勲章
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勲章(くんしょう)は、主に国家元首などが功績や業績を残した個人又は団体を表彰するために与える栄典のうち、章飾の授与を伴うもの、あるいはその栄誉を示す章飾。
概要
日本における定義

明治以降の日本において、個人の功績や業績を国家が表彰するための制度としては、叙位叙爵(戦後廃止)、叙勲及び褒章の栄典、並びに賜杯記章などが存在しており[1]、その中で勲章は、叙勲に属する章飾とされている[2]。つまり、勲章は叙勲によって勲位などと共に与えられるものの一つである。栄誉を示すために身に着ける佩章で、賞勲局所管の法令によって定められるものには勲章の他に褒章及び記章があり、これらは総称して「勲章等」と表記される(「勲章等着用規程」(昭和39年4月28日総理府告示第16号)第1条)。
欧米の制度

欧米の栄典のうち日本の勲章等に相当するものには、イギリスの“order”・ “decoration”・ “cross”・“medal”、 フランスでは“ordre”・ “decoration”・ “medaille” 、ドイツでは“Orden”, “Ehrenzeichen”[注 1]・“Auszeichnung”・ “Medaille”・ “Denkmunze”などがあり、性格や価値はそれぞれ異なる。

“medal”(英)や “Medaille”(独)に相当する日本語としては「褒章」、「記章」などもあるが、日本の定義と異なるため、日本に於ける勲章、褒章及び記章の分け方とは一致していない。例えば、イギリスの“medal”やドイツの“Medaille”などの中には日本の下級勲章(勲七等又は功六級以下)に近いものもあり[注 2]、これらについても「勲章」と扱われることが多く見られる[4]。特に、クロス章は日本にはないカテゴリの章であるため、勲章であるか記章なのかは、書籍等によって扱いが区々である[5]。またそのようなことから、「栄典制度の在り方に関する懇談会」に於いて、orderの制度が無いアメリカ合衆国には勲章が無いとする賞勲局の見解に対して、出席者から異が唱えられたこともある[6]
種類

ヨーロッパにおいて勲章等に相当するものとしては以下のものがある。
オーダー

: order、: ordre、: Orden)

「騎士団」(: Chivalric order、: Ordre de chevalerie)或は「特定の騎士の地位」を意味する言葉から、その構成員の記章を示すようになった。他の勲章と区別するために「騎士団勲章」と表記されるほか、「勲爵士団」とも訳される[注 3]中世騎士団に由来、或はその制度に倣った栄典で、騎士団(勲爵士団)へ入団することが栄誉であり、記章はその団員証として授与される。すなわち、受勲するということは勲爵士団への入団を意味する。[4]
デコレーション

: decoration、: decoration、: Ehrenzeichen)

勲爵士団とは関係なく、功績に対する栄誉を称えて授与される勲章であり、記章自体が栄誉の証である。「栄誉勲章」或は「功労勲章」と訳されることもある。下記のメダルやクロスもこの概念でのデコレーションの一種であるが、国によってはより狭い意味でも使われる[7]。例えばイギリスの場合、功労勲章でメダルより下位に位置付けられるものに“decoration”の名称が付けられている[8]
メダル

: medal、: medaille、: Medaille)

「記章」或は名称の場合「?章」と訳されることもある。性格的には広い意味でのデコレーションに含まれるが、日本では勲章の範疇にはない褒章従軍記章記念章などもメダルと称される。

デコレーションに含まれるものは、低い地位の者或は低い功績に対しても与えられる。その中には、オーダーと同じ名前が付き、その対象者でより低い地位或は功績の者に授与されるものもある。ただしこの場合でもメダル受章者は勲爵士団のメンバーにはならない。
クロス

: Cross、: Croix、: Kreuz)

メダルの上位に位置付けられており、同名のメダルの上位等級となっているものもある。「十字章」或は「十字勲章」と訳される。フランス語で「クロワ」、ドイツ語で「クロイツ」
等級

初期のオーダーには等級がなく、単一等級の勲章間に序列が定められていたが、やがて叙勲対象の範囲を広げる必要が生じ、同種の勲章に等級を設けるようになった。18世紀までは3等級が一般的であったが、フランス革命により貴族階級がなくなったフランスで制定されたレジオンドヌール勲章には、叙勲対象を更に広げる必要から5等級が設けられた。この等級には騎士団の階級に由来する名称が付けられ、現在に至っている。他のヨーロッパの国でもこの制度に倣い5等級のオーダーが制定されるようになった。

これらの等級の上位に頸飾、下位にメダルを設けているオーダーもあるが、頸飾は特別な位置付けのものとされ[注 4]、メダルも前述のように受章者は勲爵士団のメンバーではなく、いずれも等級外とされていることが多い。

