動物福祉(どうぶつふくし、英語: Animal welfare)とは、一般的に、人間が動物に対して与える痛みやストレスといった苦痛を最小限に抑えるなどの配慮により、動物の待遇を改善しようとする考えのことをいう。
動物福祉(アニマルウェルフェア)は、近代以降に西洋で生まれ、家畜動物を対象として大きく発展した概念である[1]。
日本国内では、英語の「Animal Welfare(アニマルウェルフェア)」は「動物福祉」や「家畜福祉」と和訳されることが多いが、動物福祉という語感から介護・医療など含む社会保障を連想する「福祉」だと誤解される場合もあるため、日本国内で使用するときは和訳せずに「アニマルウェルフェア」とそのまま表記されることもある[2]。
概要、研究施設などで科学使用される実験動物、一般家庭で飼われる愛玩動物、さらには野生動物も含めて、多くの動物は人間の利益のために動物本来の特性や行動、寿命などが大きく規制されていることが多い。こうした利用を認めつつも、それら現場で動物の感じる苦痛の回避・除去などに極力配慮しようとする考えが動物福祉である[3][4]。
動物の権利と異なり、動物福祉は人間が動物を利用することや殺すことを否定していない[3]。しかしながら一方で、動物福祉の意識の高まりから肉食を削減する動きも広まっている。韓国では2024年1月9日、犬食を禁止する法案を可決した[5][6][7]。
やむを得ず動物を殺さなければならない場合は、可能な限り苦痛のない手法を用いること(安楽死)が求められる[3]。具体的な方法には、銃、家畜銃、斬首、感電死、マイクロ波照射、捕殺罠などがあるがいずれの方法においても即死させることが求められる[8]。アメリカでは中規模から大規模な屠殺場の大半は、アニマルウェルフェアの監査を受けている[9]。2022年スペインは、すべての屠殺場に、動物の扱いを監視するためのビデオカメラの設置を法制化した。EU加盟国では初となる[10]。 動物福祉(アニマルウェルフェア)は、家畜動物を対象として大きく発展した概念である。 20世紀後半まで動物福祉は普及していなかったが[11]、1964年に工場型の集約畜産の批判本「アニマルマシーン」(ルース・ハリソン
歴史
日本では、1987年に初めて佐藤衆介 農学博士が畜産動物福祉を紹介した[14]。
FAOは2014年、「農業における責任ある投資と、食品システムのための原則」の中で、投資において動物福祉を考慮することを記載[16]。以来、近年では、動物福祉は企業のデューデリジェンスの一つといわれ[17]、動物福祉を評価の一つとするESG投資が広まり[18]、投資機関にとって、投資リスクとも考えられるようになっている[19]。世界銀行グループの国際金融公社(IFC)も「IFCは、動物福祉基準に関して、投資クライアントと連携している」とし、過密飼育や妊娠ストールなどが動物福祉のリスクを高めると報告する[20]。しかし2023年、IFCは4階建ての工業用養豚団地建設への融資を承認。動物福祉に対する世界銀行の取り組みと、この融資は一致しないとして環境団体らから非難を受けている[21]。
2020年前後からは、アニマルウェルフェアはSDGsの指標にもなってきている。企業の国連持続可能な開発目標(SDGs)推進国際NGOのWorld Benchmarking Alliance(WBA)の企業評価項目の一つには家畜福祉が含まれている[22]。2021年にアメリカで行われた調査では、「持続可能な食肉に向けた課題とは何か」との質問に対して、「動物福祉」と回答した者が約44%と二番目に多く、「持続可能な畜産に向けた最も重要な取り組みとは何か」との質問に対しては、「動物福祉に係る取り組み」と回答した者が約29%と最も多かった[23]。