劣化ウラン弾
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劣化ウラン弾(れっかウランだん、Depleted uranium ammunition、略称DU)とは、弾体として劣化ウランを主原料とする合金を使用した弾丸全般を指す。

劣化ウランの比重は約19と大きく、の2.5倍、の1.7倍である。そのため合金化して砲弾に用いると、同サイズ、同速度でより大きな運動エネルギー(質量に比例する)を得られるため、主に対戦車用の砲弾・弾頭として使用される。対戦車用砲弾であるAPFSDSのサボが分離する瞬間。この弾芯(中心のダーツ状の棒)の材質が砲弾の効力を非常に大きく左右する。
概要

劣化ウランはウラン鉱石を精製した後の純粋ウランからウラン濃縮を行い核燃料としての低濃縮ウラン燃料を得た後に残る残渣であり、原子力発電所から発生する廃棄物とは発生経路が異なる。成分はいくつかの放射性同位体が混ざった純粋ウラン[1]である。原材料の天然ウランの性質から半減期が数億年?数十億年と長く、弱い放射線を放出する。

劣化ウランは、現実的に調達可能な物質の内では比重が最も大きいので、目標物を貫通する事を目的とした銃砲弾の弾芯の素材に適している。この弾芯に劣化ウランを用いた銃砲弾を劣化ウラン弾と呼称する。アメリカ合衆国イギリスフランスロシア中国カナダスウェーデンギリシャトルコイスラエルサウジアラビアヨルダンバーレーンエジプトクウェートパキスタンタイ台湾韓国などが劣化ウラン弾を軍用配備している。銃砲弾だけでなく戦車など装甲車両の装甲板に劣化ウランを含有させれば防御効力が高まることから、M1エイブラムスにおいては追加装甲を含めて車体装甲に活用されている。

劣化ウラン弾が実用化される以前はタングステンが同様の理由で採用されており、現在でも欧州(イギリス・フランス・ロシア・スウェーデン・ギリシャを除く)や日本では調達性や安全性から対戦車弾や大型ガトリング砲にタングステン弾を使用している。タングステンに比べて劣化ウランは原料コストこそ安価であるものの、劣化ウランの特性から加工に高い技術と費用、さらに安全対策費とを要する。にもかかわらず米英露中が劣化ウラン弾を製造し配備しているのはそのコストに見合う性能を持つためであると軍事専門家は述べている[2]。また、タングステンは資源が極端に中国に偏在しているという調達性における問題を抱えている。

一方、劣化ウラン弾は目標命中時やセルフ・シャープニング効果発生時に微粉末化され、さらに燃焼により酸化ウランに化合されて周囲に飛散するため、戦闘員だけに限定されず、戦闘区域外の生物が呼吸器から吸収してしまうおそれがある。この時、重金属としての化学毒性に加え、微量ながら含まれる放射性同位体(234Uなど)による内部被曝が発生する危険性もあり、いわゆる「ダーティ・ボム」の亜種となりうることからその安全性において国際的に懸念されている。また、一次的に接触しなくとも地面に堆積した酸化ウランが土壌や水源を汚染し、人体や環境に長期的な悪影響を及ぼすリスクも抱えている。

2023年9月、前年から始まったロシアのウクライナ侵攻を受けて、アメリカはウクライナに対し劣化ウラン弾の供与を決定。これに対してロシアは、環境への影響をあからさまに無視する「犯罪行為」であるとして供与決定を非難したが[3]アメリカ国防総省は反論。アメリカ疾病対策センターは劣化ウラン弾の発がん性を示す証拠はないとしたことを指摘した上で、世界保健機関もウランや劣化ウランにさらされた後に白血病などのがんが増加した例は確認されていないと報告していること、国際原子力機関でさえ劣化ウランへの暴露とがんの増加、健康や環境への重大な影響との間に立証された関連性はないとしていることに言及した[4]
特徴
セルフ・シャープニング

劣化ウラン弾は目標の装甲板に侵徹する過程で先端部分が先鋭化しながら侵攻する自己先鋭化現象(セルフ・シャープニング現象)を起こす。このため一般的な対戦車用砲弾であるタングステン合金弾よりも高い貫通能力を発揮し、劣化ウランの侵徹性能は密度の違いも含めてタングステン合金よりも10%程優れているとされる。
焼夷効果

