化学物質
[Wikipedia|▼Menu]
水蒸気と液体水は、同じ純粋な化学物質、水の2つの異なる形態である。

化学物質(かがくぶっしつ、: chemical substance)とは、一定の化学組成と特徴的な性質を持つ物質の一形態である[1][2]。化学物質には、単体(単一の化学元素からなる物質)[3]化合物、または合金がある。

物理的な手段によって、より単純な構成成分に分離できない化学物質は「純粋(pure)」であると言われ[4]、この概念は混合物と区別することを意図している。純粋な化学物質の一般的な例は純水で、河川から単離されたものであっても、実験室で作られたものであっても、同じ性質を持ち、水素(H+)と酸素(O2-)の比率も同じである。純粋な形でよく目にする他の化学物質には、ダイヤモンド(炭素、C)、(Au)、食塩(塩化ナトリウム、NaCl)、砂糖スクロース、C12H22O11)などがある。しかし実際には、完全に純粋な物質ということはなく、化学物質の純度は、その化学物質の用途に応じて規定される。

化学物質は、固体液体気体プラズマなどのさまざまな状態で存在しており、温度圧力時間の変化によって、これらの物質のの間を行き来することがある。化学物質は、化学反応によって結合したり、他の物質に変換することができる。
定義さまざまな溶媒中における単一化学物質(ナイルレッド)の可視光および紫外光下での色。化学物質が溶媒環境とどのように動的に相互作用するかを示している。

一般化学の教科書には、化学物質とは「明確な化学組成を持つあらゆる物質 (en:英語版) 」と定義しているものがある[5][要ページ番号]。この定義によれば、化学物質は純粋な化学元素か、純粋な化合物かのどちらかである。しかし、この定義には例外もあり、純物質は、明確な組成と明確な特性の両方を持つ物質の一形態として定義することもできる[6]CAS(アメリカ化学会の一部門)が公表している化学物質索引には、組成が不確かな合金もいくつか含まれている[7]。また、非化学量論的化合物は、(無機化学において)一定組成の法則に反する特殊なケースであり、水素化パラジウム(英語版)の場合のように、混合物と化合物との間に境界線を引くのが難しい場合がある。化学品(chemicals)または化学物質(chemical substances)のより広義の定義として、たとえば、米国TSCA(英語版)による『「化学物質」という用語は、特定の分子的同一性を持つ有機または無機の物質(化学反応の結果または自然界に存在するこれらの物質の全部または一部の組み合わせを含む)、および元素または結合していないラジカル。』がある[8]
地質学

地質学では、均一な組成の物質を鉱物といい、複数の鉱物(異なる物質)の物理的混合物(集合岩(英語版))を岩石と定義する。しかし、多くの鉱物は互いに溶け合って固溶体を形成するため、化学量論的には混合物であるが、一つの岩石は均一な物質である。長石はその代表例で、アノーソクレースはアルカリアルミニウム珪酸塩であり、アルカリ金属はナトリウムまたはカリウムのいずれかである。
法規則

法規制上の「化学物質」の定義には、純粋な物質と、組成または製造工程が規定された混合物の両方が含まれることがある。たとえば、EUREACH規則では、「単一成分物質」、「多成分物質」、「組成が未知または変動する物質」を定義している。後者2つは複数の化学物質から構成されているが、その同一性は、直接的な化学分析によるか、または単一の製造工程を参照して確認することができる。たとえば、木炭は非常に複雑な部分的重合型の混合物であるため、その製造工程によって定義される。したがって、正確な化学的同一性は未知であるが、同定は十分な精度で行うことができる。CAS索引は混合物も対象としている。

ポリマーはほとんどの場合、モル質量が異なる分子の混合物として現れ、それぞれが個別の化学物質とみなされる。しかし、ポリマーは、既知の前駆体または反応、およびモル質量分布(英語版)によって定義することができる。たとえば、ポリエチレンは、 -CH2- 反復単位の非常に長い鎖の混合物であり、一般にLDPE、MDPE(英語版)、HDPEUHMWPEなどのいくつかのモル質量分布で販売されている。
日本の法令による定義

化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法) - 元素又は化合物に化学反応を起こさせることにより得られる化合物(放射性物質を除く)をいう。

労働安全衛生法 - 元素及び化合物をいう。なお、放射性物質は含まれない。労働安全衛生法においては、通知対象物、有機溶剤、特定化学物質などのカテゴリーに分類して規制がかけられている。化学物質全般について規制がかけられているわけではない。

特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律PRTR法)- 元素及び化合物(それぞれ放射性物質を除く)をいう。

歴史

「化学物質」という概念は、化学者ジョゼフ・プルースト塩基性炭酸銅などの純粋な化合物の組成についての研究に続き、18世紀後半に確立した[9]。彼は、「ある化合物のサンプルはすべて同じ組成を持つ。つまり、すべてのサンプルは、その化合物中に存在する元素の質量比が同じである」と推論した。現在、これは一定組成の法則(定比例の法則)として知られている[10]。その後、特に有機化学の領域で化学合成の方法が進歩し、多くの化学元素が発見され、化学物質から元素や化合物を単離・精製する分析化学の領域で新しい技術が確立されて、現代化学の確立に到ったことで、この概念はほとんどの化学の教科書で説明されているように定義されるようになった。しかし、この定義については、化学文献で報告されている多数の化学物質を索引化する必要があるという理由で、いくつかの論点がある。

異性体はまったく同じ組成を持つが、原子の配置(配列)が異なるため、初期の研究者たちは大いに驚いた。たとえば、ベンゼンの化学的同一性については、フリードリヒ・アウグスト・ケクレによって正しい構造が説明されるまで、多くの憶測があった。同様に、原子は堅固な三次元構造を持ち、そのため三次元配置のみが異なる異性体を形成できるという立体異性体という考え方も、異なる化学物質という概念を理解する上で重要な一歩となった。たとえば、酒石酸には3つの異なる異性体があり、1つのジアステレオマーが2つのエナンチオマーを形成する一対のジアステレオマーである。
化学元素天然の硫黄結晶。硫黄は元素状硫黄として、硫化物硫酸塩鉱物として、また硫化水素として天然に存在する。詳細は「元素」を参照「元素の一覧」も参照

化学元素(chemical element、元素)は特定の種類の原子から構成される化学物質であるため、化学反応によって分解したり、別の元素に変換することはできないが、原子核反応によって別の元素に変換することはできる。これは、ある元素のサンプルに含まれる原子はすべて同じ数の陽子を持つが、中性子の数が異なる同位体である可能性があるためである。

2019年現在、既知の元素は118種類あり、そのうち約80種類は安定元素で、放射性崩壊によって他の元素に変化することはない。元素の中には、複数の化学物質(同素体)で存在するものがある。たとえば、酸素は二原子酸素(O2)としても、オゾン(O3)としても存在する。元素の過半数は金属に分類される。金属は、など、特徴的な光沢を持つ元素である。典型的な金属は電気や熱をよく伝導し、展性延性がある[11]炭素窒素酸素など約14-21種類の元素は非金属に分類される[12]


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:61 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef