分散制御システム
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分散制御システム(ぶんさんせいぎょシステム、英語: distributed control system、略称:DCS)は、制御システムの一種で、制御装置がのように中心に1つあるのではなく、システムを構成する各機器ごとに制御装置があるもの。制御装置はネットワークで接続され、相互に通信し監視し合う。工場の生産システムなどによく使われる。

DCS は産業の様々な部分で使われており、以下のようなものが分散制御システムと呼ばれている。

送電網発電

環境制御システム

信号機

水管理システム

石油精製プラント

化学プラント

製薬

センサーネットワーク

タンカーなどの貨物船

要素

DCSには独自設計のプロセッサをコントローラとして使うことが多く、通信方式や通信プロトコルも独自のものであることが多い。入出力部はモジュール化されている。プロセッサは入力モジュールから情報を受け取り、出力モジュールに情報を送る。入力モジュールは対象プロセスの入力機器から情報を受け取り、出力モジュールは出力機器に命令を送る。プロセッサと各モジュールを繋ぐバスマルチプレクサ/デマルチプレクサを経由する。分散コントローラ群と中央コントローラ、さらにはユーザインタフェースあるいは制御コンソールも何らかのバスで接続される。

分散制御システムの各要素は、スイッチ、ポンプ、バルブなどの物理的装置と直接接続されることもあるし、SCADAシステムのような中継システムを経由することもある。
応用

分散制御システムは製造プロセスを制御するもので、連続的制御の場合とバッチ的制御の場合がある。例えば、石油精製プラント、石油化学工場、発電所、製薬、食品製造、セメント製造、製鋼、製紙などで使われる。DCSはセンサやアクチュエータと接続され、プラントを通過する材料の流れを制御するために、設定値を制御する。典型例として、圧力センサ、コントローラ、制御バルブから構成される設定値制御ループがある。圧力や流量を計測した結果がコントローラに送られる。計測値がある値に達すると、コントローラは、流量が所定の値になるまでバルブの開閉を指示する。大規模石油精製プラントでは、入出力点が数千にも及び、非常に多数のDCSを使用する。制御対象はパイプを流れる液体に限られるわけではなく、製紙機械や関連する変速装置、電動機制御センター、セメント窯、採掘操作、鉱石処理ファシリティなど様々なものがある。

典型的DCSは、機能的にも物理的にも分散配置されたデジタルコントローラ群から構成され、それぞれのコントローラは最大でも256個程度の制御ループを実行する。入出力デバイスはコントローラに組み込まれている場合もあるし、遠隔にあってネットワーク接続される場合もある。最近のコントローラは計算能力が高く、PID制御だけでなく、論理制御や線型制御も実行できる。

DCS にワークステーションを接続することもあり、そのようなワークステーションで設定を行ったり、オフラインのパーソナルコンピュータで設定したりする。制御ネットワークには、銅線のツイストペアケーブル光ファイバーケーブルが使われる。何らかの計算処理やデータ収集、レポート作成などの用途で、サーバなどが制御ネットワークに接続されることもある。
歴史

1960年代に登場した初期のミニコンピュータは工業プロセスの制御に使われた。例えば、IBM 1800 は初期のプロセス制御用コンピュータであり、アナログ信号をデジタルに変換する入出力ハードウェアを備えていた。

DCSの概念が登場したのは1975年で、ハネウェル(TDC 2000)と横河電機(CENTUM[1])がそれぞれ独自に製品化した。アメリカの Bristol も1975年に UCS 3000 をリリースしている。1980年、Bailey(現在はABB[2]の一部)は NETWORK 90 システムをリリース。同じく1980年、Fischer & Porter Company(現在は ABB[3]の一部)が DCI-4000 をリリースした(DCI は Distributed Control Instrumentation の略)。

DCS はマイクロプロセッサのプロセス制御への応用によって実現した。オートメーションへのコンピュータの応用はそれ以前から、Direct Digital Control (DDC) あるいは Set Point Control という形で行われていた。1970年代初め、Taylor Instrument Company(現在はAABの一部)は 1010 システムを開発し、Foxboro は FOX1 システム、Bailey は 1055 システムを開発している。これらはいずれも独自の入出力ハードウェアを接続したミニコンピュータ(DEC PDP-11 など)を利用した DDC である。バッチ制御や当時としては最新の連続制御をこれらの方法で実装していた。より保守的な Set Point Control では、アナログのプロセスコントローラ群をコンピュータで統御する方式であった。ディスプレイを備えたワークステーションによって、プロセスを文字や簡単なグラフィックスで可視化するようになった。完全なGUIが登場するのは、もっと後のことである。

DCSモデルの根本は、制御機能ブロックの導入であった。機能ブロックは、それ以前のDDCの概念である「テーブル駆動」ソフトウェアが発展したものである。機能ブロックはある意味でオブジェクト指向ソフトウェアの初期の具体化の1つと見ることもでき、アナログのハードウェア制御コンポーネントをエミュレートし、プロセス制御の基本的タスク(PIDアルゴリズムなど)を実行する、自己充足型のコードの「ブロック」であった。機能ブロックはDCSの主流として使われ続けており、Foundation Fieldbus[4] などの技術によって今日もサポートされている。

分散コントローラ、ワークステーション、その他のコンピュータ間のデジタル通信は、DCSの主な利点の一つであった。焦点はネットワークに移っていった。プロセス制御におけるネットワークは、決定性と冗長性などの機能を持つ必要がある重要な通信系統を提供する。結果として、多くの業者は IEEE 802.4 ネットワーク規格を採用した。しかし、情報技術の進展で IEEE 802.3 がプロセス制御においても優勢となり、各業者は移行が必要になった。
1980年代 ネットワーク中心の時代

DCSによって分散知的制御がもたらされ、プロセス制御にコンピュータやマイクロプロセッサが普通に使われるようになったが、工場やプラントの資源要求を統合するような範囲やオープン性には到達していなかった。多くの場合、DCSはそれまでアナログのコントローラなどで行われていたことを単にデジタルで置換しただけのものだった。その不足部分は Purdue Reference Model (PRM) で具体化され、それが後の ISA95 規格の基盤となった[5]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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