化学構造式
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ビタミンB12の骨格構造式。多くの有機分子は複雑すぎて、分子式で特定できない。

化学の分野において、構造式(こうぞうしき、: structural formula)は、構造化学的な手法で決定された化合物分子構造を図式的に表現したもので、原子が実際の3次元空間にどのように配置されうるかを示す。分子内の化学結合も明示的または暗黙的に示される。国際純正・応用化学連合(IUPAC)による定義は「分子中の原子がどのように接続され、空間中にどのように配置されているかに関する情報を与える式」である[1]

記号の数や記述力が限られた他の種類の化学式とは異なり[注釈 1]、構造式は分子構造をより完全に幾何学的に表現することができる。たとえば、多くの化学物質には、鏡像異性体的な構造は異なるものの分子式は同じである、さまざまな異性体が存在する。構造式の描き方には、ルイス構造式、示性式、骨格式(英語版)、ニューマン投影式シクロヘキサン立体配座ハース投影式フィッシャー投影式などの種類がある[3]

化学データベースで見られるように、幾何学的構造と同等で、かつ強力ないくつかの系統的な化学命形式が使用されている。これらの化学命名法(英語版)には、SMILESInChI、CML(ChemML)(英語版)などがある。これらの系統的な化学名は構造式に変換することができ、またその逆も可能である。しかし、化学者は化学反応化学合成を化学名ではなく構造式で説明することがほとんどである。それは、構造式は化学反応中に分子とその内部で起こる構造変化を視覚化することができるからである。ChemSketchChemDrawは、ユーザーが反応式や構造式(通常はルイス構造式)を描くことができる人気のソフトウェアである。
構造式における構造
結合

結合は、1つの原子と別の原子を結ぶ線として示されることが多い。1本の線は単結合を示す。2本の線は二重結合を、3本の線は三重結合を示す。構造によっては、各結合の間にある原子を特定して表示することがある。ただし、構造によっては、炭素分子を具体的に描かないこともある。その代わり、これらの炭素は2本の線を結んだときにできる角によって示される。水素原子も暗示的なものであり、通常は描かれない。こうした省略は、炭素が他の原子と何個結合しているかによって推測できる。たとえば、炭素Aが別の炭素Bと結合している場合、炭素Aはオクテット則を満たすために3個の水素を持つと見なされる[4]電子を共有する関係に基づいて結合を表している。×:原子, ・:電子、?:結合さまざまな構造式の中で、結合が他の原子とどのように接続されるかを描いている(n-ブタン) )。
電子水素原子で電荷とその形成を示す模式図。(左)水素原子が電子を失うと正電荷を帯びる、(中)水素原子は陽子と電子からなる、(右)水素原子が電子を受け取ると負電荷を帯びる。

電子は一般に色付きの円で表示される。1つの円は1個の電子を示し、2つの円は2個の電子の組を示す。一対の電子は通常、負電荷も示す。色付きの円は、各原子の原子価殻にある電子数を示し、分子内の原子の反応性をより詳しく説明するものである[4]
電荷

原子の最外殻電子数(オクテット)が満たされず、正または負の電荷を持つことがよくある。原子が一対の電子を欠くか、原子にプロトンが付いている場合、原子は正電荷を持つことになる。原子が他の原子と結合していない電子を持っている場合、負電荷を持つことになる。構造式では、正電荷は?で、負電荷は?で表される[4]フィッシャー投影式によるD/L系とカーン・インゴルド・プレローグ順位則によるR/S系での炭水化物とアミノ酸の絶対配置の例。構造式のくさび(黒塗りの三角形)が、化合物の立体化学をどのように表しているかを図示している。
立体化学(骨格式)ストリキニーネの骨格式。たとえば上部の窒素 (N) に見られる実線のくさび形結合は紙面の上方向の結合を示し、たとえば下部の水素 (H) に見られる破線のくさび形結合は紙面の下方向の結合を示す。

骨格式におけるキラリティーは、ナッタ投影式によって示される。立体化学は、分子内の原子の相対的な空間配置を示すために使用される。これを表すのに「くさび(楔)」が使われ、破線と塗りつぶしの2つの種類がある。塗りつぶされたくさびは、くさびの広い端側の原子が尖った端側の原子よりも読者からみて手前側にあることを意味する。破線のくさびは、逆にくさびの広い端側の原子が尖った端側の原子よりも読者からみて奥側にあることを指している。破線でない直線は、両端の原子が紙面と平行な同一面上にあることを示す。この空間配置は、3次元空間内における分子の着想を与えるものであり、空間的な配置については制約がある[4]
不特定の立体化学フルクトースの構造式。画像の左上のヒドロキシ基 (-OH) の結合は立体化学が不明または特定できない。

波線状の単結合は、立体化学が不明または特定できないか、異性体の混合物であることを表す。たとえば、上の図は、左側のHOCH2-基が波線状に結合しているフルクトース分子を示している。この場合、2つの可能な環構造は互いに化学的に平衡な状態にあり、また開鎖構造とも化学的に平衡である。環は自動的に開閉し、一方の立体化学で閉じるときもあれば、他方の立体化学で閉じるときもある。

骨格式は、アルケンシス-トランス異性体を表現することができる。波線状の単結合は、立体化学が不明または特定できないか異性体の混合物を表す標準的な方法である(四面体キラル中心と同様)。交差した二重結合が使われることもあるが、現在では一般的に許容される様式とは見なされない[5]アルケンの立体化学
ルイス構造式(上) ルイス構造式による分子の表現。(下) 対応する分子現象。詳細は「ルイス構造式」を参照

ルイス構造式(またはルイス点電子構造式)は、原子の結合性と、孤立電子対または不対電子を示す平坦なグラフ式で、立体構造は示さない。この表記法は主に小分子に用いられる。各線は単結合における2つの電子を表す。原子の対の間にある2本または3本の平行線は、それぞれ二重結合または三重結合を表す。また、点の組を使用して、結合対を表すこともできる。さらに、すべての非結合電子(対または非対)および原子上のあらゆる形式電荷が示される。ルイス構造式を使用することで、電子の配置が結合であろうと孤立対であろうと、分子内の原子の形式電荷を特定し、安定性を理解し、反応で生成する最も可能性の高い分子(分子構造の違いに基づく)を決定できるようになる。ルイス構造式では、実際の分子を表現するために、結合が特定の角度で描かれていることが多いので、分子の構造をある程度念頭に置く必要がある。ルイス構造式は、電子と結合の両方が示されているため、形式電荷の計算や原子同士が結合するかを計算するのに最適である。ルイス構造式は、結合と孤立対の存在に基づいて変化する分子および電子の幾何配置を示し、これを通じて結合角混成を決定することができる。

ルイス構造式

示性式

図版の使用が非常に制限されていた有機化学の初期の出版物では、示性式: condensed structural formulas)という、有機構造を一行で記述する活版印刷上の体系が登場した。この方式は、環状化合物への適用で問題がある傾向があるが、単純な構造を表現するには便利な方法として残されている。 CH 3 CH 2 OH {\displaystyle {\ce {CH3CH2OH}}} (エタノール)

括弧は、複数の同一の基を示すために用いられ、式中に現れる場合は左側の最も近い非水素原子へ、また式の最初に現れる場合は右側の原子に結合していることを示す。 ( CH 3 ) 2 CHOH {\displaystyle {\ce {(CH3)2CHOH}}} または CH ( CH 3 ) 2 OH {\displaystyle {\ce {CH(CH3)2OH}}} (2-プロパノール)


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