劣化ウラン弾やタングステン弾が命中すると砲弾の持つ運動エネルギーが熱エネルギーへと変換される。これは侵徹体金属の結晶構造が変形して高温を発するためであり、摩擦で発生する熱はあまり関与していない事が判明している。

劣化ウラン弾は穿孔過程で侵徹体の先端温度が1,200度を越えて融解温度に達する。装甲板を貫通した後で侵徹体の溶解した一部が微細化して撒き散らされる。金属ウラン成分は高温下で容易に酸素と結びついて激しく燃焼するため、劣化ウラン弾は焼夷効果を発揮する[5]。この性質のために、劣化ウラン弾は鍛造加工できないので不活性ガス中で低速切削加工により製造される[6]
毒性

劣化ウラン弾は以下の2つの点で人体に被害を与える恐れがあるため、実戦や演習・射撃訓練で劣化ウラン弾を使用し、自然環境に劣化ウランを放散させることの是非について、たびたび議論される。
重金属毒性

ウランは化学的な毒性を持つ重金属である。
放射性

劣化ウランは、主体を占めるウラン238、ウラン濃縮過程で取りこぼされたウラン235、それらの子孫核種からなっており、放射能を持つ放射性物質である。劣化ウランの比放射能は14.8 Bq/mgであり[7]、天然ウランの25.4 Bq/mgと比較すると約6割と低い。
価格

劣化ウラン弾はタングステン弾に比べて原料費が安い分製品価格も安価であるという誤解が散見されるが、前述のように加工コストが莫大なために、納入価格はタングステン弾とさほど変わらない。なお劣化ウラン弾の価格についてはAPFSDSを参照のこと[5]
使用しているとされる兵器M829E3砲弾とその構造(右)。白で示された矢状の飛翔体の中心にウラニウム合金製の侵徹体(弾芯)が収納されている。
PGU-14/B
アメリカ空軍の30ミリ砲弾。約 300g の貫通芯のうち 99.25% が劣化ウラン。フェアチャイルドA-10AサンダーボルトII攻撃機GAU-8/Aで使用される。
M735A1
アメリカ陸軍105ミリ砲弾。約 2.2kg の劣化ウラン貫通体を持つ。M1戦車およびM60パットンの主砲が使用。
M774
約 3.4kg の劣化ウラン貫通体を持つ。使用は M735A1 に準じる。
M829・M829E1・M829E2
約 4.9kg の劣化ウラン貫通体を持つ。アメリカ陸軍の120ミリ砲弾。M1A1戦車およびM1A2戦車の主砲が使用。
M833
約 3.7kg の劣化ウラン貫通体を持つ。アメリカ陸軍の105ミリ砲弾。EX35 の105ミリ砲のシステムで使われる。
XM919
約 85g の劣化ウラン貫通体を持つ。アメリカ陸軍の25ミリ砲弾。主としてM2ブラッドレー歩兵戦闘車で使われる。
XM900E1
約 10kg の劣化ウラン貫通体を持つ。アメリカ陸軍の105ミリ砲弾。
MK149-2 20ミリ砲弾
艦艇のファランクス対空迎撃システムに利用。使用は Block0 のみ。1988年以降タングステン弾芯に移行。

これら以外にも、防御用としてM1A1(HA)戦車、M1A2戦車の装甲用構成部品として劣化ウラン装甲が使用されている。

トマホーク巡航ミサイルにも劣化ウランが使われているとの疑惑があったが、1999年に米国防総省が不使用を明言しており、事実トマホークのステルス性や誘導性に悪影響を及ぼしかねないため、標準搭載する必要性はない。新型のタクティカル・トマホークの地下貫通型については使用されている可能性があるものの、2005年春の時点では未配備であるため確認は取れていない。

バンカーバスターにおいては、BLU-109/B についてロッキード社の特許申請書において劣化ウランの採用が明記されている[要出典]。

概要に記載されているとおり、アメリカ以外ではイギリスフランスロシア中国カナダスウェーデンギリシャトルコイスラエルサウジアラビアヨルダンバーレーンエジプトクウェートパキスタンタイ台湾韓国などが劣化ウラン弾を配備している ⇒[2]


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