加速器
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兵庫県の播磨科学公園都市内に所在するSPring-8。線形加速器と円形のシンクロトロンが確認できる。放射線治療に用いられる線形加速器

加速器(かそくき、: particle accelerator)とは、荷電粒子を加速する装置の総称。原子核/素粒子の実験による基礎科学研究のほか、治療、新素材開発といった実用にも使われる[1]

前者の原子核/素粒子の加速器実験では、最大で光速近くまで粒子を加速させることができる。粒子を固定標的に当てる「フィックスドターゲット実験」と、向かい合わせに加速した粒子を正面衝突させる「コライダー実験」がある。
概要

α線の散乱実験などで業績のあったアーネスト・ラザフォードは、天然放射性物質から出るα線(エネルギー値 7.7MeV)を窒素原子核に当てることで窒素原子核が破壊されることを発見した(1919年)。これが最初の原子核の破壊実験であった。この発見から、荷電粒子(イオン電子)に 7.7MeV 程度のエネルギーを持たせる電位をかけて加速し、対象となる原子核に当てる(原子核にエネルギーを与える)ことで人工的に原子核が破壊できるのではないかと考えられた。

1932年にコッククロフト(Cockcroft)とウォルトン(Walton)は、当時から良く知られていた倍電圧整流回路を改良拡張することで 800kV の高電圧と、それに耐えるイオン加速管を開発し、加速した陽子を当てることでリチウム原子核を人工的に他の原子核に変換させることに成功した[2]。またこの実験により、特殊相対性理論からの帰結である E=mc2 が定量的に検証されるなど、加速器による原子核研究の端緒を開いた[3]

この実験の成功を契機に既に盛り上がっていた加速器開発及び原子核研究はさらに勢いを増し、原子核を構成する陽子や中性子も破壊するための巨大加速器の建設が進んで行った。
加速方式から見た加速器の種類
静電加速器「静電発電機」も参照

電極間に直流高電圧を印加し、その電位差により荷電粒子を加速する装置。連続ビームを得られるのは静電加速器のみである。加速エネルギーの上限は印加することのできる電圧の大きさに依存する。最大加速電圧はヴァンデグラフ型の場合で数十MeV(メガ電子ボルト)であり多くの場合原子核/素粒子実験で必要とされるエネルギーを達成できない。そのため後述する線形加速器や円形加速器の入射加速器として使用されることが多い。直流高電圧を作り出す方法により以下の2つの方式に分類される。
コッククロフト・ウォルトン型「コッククロフト・ウォルトン回路」も参照

ダイオードとコンデンサーを用いた倍電圧整流回路を用いて高電圧を得る方式、アーネスト・ウォルトンジョン・コッククロフトが確立した。加速エネルギーは数百keV - 数MeV程度。
ヴァンデグラフ型「ヴァンデグラフ起電機」も参照

絶縁物のベルトに電荷を乗せて電極に運び高電圧を得る方式。1930年ロバート・ジェミソン・ヴァン・デ・グラフにより実用化された。加速エネルギーは10MeVほど。

ヴァンデグラフの派生版としては、電荷移送ベルトの代わりに金属円筒を絶縁性プラスチックでつないだペレットチェーンを用いたペレトロンが存在する。加速エネルギーは20MeVほど。

また加速粒子として負イオンを用いて正電極に向けて加速し、正電極内で炭素膜などで電子を剥ぎ取って正イオンにし、接地電極に向けて再度加速することで、高電圧を2重に利用する効率の良い加速が可能となる。これをタンデム加速器という。
線形加速器「線形粒子加速器(英語版)」も参照

