化学物質過敏症
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化学物質過敏症(かがくぶっしつかびんしょう)または多種化学物質過敏状態(英語: MCS:Multiple Chemical Sensitivity)とは、通常の人であれば症状を出さないような微量な環境中の化学物質に反応して、種々の多彩な症状を訴える病態で、自覚症状が基本となる自律神経系の不定愁訴や精神神経症状をはじめとする多彩で非特異的な症状を訴える[1][2][3][4][5][6]。国際化学物質安全性計画(WHO/IPCS)は、症状の原因が環境中の特定の化学物質とは断定できず、因果関係が証明できないことから「化学物質」という言葉は使わず、本態性環境不耐症(IEI:Idiopathic Environmental Intolerance)という言葉を使っている[1][7]

症状は、動悸、胸痛、発汗、息切れ、疲労、紅潮、めまいなど多彩であるが、臓器の機能障害など身体徴候が見られないものと定義される(通常の心電図や呼吸機能などの検査で異常がある場合は、他の疾患の可能性が高い)[8]。現在のところ、そのメカニズムなどについては未解明であり、診断方法や治療方法なども確立していない[9]。現在得られているエビデンスによると、化学物質過敏症は非心理的因子では説明できず、治療は心理的支援、および認知されているトリガーの回避であるが、トリガーが限定されていることはまれである[8]

MCSは、世界保健機関(WHO)、アメリカ医師会(AMA)、その他のいくつかの専門医療機関によって、化学物質が原因の病気として認められていない[10]盲検化された臨床試験では、MCS患者は化学的刺激と同様にプラセボにも強く反応することが示されており、症状の有無や重さは、化学的刺激が存在するという認識と関連している[11][12]。一般的に原因とされる物質には、香水などの香料製品、農薬、プラスチック、合成繊維、煙、石油製品、塗料などに含まれる特定できない少量の化学物質への暴露がある他、ときには電磁界に対する過敏性によっても引き起こされる[5][8]

MCSは、「室内環境に由来する健康障害」であるシックハウス症候群(SHS)と混同されることがあるが、異なる疾患概念である[1][13][14]。シックハウス症候群は、原因と考えられる環境から離れれば症状が改善するのに対し、化学物質過敏症では、特定の化学物質への接触がなくなっても症状が継続したり、全く異なる化学物質に対しても症状がみられる[13][15][1]

日本においては、北里大学石川哲により独自の診断基準が設けられ、「化学物質過敏症(英語: CS:Chemical Sensitivity)」という名称が一般に使われている[16][17]。CSと診断された症例の中には、中毒アレルギーといった既存の疾病概念で把握可能な患者が含まれており、国際的に用いられるMCSとは異なる概念であると考えられる[16][17]。また、化学物質の関与が明確ではないにもかかわらずCSと診断される傾向もあり、本病態について科学的議論を行う際の混乱の一因となっている[16]
原因

MSCの原因について、ほとんどのMCS研究者の間では、化学物質に対する過敏性とは特に関係がないということで合意されているが、これは症状が他の既知または未知の要因によって引き起こされる可能性を排除するものではない[18]。様々な医療従事者や政府機関が、原因を探りながら、症状を訴える人に適切なケアを施すことに取り組んでいる[18]

化学物質過敏状態の発症メカニズムとしては、不快と感じる化学物質に対する条件反応的な「予期(反応)」によるという説もある[14]臨床試験ではプラセボ薬のノセボ効果として身体症状が報告されている[14]。多くのMCS患者は、香水などの匂いを不快とするが、天然の植物から得られる精油の自然な香りには寛容である[14]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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