動詞連続構文 (どうしれんぞくこうぶん、英: Serial verb constructions)とは、複数の動詞が、明示的な連結標識を伴うことなく、単一の節内で一つの述語を形成したものを指す言語学の術語である[1][2]。広い意味での「動詞連続構文」には、現代日本語の連用形や「テ形」を用いた複合述語も含まれることがある[2][3]。
「走り去る」
「持って行く」
一方、厳密な意味での動詞連続構文においては、動詞同士の関係を表す形態素が一切現れない。以下はブラジル北西部のタリアナ語 (アラワク語族) における例である[4][5]。
[nhuta
1SG.取る
nu-thaketa]-ka
1SG-通る.CAUS-SUBORD
di-ka-pidana
3SG-見る-REM.PST
[nhuta nu-thaketa]-ka di-ka-pidana
1SG.取る 1SG-通る.CAUS-SUBORD 3SG-見る-REM.PST
「彼は私がそれを運んで行ったのを見た。」
この文において動詞連続構文と見做されるのは、[]で囲まれた部分である[4]。そこでは「運んで行った」という話し手による一連の動作が、nhuta、thaketaという2つの動詞を用いて表されている。後者は接辞として人称標識nu-や従属節標識-ka[6]を伴っているものの、日本語の「-て/で」や英語のandに相当する要素は全く見当たらない。 アレクサンドラ・アイケンヴァルト
概要
動詞連続構文の内部において、動詞が異なる時制・アスペクトを取ることはない[1]。以下の広東語の文では、「喊 (haam3)」「濕 (sap1)」という動詞がいずれも完結した事態を表している[8]。
keoi5
3SG
haam3-sap1-zo2
cry-wet-PFV
go2
CLF
zam2tau4
pillow
keoi5 haam3-sap1-zo2 go2 zam2tau4
3SG cry-wet-PFV CLF pillow
「彼女は泣いて枕を濡らした」
同様に、連続する動詞の極性が異なることもない[1][9]。例えば、西アフリカで話されるバウレ語の動詞連続構文において、構成要素の動詞をそれぞれ単独で否定するのは不可能であり、否定の作用域は全ての動詞に及ぶ[10]。
?
3SG.SUBJ
fa
取る
man
NEG
agba
キャッサバ
man
与える
man
NEG
Yao.
ヤオ
? fa man agba man man Yao.
3SG.SUBJ 取る NEG キャッサバ 与える NEG ヤオ
「彼はヤオにキャッサバを与えなかった (取らず、与えなかった)」
*?
3SG.SUBJ
k??
炒める
man
NEG
ngat?
ピーナッツ
di.
食べる
*? k?? man ngat? di.
3SG.SUBJ 炒める NEG ピーナッツ 食べる
「彼はピーナッツを炒めずに食べた」
*?
3SG.SUBJ
k??n
炒める
ngat?
ピーナッツ
di
食べる
man.
NEG
*? k??n ngat? di man.
3SG.SUBJ 炒める ピーナッツ 食べる NEG
「彼女はピーナッツを炒めたが、食べなかった」 動詞連続が形成される際、主語や目的語のような項は普通共有されるが、そうでない場合もある[11]。以下は他動詞の連続において同一の主語と目的語を取る例である[12]。白フモン語 nws 3SG tua ?を撃つ rang 当てる liab 猿 nws tua rang liab 3SG ?を撃つ 当てる 猿 「彼は猿を撃ち抜いた」 しかし、主語が同一でも目的語が共有されない場合もある[13]。タイ語 phom 1SG.M paj 行く talaat 市場 s?? 買う plaa 魚 phom paj talaat s?? plaa 1SG.M 行く 市場 買う 魚 「僕は市場に行って魚を買った」 他動詞と自動詞が連続する際は、もちろん目的語は共有されない[14]。広東語 lei5 2SG lo2 取る di1 PL saam1 服 lai4 来る lei5 lo2 di1 saam1 lai4
項の共有