電極間にかけられる電圧には様々な実用上の問題から上限が存在する。その上限を超えて粒子を加速する工夫をしたもののうち、粒子を一直線上で加速するものを線形加速器と呼ぶ。ライナック(linac)やリニアック(lineac)とも呼ばれることがあるが、いずれも英語で線形加速器を意味する"Linear Accelerator"にちなむ。基本的な構造は多数の導体筒を並べたものである。隣り合った導体筒同士が異符号に帯電するように高周波電圧を印加する。それぞれの筒の間(以下ギャップと称す)では電場が存在するので粒子に力が働く。一方、筒の内部は一様電位なので電場が存在せず、粒子は力を受けない。筒の長さと印加する高周波の周波数をうまく調整してやると、筒の中を通る粒子がギャップを通過する度に加速するように調整することが可能である。

この方式でエネルギーの大きなものを作ろうとすると、加速器の長さを長くしなければならない。当然加速器が大きくなれば技術的にも敷地の点でも困難は増す。したがって従来の線形加速器の加速エネルギーは数百MeV程度までであって、それ以上のエネルギーを必要とするときはサイクロトロンシンクロトロンが用いられてきた。この場合、シンクロトロンの入射器として線形加速器が用いられることが多い。

しかしながら21世紀に入って高エネルギー実験の最前線に挑戦する新しい線形加速器の建造が期待されるようになった。これは電子を加速する際にシンクロトロンを用いるとシンクロトロン輻射の影響でせいぜい十数GeVのエネルギーを達成するのがやっとであるという壁に突き当たったからである。一方、線形加速器は文字通りに真っ直ぐで加速粒子を曲げる必要が無いため、シンクロトロン輻射の影響を考える必要が無い。加速器自体の物理的な長ささえ確保できれば、より高エネルギーまで加速することが可能である。高エネルギー加速器研究機構(茨城県つくば市)の円形加速器の建屋内部。全長3kmの円周状であるため、この画像ではほぼ直線に見える。
円形加速器

荷電粒子は磁場中を通るとローレンツ力を受けて曲げられる。これを利用して荷電粒子に円形の軌道を描かせながら加速する加速器を作ることができる[4]
サイクロトロン詳細は「サイクロトロン」を参照

磁場を用いて荷電粒子に円形の軌道を描かせて加速する加速器のうち、磁場が時間的に変化しないものをサイクロトロン(cyclotron)と呼ぶ。
古典的なサイクロトロン

サイクロトロンの基本的な構成は一様磁場中に設置された2つの半円形の電極である。電極は直線になっている側が開放された中空の構造で、開放された端が向かい合うように設置されている。電極は真空に保たれた加速函と称する平たい円形の容器に収められている[5]

加速を開始するためにはサイクロトロンの中心付近に荷電粒子を入射し、電極に交流電圧を印加する。電極間の電場によって加速された荷電粒子は電極の中の一様電場中で磁場から受けるローレンツ力のみを受けて円形軌道を描き、再びギャップに到達する。この時にちょうど反対の電場が電極間に生じるような磁場、電極間電圧の周波数を選んでやると粒子は再び加速され、もう一つの電極の中を先ほどより半径の大きな円形軌道を描き飛行する。軌道の拡大と粒子の飛行速度の増加が釣り合うため、次に粒子がギャップに到達するまでにかかる時間は先ほどと同じである(等時性)。したがって、一旦加速を始めた粒子はギャップに到達するごとに加速され、大きなエネルギーを比較的容易に達成することができる。粒子が電極の外周の壁に達すると偏向電極で軌道の向きを変えて、ターゲット室に導くか、窓を通して加速函の外に導かれる[5]

以上は理想的なサイクロトロンに関する記述であるが、実際にはいくつかの制限がある。まず粒子の散逸を防ぎ安定した加速を実現するためには、粒子を収束(フォーカシング)する必要があり、そのためには磁場を一様な状態からずらさなければならないということである。もう一つは、粒子が相対論的速度(光速に近い速度)まで加速されると、もはや上記の等時性は成り立たず、加速を継続することが出来なくなるという点である。

これらの問題点を解消するために歴史的には様々な工夫がなされてきたが、エネルギーフロンティアの開拓はシンクロトロンに道を譲ることとなった。現代のサイクロトロンはセクター型にすることにより上記の問題を部分的に解決し、大強度重イオン加速器として原子核物理学の発展に寄与している。
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