凝縮熱
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蒸発熱(じょうはつねつ、英語: heat of evaporation)または気化熱(きかねつ、英語: heat of vaporization)とは、液体気体に変化させるために必要なのことである[1][2]。気化熱は潜熱の一種であるので、蒸発潜熱または気化潜熱ともいう。固体を気体に変化させるために必要なは昇華熱(しょうかねつ、英語: heat of sublimation)または昇華潜熱という[3]。単に気化熱というときは液体の蒸発熱を指すことが多いが、液体の蒸発熱と固体の昇華熱を合わせて気化熱ということもある[4][5]。以下この項目では、便宜上、液体の気化熱を蒸発熱と呼び、液体の蒸発熱と固体の昇華熱を合わせて気化熱と呼ぶ。

固体や液体が気体に変化する現象を気化という。気化にはエネルギーが必要である。物質が気化するとき、多くの場合、気化に必要なエネルギーはとして物質に吸収される。多くのエアコン冷蔵庫で、この吸熱作用を利用したヒートポンプという技術が使われている。

気化に必要なエネルギーは物質により異なる。データ集などでは、物質 1 キログラム当たりの値または物質 1 モル当たりの値が気化熱として記載されている。単位はそれぞれ kJ/kg (キロジュール毎キログラム)および kJ/mol (キロジュール毎モル)である。例えば 25 ℃ における水の蒸発熱は 2442 kJ/kg であり 44.0 kJ/mol である[注 1][6]。気化熱の大きさは、同じ物質でも気化する状況により変わる。通常は、1 気圧における沸点での値か、25 ℃ における平衡蒸気圧での値が物質の蒸発熱としてデータ集に記載されている[注 2]。例えば 1 気圧、100 ℃ の水の蒸発熱は 2257 kJ/kg であり、飽和水蒸気圧(32 hPa)の下での 25 ℃ の蒸発熱 2442 kJ/kg より1割近く減少する。

気体が液体に変化するときに放出される凝縮熱(ぎょうしゅくねつ、英語: heat of condensation)の値は、同じ温度と同じ圧力の蒸発熱の値に符号も含めて等しい。

モル当たりの蒸発熱は、液体中で分子の間に働く引力に、分子が打ち勝つためのエネルギーであると解釈される[7]。たとえばヘリウムの蒸発熱が 0.08 kJ/mol と極端に小さいのは、ヘリウム原子の間に働くファンデルワールス力が非常に弱いためである。 それに対して、液体中の分子の間に水素結合が働いていると、水やアンモニアのように蒸発熱が大きくなる。金属のモル当たりの昇華熱は、金属結合で結ばれた 1 モルの金属結晶の塊をバラバラにして 6.02×1023 個の原子にするのに必要なエネルギーに相当する。遷移金属の昇華熱は、数百キロジュール毎モルの程度である。
目次

1 気化に必要なエネルギー

2 気化熱の利用

3 物性値としての気化熱

4 凝縮熱

5 水の潜熱と気象

6 気化熱と分子間力

7 金属の気化熱

8 脚注

8.1 注釈

8.2 出典


9 参考文献

10 関連項目

気化に必要なエネルギー

固体や液体が気体に変化する現象を気化という。液体が気化する場合は、沸騰して気体になる場合と蒸発して気体になる場合がある。どちらの場合でも、気化にはエネルギーが必要である。

液体を沸騰させるのにエネルギーが必要であることは、コンロで湯を沸かすときのことを考えると分かる。このとき、水を沸騰させるのに必要なエネルギーは、コンロから供給されている。強火にしてエネルギーの供給速度を上げると、水が水蒸気に変化する速度も上がる。コンロの火を消すとエネルギーの供給が止まり、沸騰も止む。エネルギーの源になっているのは、ガスコンロでは燃料ガスの化学エネルギー[注 3]である。電気コンロIHクッキングヒーターでは、電力会社から供給される電気エネルギーである。

