副流煙
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受動喫煙(じゅどうきつえん、: passive smoking、environmental tobacco smoke, ETS)とは、喫煙により生じた副流煙(たばこの先から出る煙)、呼出煙(喫煙者が吐き出した煙)を発生源とする、有害物質を含む環境たばこ煙(ETS)に曝露され、それを吸入することである。

間接喫煙(かんせつきつえん)、二次喫煙(にじきつえん、英:second-hand smoke, SHS)ともいう。

受動的喫煙環境はIARC発がん性で「グループ1(発がん性あり)」に分類される。1981年、日本の平山雄によって発表された平山論文により、世界で初めて受動喫煙の害が提唱された。喫煙後に衣服や髪、喫煙室の壁やカーテンのタールなどの付着から発散する有害物質への曝露(三次喫煙[1])、屋内の空気清浄機によるフィルターで煙粒子を除いた気相有害成分などの煙として見えない有害成分に曝露されて、通常の呼吸で吸引する状態を含む。

喫煙者が口や鼻から吐き出すたばこの煙、保持するたばこの先から立ち上る煙、空気中に漂うたばこの煙、ポイ捨てたばこや灰皿のたばこのくすぶりによる煙、目に見えない薄く広がった状態、煙粒子成分の除去された状態、喫煙後数呼吸に含まれる状態のいずれも、有害物質が多く含まれており、人の健康に悪影響を及ぼす[2]日本厚生労働省は、紙巻きたばこだけでなく、加熱式たばこによる受動喫煙でも健康被害をもたらす可能性があるとの見解を公表している[3]。受動喫煙による健康被害については「受動喫煙症」を参照。酒場における環境たばこ煙。人が環境たばこ煙に曝露されることを受動喫煙という。
概説

受動喫煙は、たばこの先から立ち上る煙、喫煙中に落下した燃えた状態の火種、喫煙者から吐き出されるから出る煙、投棄された吸殻から立ち上る煙、目に見える煙だけからもたらされるわけではない。喫煙後の数十回の呼気には計測器で検知可能なレベルの粒子状物質が混在している[4]

日本では「喫煙室の平均粉じん濃度を0.15mg/m3 以下」(PM10)とすることが厚生労働省の職場における喫煙対策のためのガイドラインの喫煙室の基準[5] であるが、微小粒子状物質に係る環境基準は(PM2.5)にて「1年平均値が15μg/m3以下であり、かつ、1日平均値が35μg/m3以下であること。」[6] である。PM2.5による測定で、受動喫煙のある環境たばこ煙(ETS)の存在する状態を有意に判別することが、受動喫煙対策研究者らの主流である。

受動喫煙は、主に急性影響によって、目のかゆみ・痛み、涙、瞬目、くしゃみ、鼻閉、かゆみ、鼻汁、のどの痛み、頭痛、吐き気、、喘鳴、呼吸抑制、指先の血管収縮、心拍増加、皮膚温低下を引き起こす。喫煙によって生じる環境たばこ煙(ETS)の有害物質の作用である。

慢性影響により、がん心臓疾患及び呼吸器系疾患などの様々な疾病の危険が高まる。予防医学の観点からも受動喫煙の防止が社会的に求められている動きが世界で広がっている。

疫学毒物学などの分野を中心に提唱され、受動喫煙の人体への影響は2006年米国公衆衛生総監報告でも受動喫煙による健康被害が存在する旨が発表された[7]

WHO(世界保健機関)によると、全世界で、受動喫煙によって毎年数十万人の非喫煙者が死亡しており[8]、各国における包括的な疾患データが最も揃っている2004年で受動喫煙を原因とした全世界の死亡人数は、推定約60万人[9]である。WHOによれば、職場の受動喫煙によって毎年世界でおよそ20万人の労働者の命が奪われている[10]

日本国内では、健康増進法により「国民は生涯にわたり、自らの健康状態を自覚し健康増進に努めなければならない」と法的に規定されていることから、受動喫煙に対しても防止対策が示されている[11]。国際的な受動喫煙防止意識の高まりはWHOによるたばこの規制に関する世界保健機関枠組条約(たばこ規制枠組条約)として、日本でも健康増進法などでWHO(世界保健機関)の枠組みを元に具体化されている。WHO加盟国において医学公衆衛生などの関連諸学会・公衆衛生機関などは予防観点から、受動喫煙防止を要望・推進している。
歴史
医学界での研究の進展

