の付属肢が遊泳用に発達する時期であり、メガロパは腹部の付属肢が遊泳に使われる時期をいう。ただしメガロパは主にカニ類の幼生の名として使われる。またゾエア以降は群によって形態が違う点が多く、まとめてデカポディットという呼称が使われることもある。なおイセエビ類ではフィロソマ(Phyllosoma)という独特の幼生期がある。 基本的には海産で、潮間帯から深海底にまで生息する。大型種が多いので底性のものが多いが、遊泳性のもの、プランクトンとなるものもある。深海の熱水鉱床生物群 一方、淡水性の種も少なくはない。その一部はほぼ完全に陸生になっている。しかし、その多くは幼生期を海で過ごす必要があり、完全に陸域で生活を全うするものはサワガニやザリガニ類など少ない。なお、外骨格が石灰質であるから頑丈であり、陸生種の多くは昆虫に比べてはるかに大きな体格を持つ。運動性も高く力も強いので、ヤシガニに代表されるように、はさみではさまれると痛いという種類が多い。 十脚類は知覚力があると見なされており、またオーストラリアのACT、ニュー・サウス・ウェールズ、ビクトリア、ノーザン・テリトリー各州、スイス、ノルウェーは十脚動物を動物福祉法の対象としている[2][3]。イタリアでは生きた十脚動物を冷蔵室に入れたり、爪を縛って製氷皿の上にのせたなどの罪で有罪判決を受けた人が複数いる[4]。 2021年11月には、イギリス政府の審査委員会が「タコやカニや大型エビにも苦痛の感覚がある」として、同国で審議されている動物福祉法案の保護対象に感覚をもつ動物として追加した。専門家チームはこれらの生物の感覚について調べるため、300件の科学研究を調査して報告書[5]をまとめ、調査の結果、タコやイカのような頭足動物と、カニや大型エビ、ザリガニのような十脚甲殻類は、感覚をもつ存在として扱う必要があると結論付けた。
形態
頭部1第1触角感覚第1触角感覚第1触角感覚
2第2触角第2触角第2触角
3大顎食物の粉砕大顎食物の粉砕大顎食物の粉砕
4第1小顎食物を口へ運ぶ第1小顎食物を口へ運ぶ第1小顎食物を口へ運ぶ
5第2小顎第2小顎第2小顎
胸部6第1顎脚第1顎脚第1顎脚体の掃除・生殖(オス)
7第2顎脚第2顎脚第2顎脚(=捕脚)採餌・防衛・攻撃
8第3顎脚第3顎脚第3顎脚採餌
9第1歩脚(鋏脚)採餌・歩行鋏脚採餌・防衛・攻撃第4顎脚
10第2歩脚(鋏脚)第1歩脚歩行第5顎脚
11第3歩脚(鋏脚)第2歩脚第1歩脚歩行
12第4歩脚歩行第3歩脚第2歩脚
13第5歩脚第4歩脚第3歩脚
腹部14第1腹肢遊泳第1腹肢生殖第1腹肢遊泳
15第2腹肢第2腹肢第2腹肢
16第3腹肢第3腹肢生殖(雄では退化)第3腹肢
17第4腹肢第4腹肢第4腹肢
18第5腹肢退化?第5腹肢
19尾肢(=第6腹肢)退化尾肢(=第6腹肢)
外部形態
生態
生殖と発生
生息環境
感受性と保護
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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