勲章の等級比較等級等級の名称
フランスドイツイギリス
1. 大十字Grand-CroixGroskreuzナイト・グランドクロス (Knight Grand Cross) / デイム・グランドクロス (Dame Grand Cross)
2. 上級士官Grand-OfficierGrosoffizier / Groskomtur(大司令官)ナイト・コマンダー (Knight Commander) / デイム・コマンダー (Dame Commander)
3. 司令官CommandeurKomtur / Kommandeurコマンダー (Commander) / コンパニオン (Companion) [a]
4. 士官OfficierOffizierオフィサー (Officer) / ルテナント (Lieutenant)
5. 騎士ChevalierRitterメンバー (Member)
注等級の名称はフランスのものが基準になっているので和名はフランスのものにし、ドイツの名称で異なるものにはその訳語も記した。イギリスについては書式を変えた。
 *4等級が定められている勲章では士官相当が、3等級の場合は上級士官と士官相当の等級が欠となる。*黄色部分がナイトに叙される。ただしナイト・コマンダーより上位の単一等級勲章でも受勲者がナイトに叙されないものもある。
*.mw-parser-output .citation{word-wrap:break-word}.mw-parser-output .citation:target{background-color:rgba(0,127,255,0.133)}a 3等級が定められている場合は士官と騎士相当の等級が欠となる。3等勲章の名称は、最下位が3等級の場合はコンパニオン、5等級の場合はコマンダーとなる。

勲章の着用

勲章(特に上級のオーダー)の正章を着用する際の服装は正装又はそれに準ずる制服とされる。礼装や略礼装の場合は副章と下級の勲章、或はミニチュアメダル、常装の場合は略綬を着用する。一方、国によっては勲章の正章を着用した服装が正装とされる場合もあり、特に正装専用の服が廃止される傾向にある軍隊では広く行われている。
装着方法勲章の装着位置(1、2: 小綬章、3: 中綬章、4: 星章と小綬章、5: 大綬章と星章)

勲章の装着位置勲章を衣服に取り付ける位置や方法は勲章の形状により異なり、等級分けされた勲章では装着の位置を変えることで等級の判別ができるようになっている。勲章の布製の部分は「綬」(じゅ)と呼ばれ、色やパターンが勲章の種類を、大きさが等級を表す。大きさには大綬(サッシュ)と中綬及び小綬(リボン)があり、日本では勲章の等級を「○○大綬章」や「○○小綬章」と表している。
頸飾

貴金属(ほとんどが金)製の鎖に記章が付いたものであり、鎖を首(両肩)に掛けて着用する。一般的に最上級あるいは特別等級の勲章がこの形式であり、君主制国家に多く見られる。制定していない国も多い。イギリスでは一等級勲章にも頸飾が付属するが、これは騎士団の正装には着用し、通常の正装には着用しない。
大綬ドイツ皇帝の戴冠式。壇下前列(画面中央)にいる通常の一等級勲章受章者は大綬を右肩から左腰に掛けているが、壇上の皇族や壇下中央にいるビスマルクやモルトケは黒鷲勲章等特別な勲章の大綬を左肩から右腰に掛けている。

太い帯 (サッシュ) を肩から襷掛けし、腰の部分に勲章を付ける。通常は右肩から左腰に掛けるが、その国における特別な勲章(イギリスのガーター勲章とシッスル勲章、日本の功一級金鵄勲章等など)のみ左肩から右腰に掛けるよう制定されている場合がある。

一般的には一等級の勲章がこの形式であり、副章として星章が制定されていることが多い。星章・中綬・小綬とは異なり、複数の大綬を同時に着用することは少なく、その必要がある場合には、着用の序列にしたがって最上位の大綬のみを着用し、他の大綬をもって帯びる勲章は副章(星章)のみを着用することが多い。
星章

大型のバッジを綬を用いずに直接取り付ける。二等級の勲章や一等級以上の勲章の副章となっていることが多い。序列や等級によって装着位置が異なり、複数着用することもできる。

イギリスとフランスの二等級勲章の装着位置

バス勲章ナイト・コマンダーを付けたイギリス軍人。星章を左肋に着用。

レジオンドヌール勲章グラントフィシエを付けたフランス軍人。星章を右肋に着用。

中綬

細長いリボンで勲章を首から吊す。三等級の勲章や二等級勲章の副章の他、単一等級の功労勲章(日本の文化勲章、イギリスのメリット勲章、ドイツのプール・ル・メリット勲章等)にこの形式が多く見られる。

中綬をもって帯びる勲章を複数着用する場合、喉元に近い方が序列上位となる。

中綬章を複数着用した例

岡市之助。喉元から下に金鵄勲章旭日章瑞宝章の順で、いずれも中綬である。

小綬

衣服に取り付ける金具が付いた小さなリボンに勲章が付いている。4等級以下の勲章や記章、メダルのほとんどがこの形式である。通常は左胸上部に取り付ける。

複数の小綬を同時に着用する場合、右側(体の中心に近い方、向かって左側)が上位となる。
略章・略綬大統領自由勲章(アメリカ)のセット。正章(中綬)と略綬、ミニチュアメダル、ピンバッジ。


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