切腹_(映画)
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切腹
Harakiri
監督
小林正樹
脚本橋本忍
原作滝口康彦
製作細谷辰雄
出演者仲代達矢
石浜朗
岩下志麻
丹波哲郎
三國連太郎
音楽武満徹
撮影宮島義勇
編集相良久
配給松竹
公開 1962年9月16日
上映時間133分
製作国 日本
言語日本語
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『切腹』(せっぷく)は、1962年(昭和37年)9月16日公開の日本映画。配給は松竹滝口康彦の小説『異聞浪人記』(1958年)を元に橋本忍が脚本、小林正樹が演出・監督した作品である。公開時の惹句は、「豪剣うなる八相くずし! 嵐よぶ三つの決闘!」である[1]。昭和37年度芸術祭参加作品。社会派映画を監督してきた小林正樹が、初めて演出した時代劇映画である。武家社会の虚飾と武士道の残酷性などの要素をふんだんに取り入れ、かつて日本人が尊重していたサムライ精神へのアンチテーゼがこめられた作品である。しかし監督の意図とは逆に、外国の映画評はその残酷性を古典的な悲劇美として高評した[2]

1962年度のキネマ旬報ベストテンの第3位となり、仲代達矢は主演男優賞を受賞した[3][4]1963年第16回カンヌ国際映画祭審査員特別賞[1]、第13回毎日映画コンクールでは日本映画大賞・音楽賞・美術賞・録音賞を受賞した。また、ブルーリボン賞では橋本忍が脚本賞を受賞した。

この映画は、三島由紀夫の自主製作映画『憂国』(1966年4月封切)の製作動機にも影響を与えている[5][6]
あらすじ

1630年(寛永7年)5月13日、井伊家の江戸屋敷を安芸広島福島家元家臣、津雲半四郎と名乗る老浪人が訪ねてくる。半四郎は井伊家の家老である斎藤勘解由に、「仕官もままならず生活も苦しいので、このまま生き恥を晒すよりは武士らしく、潔く切腹したい。ついては屋敷の玄関先を借りたい」と申し出た。不審に思った勘解由は半四郎に会い、先日、同じように申し出てきた千々岩求女(ちぢいわもとめ)という若い浪人を庭先で本当に切腹させるという挙に出たことを話し始める。

千々岩求女が「切腹のために、玄関先を借りたい」と申し出てきた。これは当時、江戸市中に満ち溢れた食い詰め浪人によって横行していたゆすりの手法であった。発端は仙石家に現れ切腹を申し出た男で、仙石家は男を「誠に見上げた信念だ」と士官にし、それを真似した食い詰め浪人どもが入れ代わり立ち代わり江戸の町々の庶家の玄関先へ訪れるようになっていた。そのような輩に対し、庶家は金品を与えて帰していたのだが、「他家とは違い、井伊家は骨があると思えばこそ、昨日までは浪人どももその門を避けていた」と、井伊家が甘く見られたことに家中の沢潟彦九郎は憤った。もし、金品を与えて帰せば、入れ代わり立ち代わり食い詰め浪人が現れるは明白だった。家中には「他家同様、なにがしかの金品を与えて帰らせよう」と言う者もいたが、彦九郎はそれに異議を唱え、勘解由に進言し、本当に切腹させることにした。ただし世間の倫理的批判を躱すために求女に対して、礼を尽くした対応をする必要があると考え、求女を入浴させ、衣服まで与えた。その際求女に対し、一旦は仕官が適いそうなそぶりをして希望を抱かせ、そのあと切腹に至らせるという念の入った陰険さを示した。

玄関先ではなく、庭先で切腹することになり、家臣一同が見守ることになった。その際に求女は、いったん家に帰り戻り切腹することを願ったが、勘解由は「切腹すると称して玄関先を借りたいと言い、金銭にありつく武士の風上にも置けない輩がいるが、貴殿はそのような輩とは毛頭思わん」と許さなかった。ここに至って求女は、武士の意地を通すために切腹する覚悟を決めた。だが、もともと切腹する心積もりはなかったので、腹を召す脇差を準備していなかった。求女は武士の魂である刀でさえ質草に出さねばならぬほど困窮し、携えていたのは竹光であった。しかし、介錯人の彦九郎はそれを知りながら「最近では三方の上の脇差に手をかけた瞬間に介錯人が首を切り落とすが、今回は古式に則り、腹を十文字に切り裂いてから介錯を行う。十二分に切り裂いてからでないと介錯はしない」と告げる。彦九郎と勘解由は残酷にも、竹光で詰め腹を切らせたのである。

この判断は、世間からの倫理的な批判を招きかねない危険な処置でもあり、部下からも諌められたが、彦九郎と勘解由は耳を貸さなかった。求女は切れぬ竹光を腹に向けて3度、4度と血を滲ませながら突き立てたが、いくら突き立てたところで、腹は切れない。求女は柄を地面に立て、自重で腹に突き刺した。脂汗とともに悶え苦しみ、介錯を求める求女に、彦九郎は無慈悲にも首を落とす時間を故意に遅らせ、死に至るまで壮絶な苦痛を与えさせた。ついに求女は舌を噛み切って絶命する。