一方、液体が蒸発するときにもエネルギーが必要なことは、沸騰のときと比べると少し実感しにくい。水に濡れた食器や衣服は、乾燥機を使わなくても自然に乾くからである。乾燥機を使ったときのエネルギー源は、先の例と同じように電気エネルギーである。それに対して、自然に水が蒸発して乾くときのエネルギー源は、食器や衣服、そして周りの空気である。食器や衣服や空気のエネルギーがとして水に与えられ、このエネルギーにより水が水蒸気に変化する[注 4]。液体が蒸発するときに周りから熱を吸収することは、以下の実験により確認できる。

準備: 消毒用アルコールスポイトと料理用のデジタル温度計を用意する。

操作: デジタル温度計の感温部(温度センサー部)に、スポイトで消毒用アルコールを一滴たらす。

観察1: デジタル温度計の表示温度が低くなる。

観察2: 適当に表示温度が低くなったあとは、表示温度はあまり変化しなくなる。

この実験の観察1では温度計の感温部からエネルギーが熱として放出されている。というのは、温度計の表示温度は、感温部が熱を吸収すると上昇し、逆に感温部が熱を放出すると低下するものだからである[注 5]。感温部の周りの空気の温度は、アルコールをたらす前の感温部の温度とほぼ同じと考えられるので、感温部から熱を受け取っているのはアルコールである。温度計の表示温度が変化しなくなるのは感温部に正味の熱の出入りがなくなったときだから、観察2では、周りの空気や温度計のほかの部分から感温部に流れ込んでくる熱量と、アルコールに奪われる熱量とが釣り合っている。したがって、この実験では、温度計と空気がアルコールの蒸発に必要なエネルギーの源になっている。

この節で挙げた例では、沸騰の場合も、蒸発の場合も、どちらも気化に必要なエネルギーは熱として液体に吸収されている。コンロで湯を沸かす例では、エネルギー源は化学エネルギーまたは電気エネルギーであるが、水はこれらのエネルギーを直接受け取っているわけではない。水を入れているヤカンやナベなどの底を通して、熱としてエネルギーを受け取っている。液体が気化するとき、多くの場合、気化に必要なエネルギーは熱として物質に吸収される。この熱を蒸発熱という。

固体が気化する場合は、液体とは違って、沸騰して気体になることはない。固体が気化する場合はいつも、固体の表面から気化が起こる。固体の気化を昇華という。液体の蒸発の場合と同様に、固体の昇華にはエネルギーが必要である[注 6]。よく知られた例は、ドライアイスの昇華である。ドライアイスが炭酸ガスに変化するとき、気化に必要なエネルギーを周囲から熱として吸収するので、熱を奪われた周囲の温度は下がる。固体が昇華するとき、多くの場合、昇華に必要なエネルギーは熱として物質に吸収される。この熱を昇華熱という。
気化熱の利用

液体や固体は、気化するときに周りから熱を吸収する。この吸熱作用を利用した技術の例を以下に挙げる。
ヒートポンプ 
多くのエアコン冷蔵庫で使われている技術。液体が気化するときに吸収した熱を別の場所で放出させることにより、温度の低い場所から温度の高い場所へ熱を運ぶ。「蒸気圧縮冷凍サイクル」も参照
火力発電 
燃料の化学エネルギー[注 3]を電気エネルギーに変換する発電方法。燃料の燃焼によりボイラーで水が気化して水蒸気になる。水蒸気の持つエネルギーは蒸気タービン力学的エネルギーに変換される。力学的エネルギーは発電機により電気エネルギーに変換される。この一連の過程の中で、水蒸気は熱の運び手として働く。「ランキンサイクル」も参照
乾湿計 
湿度計のひとつ。水が蒸発によって湿球から熱を奪うことと、湿度により蒸発の速さが変わることを利用して、大気の湿度を計測する。
水による消火 
消火に水が多く使われる主な理由のひとつに、その高い蒸発熱が挙げられる[8]


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