受動喫煙と健康に関する疫学研究は、1960年代後半に初めて発表された。総括的には、1972年にアメリカ公衆衛生局受託隊長(en)の名で出された報告書[12]が初めて、受動喫煙を健康に対するリスクとして認定した。

1993年、米国環境保護局(EPA)は環境たばこ煙(ETS)に対する危険度評価の最終報告書[13] において、ETSをグループA(既知の人体における)発癌物質と分類した。
WHO勧告「受動喫煙からの解放」

2007年にWHO(世界保健機関)は勧告書において「受動喫煙が健康に害をなしている」という根拠と、「社会的コストならびに経済的コストの重大な増加を招いていること」を示し、その解決策として「受動喫煙からの解放」を行う政策を提言している[14]。提言1 — 換気をするのではなく、100%禁煙の環境をつくる。提言2 — 法律により、たばこを包括的に規制する。提言3 — 法律により、実行性のある施策が適切に施行されるようにする。提言4 — 家庭内においても、受動喫煙を減少させるように社会教育する。
たばこ業界による反対活動

医学会に代表される禁煙推進勢力に対し、たばこ業界は、様々な形で独自のキャンペーンあるいは妨害工作などの反対活動を行っているとされている。これらは、たばこ産業に対する訴訟過程で明らかにされた数百万件の内部文書により、明らかとなった。

2000年4月8日付け『
ランセット』(The Lancet)の出版物の中で、米カリフォルニア大学サンフランシスコ校の研究者達が、フィリップモリス社及び他のたばこ会社の内部資料を検証した結果、たばこ産業側が論文の解釈に対し、混乱と論争を引き起こすよう画策し、IARCの受動喫煙についての調査研究を妨害していたとの報告が行われた[15]

同年8月2日にWHOたばこ産業文書に関する専門家委員会は、たばこ業界が秘密裏に資金を提供しているたばこ産業界と陰で資金的につながりのある国際的な科学者達を使い、WHOのタバコ規制に対する妨害工作を行っていたと報告している[16]

2001年5月31日にWHO事務局長グロ・ハーレム・ブルントラント博士は、受動喫煙が疾患の原因となり、許容範囲(安全なレベル)が存在しない旨の声明を発するとともに、たばこ産業による受動喫煙対策への妨害工作を批判している(後述の声明参照)。

現在までに様々な科学的証拠が発表されており、受動喫煙が害を及ぼすことは各国の禁煙に関する医学界の定説となっている。また、米国公衆衛生長官のレポートのように議論の余地は無いとしている。しかし、成否について現在においても様々な議論がなされている。あるいは、タバコ産業とその関連団体が長年にわたってタバコと健康に関するさまざまな観点の研究と報告書作成に資金を出してきたことは、タバコ産業の見かけ上の社会的信頼性を高める役割を果たしてきたが、このような活動に関与することは健康増進という目標と利害相反する行為であり、倫理上の問題があるという意見もある[17]
傾向

日本では、「男性の72%が職場や学校で、また女性の51%が家庭で、それぞれ受動喫煙にさらされている」との1999年(平成11年)の調査(約13000人対象)がある[18]。この割合は減少傾向にあるものの、2017年に受動喫煙の機会があった者の割合(喫煙者を除く)を場所別にみると、飲食店で42.4%、路上で31.7%、職場で30.1%であり、近年は横ばいである。[19]
受動喫煙量の減少

1988年から、米国の2つの保健機関(アメリカ保健統計局とアメリカ疾病予防管理センター)による「保健栄養調査」において、血清コチニン濃度を調べることで、非喫煙者の受動喫煙の程度が調査された。それによると、2002年に至るまでの約10年の間に受動喫煙量は減少(平均75.3%減)を示したが、受動喫煙の影響はそれでも多大であることがわかった。[要出典]
年齢

年齢が低いほど血清ニコチン濃度は高くなる傾向があり、子供は成人よりも高度に環境たばこ煙に曝されていることが示された[20]。血液以外でも尿唾液、毛髪にも、発癌物質を含むたばこ特異的な成分が、ETSに曝露された非喫煙者から検出されている。また、喫煙後に子供を抱いたり会話をする喫煙者の息からも有毒物質が出続ける[4][21]


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