そのことに勘解由は良心の呵責を感じ、自分がした酷な判断を多少なりとも悔いていた。それゆえに今回の半四郎には、「勇武の家風できこえた井伊家はゆすりたかりに屈することはない」からと、そのいきさつを語り聞かせ、「悪いことは言わないから、このまま帰れ」と言う。だが半四郎は動じず、千々岩求女の同類では決してなく本当に腹を切る覚悟である、と決意のほどを述べる。こちらの温情を受け入れない頑なな態度に勘解由は腹を立て、同じ過ちを繰り返すことになることを知りながら、配下の者に切腹の準備を命じる。

いざ切腹の時となり、半四郎は介錯人に井伊家中の沢潟彦九郎、矢崎隼人、川辺右馬介を1人ずつ名指しで希望する。しかしその3名は、奇怪なことに揃って病欠であった。手近の者に介錯させて事を早々に片づけたい勘解由に対し、半四郎は悪事を犯した罪人ではない自分が請うた切腹である以上、介錯を指名するに道理有りとして拒否する。これに勘解由は異議を唱えられず、家来を病欠3名の究明に走らせる。それを見越した上で半四郎は、勘解由らの知らなかった求女の事実と衝撃的な内容を語り始める。

求女の父親は半四郎の友人で、幕府によって取り潰しとなった主を追って切腹、残された求女を半四郎に託していた。求女が半四郎の娘、美保を妻にもらってくれたため、彼は半四郎の娘婿でもあった。貧しくも男の子、金吾を授かり、幸せなひとときであったが、美保と金吾は病に倒れてしまう。求女は武士の誇りを捨て、医者代を得たいがために井伊家を訪れていたのだった。

彦九郎らによって届けられた求女の亡骸を見て、無情にも竹光で腹を切らされたことに、断じて許すことのできない憤怒が半四郎に湧いた。そして、貧しくても刀だけは手放すまいと考えていた自分を恥じた。求女の妻子も程なく病で息を引き取った。もはやこの世に未練がなくなった半四郎は、事実の究明と復讐のために井伊家に乗り込んでいたのだった。求女はただ理由を隠して帰宅を嘆願したが、それを冷たく拒絶したことは、勘解由がその場では事情を知る由もなかったため致し方ないとはいえ、半四郎から見れば酷薄な処置であった。「こんなに人がいるのに、誰か一人でも理由を聞いてくれる者があっても良かったではないか」と問うた。

半四郎が指名した3名は求女を死に追いやった者たちであり、剣の達人の半四郎によって、事前の果し合いでを切り落とされていた。武士にとって己の不甲斐なさから戦いにて髷を取られることは、命を賭してでも雪がねばならない恥であったが、卑劣にも3名は名誉も命も惜しみ、髷が生え揃うまで仮病と偽って出仕しないつもりであった。そして半四郎は「武士道など建前に過ぎない」と笑う。

全てを知った勘解由は、井伊家の恥が世間に広まることを恐れ、部下に半四郎を取りこめ斬り捨てるように命じる。情け容赦もなく浪人の求女を竹光で切腹させ、かつ家臣が不覚にも髷を落とされたことが世間に知られれば、譜代といえども幕府よりおとがめを受けずにはいられないことを、勘解由は知っていたからである。数十名の相手に囲まれる半四郎だったが、彼は泰平な寛永の世に育った鈍な武士ではなく、戦国の世を生き抜いた剣の達人であり、井伊家の家臣達は返り討ちにて多くの死傷者を出すに至る。

結局、半四郎は土壇場で切腹し、鉄砲で討ち死にする。上記の病欠の3名については、彦九郎は切腹して果て、他の2人は勘解由によって拝死を受け、返り討ちによる傷者は手厚い治療を受ける。そして公儀には、半四郎は見事切腹したとし、死者はすべてが病死として報告される。管理職の勘解由にとって最優先すべきことは組織(藩)の存続であり、半四郎が笑った通り武士道は建前に過ぎなかったのである。
出演

役名俳優
津雲半四郎
仲代達矢(俳優座)
千々岩求女石濱朗
美保岩下志麻
稲葉丹後三島雅夫(俳優座)
矢崎隼人中谷一郎(俳優座)
福島正勝佐藤慶
千々岩陣内稲葉義男(俳優座)
井伊家使番A井川比佐志(俳優座)
井伊家使番B武内亨(俳優座)
川辺右馬介青木義朗
清兵衛松村達雄
井伊家使番C小林昭二
代診林孝一
槍大将五味勝雄
新免一郎安住譲
人足組頭富田仲次郎
沢潟彦九郎丹波哲郎
斎藤勘解由三國連太郎東映


その他

小姓:天津七三郎、田中謙三、中原伸、池田恒夫、宮城稔、門田高明、山本一郎、高杉玄、西田智、小宮山鉄朗、成田舟一郎、春日昇、倉新八、林健二、林章太郎、片岡市女蔵、小沢文也、竹本幸之佑
スタッフ

監督:
小林正樹

製作:細谷辰雄

製作補:岸本吟一

脚本:橋本忍

原作:滝口康彦(『異聞浪人記』より)

撮影:宮島義勇

音楽:武満徹

美術:戸田重昌、大角純平

録音:西崎英雄


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