化学品の分類および表示に関する世界調和システム
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スプレー缶への危険物表記

化学品の分類および表示に関する世界調和システム(かがくひんのぶんるいおよびひょうじにかんするせかいちょうわシステム、: Globally Harmonized System of Classification and Labelling of Chemicals; GHS)は、国際連合が制定する、化学品(物質および混合物)の危険有害性(hazard)の分類基準と表示方法(ラベルSDS)を定めた制度である。ここで、「ラベル」とは、必ずしも、パッケージや容器に貼り付けるものを意味しているわけではなく、あらかじめパッケージや容器に印刷されているものも含まれている。英語のLabelの意味である。

このシステムを完成させるための作業は毒物学から消防まで広範囲の専門分野にわたり、また、その調整には多大な努力がはらわれた。国際的な取り決めである、1992年の国連環境開発会議(UNCED)において採択されたアジェンダ21、第19 章、第27 項が、この作業を完成させるための推進力となった。安全データシートおよび容易に理解できるシンボルも含めた、世界的に調和された危険有害性に関する分類および表示システムを、可能であれば西暦2000年までに利用できるようにするべきである。 ? GHS序文から
GHSの目的

GHS の目的は、物質および混合物に固有な危険有害性を特定し、そうした危険有害性に関する情報を伝えることである[1]。ここにおいて、「固有な(intrinsic)」とは、そのもの自身が本来持つ変わらないものであり、コントロールできないものである。「危険有害性」は hazard(ハザード)の訳として化学物質安全の分野では広く用いられているが危険有害性(hazard)は単に「危険性」(physical hazard)、「有害性」(health hazard/environmental hazard)と呼ばれることがあり、GHS翻訳文においても訳し分けられている。別の分野ではhazardは「危害」、「危害要因」、「ハザード」と訳されることもある。

危険有害性の分類を国際的に整合性を持たせるためにGHSでは分類基準を定めており、また、危険有害性の情報を伝達するために、GHSではラベル表示と安全データシート(SDS, Safety Data Sheetと呼ぶ)の仕様を定めている(GHS第4版 1.5章及び付属書 4)。日本では平成23年度までは一般的にMSDSと呼ばれていた[2]
GHSの重要な用語

GHSの文脈では、「物質」(Substance)という用語は次の意味で使用される。自然状態にあるか、または任意の製造過程において得られる化学元素およびその化合物(compounds)をいう。製品の安定性を保つ上で必要な添加物や用いられる工程に由来する不純物を含むが、当該物質の安定性に影響せず、またその組成を変化させることなく分離することが可能な溶媒は除く(GHS7版 1.3.3.1.2)。

GHSの文脈では、「証拠の重み(付け)」(Weight of Evidence)は次のことを意味する。危険有害性クラスによっては、分類結果がデータが基準を満たすと直ちに得られる場合もあるが、トータルな証拠の重みよって得られる場合もある。これは、毒性の決定に関して、得られるすべての情報を合わせて考慮することを意味している。その情報には、妥当な in vitro 試験、関連性のある動物試験データ、および、人に関する経験的データ、例えば、疫学研究、臨床研究、ならびに、十分な証拠能力のあるケースレポートや観察結果が含まれる(GHS7版 1.3.2.4.9.1)。
危険有害性のクラスと区分

GHSの文脈では、物質及び混合物の危険有害性(hazard)クラスは次の三つのタイプに分けられ、別個に考慮されるべき要素として、35のクラスがあり、その内訳は、17の物理化学的危険性(Physical hazards)、15の健康に対する有害性(Health hazards)、および、三つの環境に対する有害性(Environmental hazards)。ここでは、急性毒性の5つのサブクラス、感作性の二つのサブクラス、水性環境有害性の二つのサブクラスを別個に数えた数である。

GHSでは、システムを簡潔、透明にし、危険有害性クラスと区分の間の区別を明確にし、できるだけ「自主的な分類」を可能なように設定されている。しかし、多くの危険有害性クラスについて判定基準は半定量的または定性的であり、分類目的でデータの解釈を行うためには専門家の判断が必要である(GHS7版 1.3.2.1.2)。該当する分類項目があり、その有害・危険性の測定値がしきい値以下のものは「区分外(not classified)」である。「区分内」と「区分外」の他に、GHSの「分類」定義に該当するものがないものは「分類対象外」、情報・データ不足のため分類出来ないものは「分類出来ない」と表現される。[3]

クラスは複数の区分を持つものが多い。区分分けは、危険有害性の程度、または、分類の基になった情報の証拠の重み(Weight of Evidence)によって行われる。危険有害性の程度の強いもの、または、より重要な証拠をもつものから「区分1」、「区分2」、「区分3」、、、とする。例えば、急性毒性は危険有害性の程度により(GHS7版 3.1.2.1)、発がん性は証拠の重み(GHS7版 3.6.2.1)によって区分される。
物理化学的危険性クラス

物理化学的危険性には以下の17クラスがある[4]。次にそれぞれのクラスの定義のおおよそを記載する。実際にはGHS原文の詳細な記述を参照する必要がある。
爆発物 [5](爆発性物質): 爆発性物質(または混合物)とは、それ自体の化学反応により、周囲環境に損害を及ぼすような温度および圧力ならびに速度でガスを発生する能力のある固体物質または液体物質(または物質の混合物)をいう。火工品に使用される物質はたとえガスを発生しない場合でも爆発性物質とされる。

