刺激惹起性多能性獲得細胞
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iPS細胞とも呼ばれる「人工多能性幹細胞」とは異なります。

刺激惹起性多能性獲得細胞[1][2](しげきじゃっきせいたのうせいかくとくさいぼう)は、動物の分化した細胞に弱酸性溶液に浸すなどの外的刺激を与えて再び分化する能力を獲得させたとして発表された細胞である。この細胞をもたらす現象を刺激惹起性多能性獲得(: Stimulus-Triggered Acquisition of Pluripotency)と言う[1][3]

刺激惹起性多能性獲得細胞は、この現象の英語名から、論文内での略称や一般の呼称としてはSTAP細胞(スタップさいぼう、: STAP cells)と呼ばれる[注 1]。同様に、現象についてはSTAP現象(スタップげんしょう、: STAP)、STAP細胞に増殖能を持たせたものはSTAP幹細胞(スタップかんさいぼう、: STAP stem cells)とされる[6]。また、胎盤形成へ寄与できるものはFI幹細胞と呼ばれる[7]

2014年1月に小保方晴子理化学研究所)と笹井芳樹(理化学研究所)らが、チャールズ・バカンティハーバード・メディカルスクール)や若山照彦山梨大学)と共同で発見したとして、論文2本を学術雑誌ネイチャー1月30日付)に発表した[8][9]。発表直後には、生物学の常識をくつがえす大発見とされ[3][10]、小保方が若い女性研究者であることもあって、世間から大いに注目された。

しかし、論文発表直後から様々な疑義や不正が指摘され、7月2日に著者らはネイチャーの2本の論文を撤回した[11][12]。その後も検証実験を続けていた理化学研究所は、同年12月19日に「STAP現象の確認に至らなかった」と報告し、実験打ち切りを発表[13][14]。同25日に「研究論文に関する調査委員会」によって提出された調査報告書は、STAP細胞・STAP幹細胞・FI幹細胞とされるサンプルはすべてES細胞の混入によって説明できるとし、STAP論文は「ほぼ全て否定された」と結論づけられた[15]
研究の特徴
研究の着想

研究の着想は「植物のほか、動物の中でもイモリは傷つくなど外からの刺激をきっかけに、万能細胞化して再生する。ヒトを含めた哺乳類でも同様のことが考えられないか」という素朴な疑問にあるとされた[16]。小保方が大学院時代に留学したハーバード大学医学大学院のブリガムアンドウィメンズ病院麻酔科教授のチャールズ・バカンティらは、成体内に小型の細胞が極少数存在し、これが休眠状態の多機能細胞ではないかとの仮説を唱えていた(胞子様細胞[1]。小保方はこの研究室で組織細胞をガラスの細管に通して小型細胞を選別する実験を行った。この実験で小型の幹細胞は取り出せるが、元の組織には幹細胞が観察されないこと、繰り返し細管に通すと少しずつ小型の幹細胞が出現することなどを知った。小保方は「小さい細胞を取り出す操作をすると幹細胞が現れるのに、操作しないと見られない。幹細胞を『取り出している』のではなく、操作によって、『できている』という考えに至った」と話している[17]
主張された意義

従来、遺伝子の導入などによらず、外的刺激を与えることのみで、動物細胞の分化した状態を無効にして初期化(リプログラミング)し、万能細胞にすることはできないとされていたため、STAP細胞の発見は生命科学の常識を覆す大発見とされ[3][10]細胞初期化原理の解明や医療への応用が期待された[18][19]。ここで外的刺激とは細胞を弱酸性溶液(pH5.7)に短時間浸すというような簡単な処理であるとされた[8]論文で主張されているSTAP細胞・STAP幹細胞の特徴をiPS細胞の特徴と比較したもの。

また、発表当初はiPS細胞と比較したSTAP幹細胞の優位性についても強調された[20]。しかし、iPS細胞の発見者である山中伸弥により反論され[21]、理化学研究所も「誤解を招く表現があった」として、3月18日には当初の主張を撤回している[22][23]。しかし、最初の会見時に記者に配布された解説図は iPS 細胞の樹立確率を1%としており、これを「牛が無理やり細胞を引きずる」絵で表現しているのに対し、STAP 細胞の樹立については「魔法使いが簡単に高い確率で一瞬で STAP 細胞を作った」絵を用いており、誤解というよりは、明らかに iPS 細胞に対する優位性を主張していた[24]

STAP細胞はiPS細胞とは異なり、体内での臓器再生等、別の可能性があることが期待されていた[18][25]。また、小保方は細胞初期化を制御する原理が解明できれば、細胞の状態を自在に操作可能な技術につながると語り[26]、山中も初期化のメカニズムに迫るにあたって有用だとしていた[18]

また、共著者の一人である東京女子医科大学教授大和雅之は、外的刺激による初期化は生物が生存のために環境に適応する進化的意味合いを持つとし、未知の生命現象が解決する可能性[注 2]や生物学におけるインパクト、波及効果を指摘していた[19]
懸念された問題点

STAP細胞は胎児にも胎盤にもなれることから、多能性細胞を越える「全能性細胞」であるかもしれないと言われていた[27]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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