効果的利他主義
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効果的利他主義(こうかてきりたしゅぎ、英語: effective altruism、EA)とは、「根拠理性を使って、どうすれば他人のためになるかを考え、それに基づいて行動する」ことを提唱する哲学的・社会的運動である[1][2]。効果的利他主義の目標を追求する人々は、効果的利他主義者と呼ばれる[3]

効果的利他主義者の一般的な行動としては、キャリアが達成する善の量に基づいてキャリアを選択する、インパクトを最大化することに基づいて慈善団体に寄付する、寄付をするために収入を得る、などが挙げられる。効果的利他主義では、グローバルな健康や開発、動物福祉、長期的な人類の存続に関わるリスクなどを優先事項として掲げていることが多い。

効果的利他主義では、公平性、つまり受益者を選ぶ際にグローバルな利益に対する平等な配慮を重視している。このことは、最も多くの命を救い、最も多くの苦しみを減らすと推定される科学プロジェクト、起業家的ベンチャー、政策イニシアチブの優先順位付けに広く応用される。?効果的な利他主義者が、制度や構造の変化など、測定は難しいが大きな影響を与える可能性のある介入を考慮すべきかどうかは、依然として議論の余地がある[4]

この運動は2000年代に発展し、2011年には「効果的利他主義」という名称が作られた[5]。この運動に影響を与えた著名な哲学者は、ピーター・シンガー、トビー・オード、ウィリアム・マカスキルなどである。その後、この運動に関するいくつかの書籍や多くの論文が出版され、2013年からは「Effective Altruism Global」という会議が開催されている。2022年現在、数十億ドルが効果的利他主義の活動にコミットされている[6][7]
原理
費用有効性

慈善において、費用有効性とはある金融の単位について、どれだけの良いことが行えるかをいう。例えば、健康に関する行動の費用有効性はその行動が人生をどれだけ延ばせるか、かつ生活の質をどれだけ向上させられるか、という双方から測る。慈善団体においては、寄付する金額が同じでも結果に差が出るため、有効的に寄付するのも重要である。ことに、目的を果たすことができない慈善団体もある。目的を果たせる慈善団体の中でも、ある金額についてより効果的に行動できるものも存在する。寄付研究団体であるGiveWellによると、他に比べると、何百倍も何千倍もより効果的である慈善団体も存在する。

今のところ費用有効性は慈善団体の中では新しい概念であるが、経済学では頻繁に用いられる。効果的利他主義者の多くは哲学・経済学・数学など合理的かつ数値的に考える分野の知識を持っている。

また、効果的利他主義者らは「追加基金の空間」という概念に注目している。これは、寄付に値する団体を定めるには、その団体が今までに行ってきたこと観察するよりも、追加される寄付金の限界価値(つまり、これから追加された寄付金でどれだけ良いことが行えるか)に基づくという考えである。
運動・目的の優先

多くの効果的利他主義者はどの運動・目的を最も優先させるかが重要だと主張している。このため効果的利他主義は従来の慈善運動と異なる。

例えば、従来の慈善運動の中でも有効性・根拠が強調されてきているが、これは通常(例えば教育・気候変動など)ある一つの運動内についてのみ行われ、その運動自体が分析されることは少ない。

効果的利他主義者らは、「苦しみを減らす」などより広範囲な観点より運動を分析する。そしてそれを持って、効果的な慈善団体に時間・寄付金を注ぎ込む。この運動の分析はいくつかの組織によって行われている。多くの効果的利他主義者は現在、開発途上国の貧困問題・動物の苦悩・人類の長期的未来が最も重要な目的だと考えている。
不偏性

効果的利他主義者らはすべての人の生を平等に見る。例えば、発展途上国に住む人間と自分の地域に住む人間とは同じ価値をもつということである。ピーター・シンガー曰く、

私が助けられるのが、近所の子どもであれ、一万マイルもはなれた名前も知らぬベンガル人であれ、なんの違いもない。道徳的なのは、我々の社会に有益なことよりも先を考えることである。過去にはこれは難しいことであっただろうが、いまでは可能である。我々の社会の外にいる何万人もの貧困者を助けることは、我々の社会内の財産の規則を維持することよりも重要でなくてはならない。

さらに、多くの効果的利他主義者は未来の人類と現在の人類とは同じ道徳的価値を持っていると考えている。このため、人類の存在に注目している。人以外の動物も同じように道徳的価値を所持していると主張するという者もいる。かれらは、農場の動物の苦悩を止めるためにつとめている。
批判

効果的利他主義の中心的な批判は「効果測定が難しい分野の疎外」「社会構造の変化につながらない」といったものである。

「効果測定が難しい分野の疎外」とは、効果的利他主義では定量的な「貢献」の最大化が求められるため、治療法の研究が進んでいない疾患治療への研究費の寄付や、効果測定が難しい分野への慈善活動などは、効果が測定しやすい分野と比較して「効果的でない」と定義される。このような要因で「貢献」を最大化しやすい分野が偏ることが問題視される。

「社会構造の変化につながらない」とは、効果的利他主義に則ると、最も「効果的」な分野は途上国の絶対的貧困への寄付や慈善活動とされている。しかし、途上国の絶対的貧困などの社会的課題は、そもそも先進国と途上国間の経済格差や産業構造が大きな要因であり、効果的利他主義はあくまで慈善活動などの他者貢献に限った概念なので、そのような問題を根本的に変えるための社会構造の変化につながらない、という批判がされる[8]
歴史

2015年には、ピーター・シンガーの本『あなたが世界のためにできるたったひとつのこと――〈効果的な利他主義〉のすすめ』が出版された。また、ウィリアム・マッカスキル著『〈効果的な利他主義〉宣言!慈善活動への科学的アプローチ』という本も出版されている[9]
脚注^ MacAskill, William (January 2017). “Effective altruism: introduction” (英語). Essays in Philosophy 18 (1): eP1580:1?5. doi:10.7710/1526-0569.1580. .mw-parser-output cite.citation{font-style:inherit;word-wrap:break-word}.mw-parser-output .citation q{quotes:"\"""\"""'""'"}.mw-parser-output .citation.cs-ja1 q,.mw-parser-output .citation.cs-ja2 q{quotes:"「""」""『""』"}.mw-parser-output .citation:target{background-color:rgba(0,127,255,0.133)}.mw-parser-output .id-lock-free a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-free a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/6/65/Lock-green.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .id-lock-limited a,.mw-parser-output .id-lock-registration a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-limited a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-registration a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/d/d6/Lock-gray-alt-2.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .id-lock-subscription a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-subscription a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/a/aa/Lock-red-alt-2.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .cs1-ws-icon a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/4/4c/Wikisource-logo.svg")right 0.1em center/12px no-repeat}.mw-parser-output .cs1-code{color:inherit;background:inherit;border:none;padding:inherit}.mw-parser-output .cs1-hidden-error{display:none;color:#d33}.mw-parser-output .cs1-visible-error{color:#d33}.mw-parser-output .cs1-maint{display:none;color:#3a3;margin-left:0.3em}.mw-parser-output .cs1-format{font-size:95%}.mw-parser-output .cs1-kern-left{padding-left:0.2em}.mw-parser-output .cs1-kern-right{padding-right:0.2em}.mw-parser-output .citation .mw-selflink{font-weight:inherit}ISSN 1526-0569. https://commons.pacificu.edu/eip/vol18/iss1/1 2020年2月8日閲覧。


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