力場_(化学)
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力場はエタン分子の結合伸縮エネルギーを最小化するために使用されている。

分子モデリングの文脈における力場(りきば、: force field)は、粒子の系(通常分子および原子)のポテンシャルエネルギーを記述するために用いられる関数および媒介変数を意味する。力場関数および媒介変数(パラメータ)セットは、実験ならびに高レベルの量子力学計算に由来する。「全原子」力場は水素を含む系の全ての種類の原子のパラメータを提供するが、「融合原子 (united-atom)」力場は、メチルおよびメチレン基中の水素および炭素原子を単一の相互作用中心として扱う。タンパク質の長時間シミュレーションに頻繁に使用される「粗い (corse-grained)」力場は、計算の効率性を上げるためにより粗い表現を用いる。

化学および計算生物学における「力場」という用語の用法は、物理学における標準的な用法とは異なっている。化学では、ポテンシャルエネルギー関数の系であり、物理学で定義される力場スカラーポテンシャル勾配である。
関数形式詳細は「分子力学法」を参照連続体溶媒と分子力学ポテンシャルエネルギー関数

力場の基本関数形式は、共有結合で結ばれた原子と関係する結合項ならびに長距離静電力およびファンデルワールス力て描写される非結合項を含んでいる。これらの項の具体的な分解は力場に依存するが、加法的な力場における全エネルギーに対する一般的な形式は   E total = E bonded + E nonbonded {\displaystyle \ E_{\text{total}}=E_{\text{bonded}}+E_{\text{nonbonded}}} と書くことができる。共有結合および非共有結合の寄与は以下の総和で与えられる。 E bonded = E bond + E angle + E dihedral E nonbonded = E electrostatic + E van der Waals {\displaystyle {\begin{aligned}E_{\text{bonded}}&=E_{\text{bond}}+E_{\text{angle}}+E_{\text{dihedral}}\\E_{\text{nonbonded}}&=E_{\text{electrostatic}}+E_{\text{van der Waals}}\end{aligned}}}

結合および角度項は通常、結合の開裂を許さない調和振動子でモデル化される。より高い伸縮状態にある共有結合のより現実的な描写はより高級なモースポテンシャルで与えられる。その他の結合項の関数形式はそれぞれ大きく異なっている。適正二面角項は通常含まれる。さらに、芳香環およびその他の共役系の平面性を強調するための「不適切なねじれ」項や、角度や結合長といった異なる内部変数の相互作用を記述する「交差項」も加えられる。一部の力場は水素結合のための明示的な項を含んでいる。

非結合性相互作用は、最も計算的にコストが大きい。そのため一般的には2体間のエネルギーのみを相互作用として考慮する事が多い。ファンデルワールス項は通常レナード=ジョーンズ・ポテンシャルを用いて、静電項はクーロンの法則を用いて計算される。しかし、そのどちらについても、分極率を考慮するために、定数倍されるなどの調整がされる事がある。この形式の力場はもともと1970年代に生体分子を再現するために研究されてきたものだが、2000年代初頭に周期表の他の化合物(金属、セラミック、鉱物、有機化合物)に対して適用できるように一般化されてきた。[1]
パラメータ化

ポテンシャルの関数型に加えて、力場はそれぞれの原子の種類のための一連のパラメーターを定義する。例えば、力場はカルボニル基ヒドロキシ基中の酸素原子のための異なるパラメーターを含んでいる。典型的なパラメータセットは個別の原子について原子質量ファンデルワールス半径、部分電荷の値を、結合した原子のつながりについて結合長、結合角、二面角の平衡値を、それぞれのポテンシャルについての有効バネ定数に対応する値を含む。現在のほとんどの力場は、それぞれの原子の電荷に局所的な静電環境によって影響されない単一の値が割り当てられている「固定電荷」モデルを用いている。次世代の力場では、近隣の原子との静電相互作用によって粒子の電荷が影響を受ける分極性モデルが取り込まれている。例えば、分極性は誘起双極子を導入することによって近似できる。また、ドルーデ粒子(それぞれの分極可能原子にバネ様の調和ポテンシャルによってつながれた質量のない電荷を持つ仮想部位)によって表現することもできる。一般的に使用される力場への分極性の導入は局所的静電場の計算に関連する高い計算コストによって阻害されてきている。

多くの分子シミュレーションがタンパク質DNARNAといった生体高分子を含むが、任意の原子の種類についてのパラメータは実験的研究および量子計算によってより扱いやすい小さな有機分子の観測から一般に得られている。種々の力場は、気化エンタルピーOPLS)や昇華のエンタルピー、双極子モーメント、様々な分光学的パラメータといった異なる種類の実験データから得ることができる。パラメータセットおよび関数形式は自己無撞着となるように力場開発者によって定義される。ポテンシャル項の関数形式は非常に類似した力場間(あるいは同じ力場のバージョン間)でさえも大きく異なっているため、ある力場からのパラメータは異なる力場からのポテンシャルと共に決して用いてはならない。
制約

全ての力場は様々な近似と実験データに基づいている。したがって、これらは「経験的」であると言われる。力場によって、密度汎関数理論による計算結果よりも高い精度で力を予測できるものから、あてずっぽうでしかないものまで、また、密度汎関数理論でアクセスできるよりも百万倍大きい系や長時間の計算を可能にするものもある[2]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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