分子ナノテクノロジー
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ナノマシンフラーレンカーボンナノチューブなどの新素材は多くの分野で利用されている。

ナノテクノロジー(: nanotechnology)は、物質ナノメートル (nm, 1 nm = 10−9 m)の領域すなわち原子分子のスケールにおいて、自在に制御する技術のことである。ナノテクと略される。そのようなスケールで新素材を開発したり、そのようなスケールのデバイスを開発する。

ナノテクノロジーは非常に範囲が広く、半導体素子を分子セルフアセンブリ法という全く新たなアプローチで製造することや、ナノスケールのナノ素材と呼ばれる新素材を開発することまで様々な技術を含む。

いまだに一部の新素材やコンピュータのプロセッサに応用されている程度の段階だが、将来はこの技術によりナノサイズのロボットで治療を行ったり、さらには自己増殖能を持たせて建築に利用することができるようになると予想されている。21世紀をかけて大きく発展する分野と考えられている。

ナノテクノロジーの将来については議論もある。ナノテクノロジーによって様々な便利な新素材やデバイスが生まれることが期待される一方で、環境や人体への影響が懸念されている[1]。また世界経済への影響やナノマシンが制御不能となる危険性なども懸念されている。このため、ナノテクノロジーに対する特別な規制の要否についても議論が続いている。
目的

物質をナノメートルレベルで制御する利点は幾つかある。例えば、現在コンピュータなどで利用されている電子回路トランジスタは、だいたい数十nm程度の大きさであるが、これを1/10にすることができれば、コンピュータを現在よりもずっと小型化し、必要な電力や発熱を抑えることが可能となる。同様に、記憶装置などでも小型化・高機能化が期待される。

また、物質を数ナノメートルの大きさにすると、量子効果と呼ばれる特殊な現象が発現する。例えば、近年の電子デバイスで利用されている、電子の閉じこめによるエネルギー準位の離散化があらわれる大きさや、トンネル効果があらわれる距離は、ナノメートルの領域である。電子材料以外にも、ドラッグデリバリーシステムに代表されるような医療への展開もさかんに試みられている。
起源フラーレン C60 は炭素元素同素体の一種。各種フラーレンの研究もナノテクノロジーの範疇とされる。

物質を原子レベルの大きさで制御しデバイスとして使うという考えは、リチャード・P・ファインマンアメリカ物理学会カリフォルニア工科大学での会合で1959年12月29日におこなった講演"There's Plenty of Room at the Bottom[2]にすでにみられている。その中でファインマンは、スケールを小さくしていくにあたって様々な物理現象を利用することになるとした。例えば重力は対象が小さくなるにつれて重要ではなくなっていき、表面張力やファンデルワールス力が強く働くようになる。スケールが小さくなれば並列性が増し、短時間に多数の素材なりデバイスなりを作成できると考えられ、この考え方は有効と思われた。かつてはメゾスコピックと呼ばれていた研究分野である。「ナノテクノロジー」という用語は1974年に元東京理科大学教授の谷口紀男が提唱した用語である[3]。谷口は「ナノテクノロジーは主に、原子1個や分子1個の単位で素材を分離・形成・変形するプロセスから成る」としている。このような定義を1980年代にさらに発展させたのがK・エリック・ドレクスラーで、彼はナノスケールの現象やデバイスの技術的重要性を説き、『創造する機械 - ナノテクノロジー』(1986) や Nanosystems: Molecular Machinery, Manufacturing, and Computation[4] といった本を出版し、それによって「ナノテクノロジー」という用語が世界的に使われるようになった。1980年代にはナノテクノロジー分野の2つの重要な研究が行われた。1つはクラスターの研究で、もう1つは走査型トンネル顕微鏡 (STM) の発明である。これにより1985年にはフラーレンが発見され、数年後にはカーボンナノチューブが発見された。また、半導体のナノ結晶の特性や合成の研究が進み、そこからさらに金属および金属酸化物のナノ粒子や量子ドットの研究へと発展した。STMの6年後には原子間力顕微鏡 (AFM) が発明された。
基本