可燃性ガス: 標準気圧101.3 kPaで20 ℃において、空気との混合気が燃焼範囲を有するガス。

エアゾール: エアゾール、すなわちエアゾール噴霧器とは、圧縮ガス、液化ガスまたは溶解ガス(液状、ペースト状または粉末を含む場合もある)を内蔵する金属製、ガラス製またはプラスチック製の再充填不能な容器に、内容物をガス中に浮遊する固体もしくは液体の粒子として、または液体中またはガス中に泡状、ペースト状もしくは粉状として噴霧する噴射装置を取り付けたもの。

酸化性ガス: 酸化性ガスとは、一般的には酸素を供給することにより、空気以上に他の物質の燃焼を引き起こす、または燃焼を助けるガス。

高圧ガス: 高圧ガスとは、20 ℃、200 kPa(ゲージ圧)以上の圧力の下で容器に充填されているガスまたは液化または深冷液化されているガス。

引火性液体: 引火点が93 ℃以下の液体。

可燃性固体: 易燃性を有する、または摩擦により発火あるいは発火を助長する恐れのある固体。

自己反応性化学品: 熱的に不安定で、酸素(空気)がなくとも強い発熱分解を起し易い液体または固体の物質あるいは混合物。ただし、爆発物、有機過酸化物、酸化性ガス、酸化性液体、又は、酸化性固体は含まない。

自然発火性液体: たとえ少量であっても、空気と接触すると5 分以内に発火しやすい液体。

自然発火性固体: たとえ少屈であっても、空気と接触すると5 分以内に発火しやすい固体。

自己発熱性化学品: 自然発火性液体または自然発火性固体以外の固体物質または混合物で、空気との接触によりエネルギー供給がなくとも、自己発熱しやすいもの。

水反応可燃性化学品: 水と接触して可燃性のガスを発生する固体または液体の物質または混合物。水との相互作用により、自然発火性となるか、または可燃性のガスを危険となる量発生する。

酸化性液体: それ自体は必ずしも可燃性を有しないが、一般的には酸素の発生により、他の物質を燃焼させまたは助長する恐れのある液体。

酸化性固体: それ自体は必ずしも可燃性を有しないが、一般的には酸素の発生により、他の物質を燃焼させまたは助長する恐れのある固体。

有機過酸化物: 二価の-O-O-構造を有し、1個または2個の水素原子が有機ラジカルによって置換されている過酸化水素の誘導体と考えられる、液体または固体有機物質。有機過酸化物組成物(混合物)も含む。

金属腐食性化学品: 化学反応によって金属を著しく損傷し、または破壊する物質または混合物。

鈍感化爆発物: 大量爆発や非常に急速な燃焼をしないように、爆発性を抑制するために鈍感化され、したがって爆発物クラスから除外されている、固体または液体の爆発性物質または混合物。

健康に対する有害性クラス

健康に対する有害性のクラスには次の10クラスがある。さらに、暴露経路による違いによるサブクラスも考慮すると以下の16クラスある[6]。次にそれぞれのクラスの定義のおおよそを記載する。実際にはGHS原文の詳細な記述を参照する必要がある。
急性毒性: 物質の経口または経皮からの単回投与、あるいは24時間以内に与えられる複数回投与ないしは4時間の吸入ばく露によっておこる有害な影響。小分類:「経口」、「経皮」、「気体」、「蒸気」、「粉塵・ミスト」

皮膚腐食性/刺激性: それぞれ、皮膚に対する不可逆的な/可逆的な損傷を生じさせること。

眼に対する重篤な損傷性/眼刺激性: 眼の表面に試験物質を付着させることによる、眼の組織損傷の生成、あるいは重篤な視力低下。

呼吸器感作性または皮膚感作性: それぞれ、物質の吸入の後で気道過敏症を引き起こすこと、物質との皮膚接触の後でアレルギー反応を引き起こすこと。気道刺激性はここには記載せず、特定標的臓器毒性(単回暴露)に記載する(GHS 6版 3.8.2.2.1)。

生殖細胞変異原性: 主として、ヒトにおいて次世代に受継がれる可能性のある突然変異を誘発すると思われるもの。

発がん性: がんを誘発するか、またはその発生率を増加させるもの。

生殖毒性: 雌雄の成体の生殖機能および受精能力に対する悪影響に加えて、子の発生毒性も含まれる。

特定標的臓器毒性(単回暴露): 単回暴露によって、特定の標的となる臓器に対する毒性があるか、およびそれに暴露したヒトに対して健康に有害な影響を及ぼす可能性があるかを示す。ここには、1?7、および、10のクラスのものを細分類しない。ここに、気道刺激性を分類する(GHS6版 3.8.2.2.1)

特定標的臓器毒性(反復暴露): 反復暴露によって、特定の標的となる臓器に対する毒性があるか、およびそれに暴露したヒトに対して健康に有害な影響を及ぼす可能性があるかどうかを示す。ここには、1?7, 及び、10のクラスのものを細分類しない。

吸引性呼吸器有害性: 誤嚥後に化学肺炎、種々の程度の肺損傷を引き起こす、あるいは死亡のような重篤な急性の作用。

経口急性毒性の「区分」

経口急性毒性の強さにより区分1、区分2、と分類されている[7]

区分例:急性毒性(経口)の場合区分半数致死量LD50
/kg(体重)表示内容絵柄毒劇法における分類
区分15mg以下経口で生命に危険ドクロ毒物
区分250mg以下経口で生命に危険ドクロ毒物


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