出汁
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出汁(だし)は、煮出汁(にだしじる)の略で[1]植物食品旨味(うまみ)成分を水に溶出させたもの[1]。「出し汁」(だしじる)、「にだし」ともいう[1][2]

国や地域により、かなり異なっている。
概要

料理に主にうま味を加えるために用いられる。うま味成分は野菜キノコ海藻から抽出し、栄養素としてはアミノ酸核酸などから成り、その他、などのも加える。また出汁は香りをも与える。

食文化ごとに出汁はかなり異なっている。ただし栄養素的にはグルタミン酸イノシン酸グアニル酸などの呈味性ヌクレオチドが含まれており、そうした栄養素を含む食材が選ばれている。

洋の東西を問わず、出汁というものはある。

日本料理において鰹節昆布煮干し椎茸、野菜、魚のアラなど様々なだしがある[3]。だしは「味の基礎」となっている。[注釈 1]

西洋料理では、伝統的には、だしには・魚・野菜・香草などを用いる。たとえばフランス料理では「フォン」というだしがあり、「フォン」はフランス語で「底」「根底」という意味であり、やはり味の基礎となっている。

なお出汁を粉末等にした製品もある。西洋料理や中華料理の汁物(スープ)に使われるブイヨンなども「洋風だし」や「中華だし」などと呼ばれることがあり、これらに対して特に日本料理のだしを呼ぶときは「和風だし」と呼ばれる。
日本料理だしをとるための削り節(削られた状態の鰹節)。そもそもだしに使われる鰹節が西日本と東日本ではかなり異なる。西日本のダシのメインとなる昆布(の乾物

だしは日本料理の基本である[5]。ただし、鰹節や昆布のような濃厚なだし汁は、元々は富裕層の文化で、庶民層は祝い事などのハレの日を除いて、魚や野菜の煮汁から生じる淡白なだし汁を基本としており、大正から昭和の時代にかけての家庭料理本には、鰹節や昆布を使っただし汁の取り方が必ず記載されるほど、庶民には縁遠いものだった[6]。この「だし」が、西日本(関西)と東日本(関東)ではかなり異なっている[5]。そもそも、関西と関東でだしに使われている素材が異なっている[5]。たとえば、鰹節ひとつをとりあげても、関西と関東では違っている[5]。関西ではカビつけをしないかつおの荒節が好まれ、荒節は焙煎の香りが残ってスッキリとした香りと酸味が特徴である。それに対して関東では、江戸の中期頃からカビつけした枯節が好まれるようになったのだが、枯節というのは甘味があって上品な香りが特徴で、よりまろやかな味わいが楽しめるという特徴がある[5]。高級な荒節や枯節に比べ、鯖節やムロアジ節は安く購入できたが、庶民層は削る手間を嫌って、削り節を乾物屋で購入していた[7]。だしは日本料理の基本でありさまざまな料理に使われているわけで、その「だし」が素材から違うため、当然の結果として関西の料理と関東の料理にも違いが生まれている[5]。なお庶民層が日常的に、鰹節や昆布でだし汁を取るようになるのは、戦前の明治末期から普及した化学調味料の安全性が問題視された、戦後の1970年代頃からと言われている[8]

関東ではだし汁を「つゆ」や「おつゆ」と呼ぶことがある。それに対して、関西では「だし」、もしくは「おだし」と呼ぶ[5]。これは単なる "方言の違い" や "名称の違い" ではなく、それらの言葉が意味しているニュアンスも異なっており、関東と関西それぞれの味付けの考え方や、だしの活用法もかなり異なっている[5]
関東のつゆ
関東のつゆは強い味を足しており、《味付け》が基本である[5]。関東の「おつゆ」は、魚由来のものがメインで、鰹節の香りが特徴であり、魚の香り(匂い)にパンチがあるため、そこに合わせるしょうゆも力強いものが選ばれる[5]。関東では昆布を使わないことすらある。
関西の「おだし」
関西の「おだし」は素材の《風味》を活かすための下地[5]。関西は昆布をメインにして、煮干しやかつおなどを使った組みあわせのだしが特徴であり、あくまで風味(味わい)がメインのためのものであり、しょうゆの使用はほんの少量、風味つけにとどめる[5]
用途、活用法出汁の自動販売機

だしは煮物おでんなどの鍋料理麺類など様々に用いられる。また、和え物の味付けに利用したり、などを割って二杯酢など別の調味料としたり、一夜漬けなどの調味に使用する事がある。鍋料理では、出汁を入れて煮た各種の具材からも出汁が出て味を深め、最後は米飯や麺類を入れて食べる、いわゆる「〆(しめ)」づくりに使われる。讃岐うどんで知られる香川県では、つゆの作成のために、だしを醤油に抽出させた「だし醤油」が置かれる。

明治時代以降は西洋・中国料理の影響もあって肉類など食材の幅が広がり、鶏肉スッポンウミガメ豚骨・牛骨などが使われることもある。

後述する西洋料理のだしなどが数時間程度かかるのに対して、昆布や鰹節、煮干しでだしをとるのは、数分 ? 数十分と短時間である。家庭での和風出汁づくりは手間がかかるため、食品メーカーは簡単に煮出せる出汁入りバッグや、顆粒・粉末・液状のインスタント出汁を販売している。外食産業や食品メーカーでは素材や抽出方法に独自の工夫をした出汁を使うことが多い。特に飲食店では、ダシのノウハウは一種の "生命線" であり、その作り方(レシピ)を秘密にすることが多い。

精進料理では昆布、椎茸の他に、大豆モヤシ六条豆腐(塩蔵した乾燥豆腐)なども用いられる。

だしを取った後の昆布、鰹節といっただしがらも、醤油等で味を付け、佃煮ふりかけなどに利用されることがある。

日本国外においても、日本風のだしを素材の持ち味を引き出す隠し味として西洋料理に応用する試みが行われている[9]

日本料理では吸物に用いる一番だしや、下味を付けたり汁物に用いる二番だしなど用途によってだしを使い分ける[3]
種類

だしには以下のようなものがある。

あわせだし - 複数の食品からとっただし。特に昆布と鰹節のあわせだしが使われる。

一番だし - 主に吸物に用いる。
に水2リットルと昆布20グラムを入れて煮て、沸騰直前に昆布を取り出す。鰹節30グラムを入れたら火を止める。鰹節が沈んだら漉す[3]

二番だし - 汁物等様々に用いる。鍋に水2リットルと、一番だしで用いた昆布と鰹節を入れて煮、沸騰したら火を止めて漉す。おいがつおを加える場合もある[3]


精進だし - 肉を禁じた、精進料理に使われるだし。昆布・干し椎茸・かんぴょう・大豆・小豆などを水につけたり煮たりして取る。

八方だし - だしに塩で味をつけたもの。醤油とみりんで味を付ける場合もある。下味を付けたり煮炊きに用いる[3][2]

ラーメン汁のだし - ラーメンの出汁は店舗ごとに大きく異なる。何を使うかは、通常、各店の極秘事項であり「企業秘密」である。[注釈 2]

また地域によって以下のようなものがある。まず地域名とだしの名を挙げ、説明する。

(九州)アゴだし - 「アゴ」とは九州言葉でトビウオのことで、トビウオを乾燥させて煮出す。あごだしは、上品でスッキリとした甘味があり、味が深い[10]


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