出っ歯
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出っ歯(でっぱ)は、反っ歯(そっぱ)とも言い、上顎の前歯の先端部、あるいは上顎の前歯全体が突出している状態、又はその人を指す。歯科医療では上顎前突症の症例の一つと見るが、形質人類学では歯槽[1]の前傾・前突による個人差もしくは人種差を示す形質とし、病的なものとはしない。

俗語であり、医学的・人類学的・解剖学的な用語ではなく、厳密な定義もないが、よく目立つ特徴であるので人目を引き、芸能人の中にはそれを売りにする者もいる反面、一般には容貌を損なうとして矯正治療の対象となる場合が多い。20世紀前半頃までは日本人に多く、普通に見られたが、その後急速に減りつつある。目次

1 形態

2 上顎前突症との関係

3 形質人類学から見た原因

3.1 突顎の位置付け

3.2 咬合による差異

3.3 人種差

3.4 日本人における歴史的推移


4 美容面・精神面と治療法

4.1 補足


5 出っ歯と文化

6 脚注

7 参考資料

8 関連項目

形態

普通に口を閉じた状態では、歯列は唇に隠されて見えないが、上顎の切歯(前歯。門歯とも言う)の先端部の突出が大きいとそれが唇の間から見えてしまう。歯列弓(歯列が形成する曲線)が大きい場合は、やはり上唇を押しのけて歯列が露出する(いわゆる、歯茎[はぐき]が出ている状態)。プロフィル(横顔)を見ると、切歯が突出する例では上唇が前方に突き出し、その先から歯の先端がのぞく。歯列が大きい場合は鼻の下から上唇全体が前突する。こうした状態、又はその人を俗に出っ歯(反っ歯)と呼ぶ。
上顎前突症との関係

歯科においては、上顎前突症には、骨格性のものと歯性のものがあり、「上顎が大きいことによるもの」、「下顎が小さいことによるもの(相対的なもの)」、「歯だけが出っ張っているもの」があると定義し、これが出っ歯の原因として矯正治療の対象とするが、実際に咀嚼や発音に支障をきたす例は稀で、疾病というより主として美容上の理由で行なわれる。

形質人類学では、個人もしくは人種において歯槽部の傾斜・前突が著しい形質と捉え、異常なものとはしない。すなわち、突出の度合いが大き過ぎたり方向が歪んでいて、摂食や発音に不都合や障害をきたす場合は治療を要するが、大部分の出っ歯は障害が見られず、単なる個体差であって、異常や病的とはみなさない。以下に説明するように歴史時代において日本人はほとんどが出っ歯であった事がわかっており、出っ歯を病的あるいは異常とみなすと、過去の日本人全体が病的・異常であったという結論になりかねない。
形質人類学から見た原因 歯槽側面角が小さく切歯が前突する「歯槽性突顎」を示す模式図

骨性の上顎前突症による病的に上顎骨が大きなもの、あるいは歯列の歪みと呼べる事例[2]もあるが、多くは上顎骨の歯槽部が大きく傾斜して切歯が突出している状態であり、歯列が大きいため歯槽全体が突出するもの、さらに両者の複合による場合もある。いずれも、歯槽側面角が小さい事による突顎すなわち歯槽性突顎によって生ずる形質である[3]。上顎骨のうち、ナゾスピナーレ[4]とプロスチオン[5]を結ぶ線が耳眼水平面と交差する角度を歯槽側面角と呼び、この角度が小さいほど歯槽部の傾斜や前突が大きくなり、歯槽性突顎を生じて出っ歯を形成する事になる。歯槽側面角の大小は個体差もしくは人種差であり、異常ではない。

以下、順次解説するが、日本人は歯槽性突顎が特徴であり、それが出っ歯の多い理由となっていた。
突顎の位置付け

現生人類の歯槽の形態については、歯槽側面角の大きさによって表のような区分があるが、「出っ歯」は俗称で、学問上の定義はないので、出っ歯であるか否かの判断は主観による。通常、突顎が高度な場合に出っ歯が起こりやすい。

歯槽側面角区分角度
正顎(直顎)85.0度以上
中 顎80.0‐84.9度
突 顎79.9度以下

咬合による差異

ただし、歯槽側面角が大きい事のみが必ずしも出っ歯の原因ではない。現代人では、原始生活を営む種族は別として、出っ歯でない人でも上顎骨の切歯部が下顎骨よりやや前方に出ているので、上顎の歯列も下顎のそれより少し前方に位置しているのが普通である。上下の歯の咬み合わせが、いわば鋏の刃のようになっているので「鋏状咬合(きょうじょうこうごう)」と呼ぶ[6]。このため、上顎の歯槽側面角が小さいと上の切歯が突出しやすくなり、下顎の切歯との間に大きな空隙ができて(オーバージェットが過大になって)出っ歯が起こりやすい。一方、現代の原始民族以外で、古代人例えば縄文時代人は比較的歯槽側面角が小さく、突顎で、上顎の歯槽が前突していたが、下顎の切歯と歯槽も前突し、上下の歯列が接合し、ちょうど毛抜きの先端が合うような形態であった。これを手術に用いる鉗子[7]に例え、「鉗子状咬合(かんしじょうこうごう)」と言う。この状態では、口吻部の前突はあるが出っ歯は起こり得ない。 現代人頭骨の顔面部。わずかに上顎切歯が前進し、鋏状咬合である。歯槽側面角が小さくなり歯槽部が前傾すると出っ歯になる。 北京原人の頭骨。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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