1ナノメートル (nm) は1メートルの1000000000分の1、10?9メートル (m)である。例えば、炭素原子同士の結合距離または分子内の原子間の間隔はおおよそ0.12 nmから0.15 nmである。またDNAの二重らせんの直径は約2 nmである。一方、最小の細胞であるマイコプラズマの全長は約200 nmである。

その大きさを別の観点で見てみると、メートルとナノメートルの比は、地球おはじきの大きさの比とほぼ等しい[5]。また、平均的な男性が髭を剃ろうと剃刀を持ち上げる時間に髭が伸びる長さがだいたい1ナノメートルである[5]

ナノテクノロジーの手法は大きく2つにわけることができる。1つは、物質を原子論的にみた集団的変化の方法論を利用して、微細にこれを再編成する技術をトップダウン方式という。もう1つは、原子分子(おおよそ 0.1 - 10 nm 程度)をひとつひとつ正確に組み合わせることで新しい機能を持った材料を作っていく方法で、これをボトムアップ方式という[6]。トップダウン方式は主に機械・電子系の分野で、ボトムアップ方式は化学系の分野で研究が行われている。

ここ数十年の間に、ナノテクノロジーに科学的基盤を与えるべく、ナノエレクトロニクス・ナノ工学・ナノ光学といった学問分野が生まれた。
大きいものから小さいものへ: 素材の観点純粋な (Au)を表面再構成し、その様子を走査型トンネル顕微鏡で見たところ。表面を構成する原子の配置がわかる。

いくつかの物理現象は、対象が小さくなるほどその影響が顕著になる。それは例えば統計力学的効果や量子力学的効果で、「量子サイズ効果」では微粒子の大きさを極小にすることでその電子特性が変化し、電子の閉じこめによるエネルギー準位の離散化があらわれる。この効果はマクロからミクロへと寸法が小さくなることで徐々に働き始めるわけではない。しかし、一般に100ナノメートル未満の距離(いわゆる量子領域)に達すると、量子効果が支配的になる。さらに多くの物理的(力学的・電気的・光学的などの)特性が巨視的な系と比較すると変化する。例えば、表面積が体積に対して増大するため、素材の力学的・熱的・触媒的特性が変化する。ナノスケールでの拡散と反応、高速イオン輸送が可能なナノ構造素材やナノデバイスなどを研究する分野を一般にナノイオニクスと呼ぶ。ナノシステムの機械的性質はナノ工学の研究領域とされる。

素材をナノスケールにまで小さくすると、マクロスケールとは異なる特性を示すようになり、新たな応用が可能になる。例えば、不透明だったものが透明になったり(銅 (Cu))、不燃性だったものが可燃性になったり(アルミニウム (Al))、不溶性だったものが可溶性になる(金 (Au))。例えばは通常のサイズでは化学的に不活性だが、ナノスケールでは強力な化学触媒として機能する。ナノテクノロジーは、ナノスケールにしたときに物質が示す量子現象や表面現象を利用するために発達したとも言える[7]
単純なものから複雑なものへ: 分子の観点

現代の化学合成技術は、小さな分子をほとんどどんな構造にでも配置することが可能な点にまで到達している。今ではその技術を使って様々な薬品や商用ポリマーなどの有益な化学物質を製造している。そこからさらに、単一分子を集めて超分子を望みの形に形成できるかという問題が提起される。

分子を自動的に所定の配置にして望みの組成を得るというボトムアップ方式を分子セルフアセンブリあるいは超分子化学と呼ぶ。そこで重要となるのが分子認識という概念である。分子をデザインするには、非共有分子間力を使って特定の配置や構成をとるように強いる。ワトソン・クリック型塩基対も同じ原理で形成されており、酵素が特定の基質にのみ作用するのも同じ原理によるもので、たんぱく質フォールディングも同様である。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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