列車便所
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近鉄23000系電車の多目的トイレ

列車便所(れっしゃべんじょ)は、鉄道車両の車内に設置される便所のことである。
設置と形態

鉄道草創期には列車への便所設置はなく、乗客は途中停車駅での休憩時間に用を済ませる必要があったが、鉄道網の延伸で19世紀中期には長距離の鉄道旅行が普及し、欧米の鉄道では車内に便所を設置することが一般化した。

長距離運用のあるアメリカなどでは、ディーゼル機関車の車内に便所を設置した例もあったが、日本で機関車に便所を設置した例はない。これは、長距離列車の場合でも、機関士・運転士は通常2時間程度乗務し、所定の駅で別の要員と交代するため、便意は長距離乗務のある車掌ほど深刻にはならないとされていた。なお、貨物列車に乗務するJR貨物では長い乗務時間でも用を足せるように簡易トイレを持参する運転士もいる[1]

ヨーロッパのように、陸続きの鉄道やアフリカなど治安の悪い国々の鉄道では、無銭乗車者、密入国者、麻薬常用者などの犯罪者が潜伏するおそれがあるため、ホーム停車中はトイレが施錠され、使用禁止とされている例もあり、自動小銃を携行した警備員が警戒に当たっている場合もある[2]。日本でも不正乗車をする利用者が中で車内改札(検札)を逃れるケース、通学の中学・高校生などが中で喫煙するケースや、内部で放火などの犯罪が行われたりするケースが後を絶たない[3][4]
真空吸引式・清水空圧式

真空吸引式はトイレタンクを減圧して真空にしておき、臭いなども含めて吸引する方式である[5]。このほか、清水空圧式も利用されている[6]
バイオトイレ

2008年北海道旅客鉄道(JR北海道)が列車便所にバイオトイレを導入する研究を、札幌ベンチャー企業バイオラファーと茨城県の機械製造企業スターエンジニアリングとの共同で行った。おがくずに専用の細菌を混ぜたものを分解槽に入れ、その中で汚物と攪拌することで分解処理し、二酸化炭素と水に変える。従来のバイオトイレには低温に弱い欠点があったが、新たに研究された低温に強いアシドロ菌が導入されたことで、低温の環境下でも使用可能になった。タンク内の汚物の抜き取りおよび汚物の処理には多大な費用を要するが、バイオトイレは菌の交換、攪拌とヒーターの燃料費が掛かる程度で、大きなコストダウンが見込まれるとした[7]。翌2009年には流氷ノロッコ号客車1両に試験的に搭載された[8]
開放式停車中のトイレ使用を禁じるプレート(ポーランド、独仏英の4か国語でその旨が書かれている)

開放式とは、列車内の便器の下から直に線路に開放されている方式をいう[6]。俗に「垂れ流し式」ともいう[5]。英語では "drop chute toilet"(落下式便所)または "hopper toilet" 。汚物は高速運転中であれば自然に線路上に飛散し、屋外環境においては自然に風化・消滅する。

列車便所ではもっとも原始的な方式であるが、日本の鉄道でも19世紀末から100年以上にわたり開放式が実用されていた。ヨーロッパでは、高速列車以外では未だに多く残っている[2]。開放式の場合、列車走行中でなければ汚物は自然飛散せずにそのまま直下に流下してしまうため、停車中には使用しないよう注意書きが掲示されることがある。また、トンネルや地下線区間でも風化を期待できないため、使用が禁じられている事例がある。

線路等の鉄道設備への衛生上の影響や、沿線住宅地域への悪臭等の被害など「黄害」(おうがい、こうがい)と呼ばれる問題が生じた[9]
粉砕式

処理方式として汚物に薬品を混ぜて化学的に殺菌・脱臭した上で、回転羽で粉砕して線路に排出する方式[6]。黄害を根本的に解決できなかったことから、廃止された[6]
貯留式

最初に列車便所に貯留式便槽を設けたのはイギリスで、地下鉄線に直通する客車の汚物飛散対策として1910年頃に実用化したのが最初である。日本での導入は、1950年代までずれ込んだ(後述)。貯留式のトイレは汚水の抜き取りを頻繁に行わなければならず、構造上、列車車両がトンネル内などに高速で入り車内が減圧するときに技術的な課題があった[5]
循環式

循環式は1964年に開発された方式で、貯留タンクに溜めておいた初期水と希釈された薬剤液で便器を洗浄し、洗浄水を循環使用する方式である[6]。しかし、再利用水は使用するたびに汚れてしまい、運用の時間の長い車輌では洗浄水が屎尿の色に変化したり、大便や清拭紙の固形物によるトイレの詰まりが頻繁に発生した[6][5]。また、悪臭を防ぐための薬剤液が環境に悪影響を与えると批判され、使用量が減少したが、悪臭の抑制が課題とされた[6][5]
浄化排水式(カセット式)

浄化排水式(カセット式)は1979年に開発された方式で、汚物用のカセットと汚水の貯留消毒用の消毒槽で構成される[6]
日本の列車便所

短距離向けの通勤用車両の一部を除いて、日本旅客用鉄道車両の多くは車内に乗客用の便所を設置している。それらは車両内の限られた空間に設置される必要性から、通常の建築物に設置される便所とは多分に異なる性格を有し、独特の発達を遂げてきた。

日本の鉄道では洋式便器を設置するのが普通で、2010年までは階段状の床板に填め込まれた和式両用便器が設置されていた。室内片隅には小型の手洗器が設置されている。また特急列車などの優等列車に設置される列車便所は、多くの場合隣接する形で洗面所室が設けられている。キハ54形の便所FRPで構成されユニット化された新幹線0系電車の化粧室

通勤形車両については本数が多く、乗車距離が短い大都市への導入がほとんどであるため便所が設置されることはあまりないが、地方では乗車距離が長い傾向にあるため設置される場合がある。国鉄JRにおいては、国鉄時代は気動車であるキハ35形キハ38形0番台では長距離運用が想定されたため、製造時から便所が設置され、旧型国電の通勤形においても地方への転出に際して一部車種に設置した事例はあるが、新性能電車で便所を設置した事例はない。ただし国鉄分割民営化後には103系105系205系の一部に便所を取り付けた改造車が登場した。JR発足後は、地方でも通勤形車両が導入されるケースが増加したため便所付きの通勤形車両が増加している。

列車トイレで使用されるトイレットペーパーは一部の列車を除き設置されていないケースが多かったが、現在では追設または車両新製当時などから既に設置されているケースが増えつつある。またかつては、鉄道駅構内のトイレにおいてもペーパーの設置が行われず、代わりに入口にちり紙の自動販売機を設置する事例が多かったが、2000年代から2010年代にかけては設置される事例が増加している。旧国鉄時代から現在のJRや各私鉄各社が使用するトイレットペーパーのメーカーはダイオーペーパープロダクツ(旧・日清紡)の「白樺」が多かったが、現在はそれ以外の多数メーカーも使用している。JR九州では駅のトイレも含め、乗車券リサイクルした再生紙トイレットペーパー「きっぷうまれ」を使用している。
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