冷蔵庫(れいぞうこ、英語: Refrigerator)とは、食料品等の物品を低温で保管することを目的とした製品である。現代では電気エネルギーを冷却に用いる電気冷蔵庫(でんきれいぞうこ)を指すことが多い。 電気冷蔵庫は食料品・飲料品等の物品を低温で保管することを目的とした電気設備施設あるいは電気製品である。氷を使用するものは「保冷庫」「冷蔵箱」などと呼ぶこともある。 一般的には、食料品・飲料品を凍らせず短期保存する目的で、内部温度を0℃以上、4-10℃程度に保って使用される。凍結させ保存期間を伸ばす、または冷凍食品を保存する、氷を作る等の目的で-18℃程度を保つものは冷凍庫(れいとうこ)と呼び、両方の機能が一つになった製品を冷凍冷蔵庫と呼ぶこともある。中型以上の家庭用冷蔵庫は冷凍室という形で冷凍庫の機能も持つのが一般的である。 最初は家庭向けの電化製品としての冷蔵庫は、「白物家電」と呼ばれる分野の家電製品である。日本では「電気冷蔵庫」として家庭用品品質表示法の適用対象となっており、電気機械器具品質表示規程に定めがある[1]。 かつて日本においては「三種の神器」(テレビ(白黒テレビ)・洗濯機・冷蔵庫)と称された家電製品の一つでもあり、生活に欠かせないものとして生活家電(ジャンル区分は白物家電と概ね同一)とも呼ばれる。 電気冷蔵庫は、家庭においては、常温では早期に腐敗したり融けたりしてしまうような食材など、低温(→温度)に保つことで品質や性質が維持される物品を扱うために、広く使われている。食品では冷蔵することで幾らかは雑菌の活動や化学変化が抑制されるなど、鮮度が保たれる期間が長くなる。冷凍では消費するために適切に解凍する必要はあるが、更に品質保持期間が延長可能である。 冷蔵庫は形状により大きく縦型と横型に分類される。家庭用の電気冷蔵庫の多くは縦長の縦型冷蔵庫である。業務用では横長冷蔵庫も用いられる。 構造としては、基本的に内容物を収める箱にヒートポンプの一種である冷凍機を取り付け、これによって庫内の熱を外部に排出し、内部と外部を隔てる壁には断熱材を用いて熱の移動を遮断している。物品を出し入れするために扉も設けられる。また、内容物を見えやすくするため、照明が内部に設けられている様式も一般的である。 冷蔵庫は庫内を冷却する結果、庫内の空気中の水分が冷却部分に凝結し、霜となる。この霜を定期的に溶かして庫外へ排出するため庫内の湿度が低下し乾燥する。刺身や精肉等を保管するときは乾燥しないようにラップフィルムが用いられる。乾燥した状態が望ましくない野菜類を入れる野菜室は湿度の低下を抑えるため、庫外から間接的に冷却する構造となっている。なお、大きな厨房など業務用では食材の乾燥を防ぐために、通常の冷蔵庫ではなく恒温高湿庫を低温状態に設定して用いることもある。 室温が冬季に氷点下となるような寒い地方では、冷やすためだけでなく、凍らせない目的でも使われることもある。これは熱交換器の原理上発熱があるため、目標温度より室温が低い場合は保温ができるためである。 家庭向けの製品は、冷蔵庫と冷凍庫(およびこれに関連する機能)がオールインワンの形で一つにまとめられているタイプが主流だが、後述するような専門的な分野では、庫内を設定された一定温度(その範囲は様々)に保つ単機能の製品や、逆に商品を陳列するためのショーケースの機能など、目的に沿った追加機能が設けられている場合もある。 家庭用電気冷蔵庫の筐体の色については白色が多く、「白物家電」と呼ばれる所以でもある。2000年代以降、インテリア性の追求などから、白色に限らず、多種多様な色の冷蔵庫が発売されるようになってきているほか、冷蔵庫に塗装を施す業者もある[2]。 身近な例では、小売業などの冷蔵ショーケースや、バックヤードには部屋を丸ごと利用する巨大な冷蔵庫ないし冷凍庫を備えている場合もある。先進国を中心に多くの発展途上国でも、小売段階やその前の流通、更には生鮮食品や加工食品などの生産設備に付帯する規模も様々な冷蔵庫・冷凍庫が利用されている。 魚介類や牛乳のような生鮮食品など冷却が必要な製品を運ぶための保冷車では、冷蔵庫と同様の機構を備え、荷台内部を冷却できる構造となっている。また、宅配便業者における、「クール便」「チルド便」といった宅配サービスでは、内部に冷蔵庫や冷凍庫を備えた車両を利用している。乗用車の直流12V電源で使える、クーラーボックス型の簡易冷蔵庫も販売されている。 業務用としてはプレハブ冷蔵庫など、建物自体が冷蔵庫となる屋外設置型の大型の製品もある。また、研究機関などで施設の一室に冷蔵庫の機能をもたせ、「室」(部屋)ではなく冷蔵庫と呼称する場合もある。リンゴのように低温による長期間保存が望ましい農産物の貯蔵庫では、倉庫自体に冷蔵庫の機能を付加する場合もある。 キャンピングカーで使用する冷蔵庫の中には、AC/DCの電気以外に「ガス」を使用して冷却する製品も多い。 気化により物体の温度が下がる現象を利用した2通りの冷却方式が長く使用されてきた。近年はこれに加え、気化ではなく半導体によるペルティエ効果を利用する方式も実用化されて小型用途で使用されている。 圧縮を利用し、閉じたパイプの中を冷媒が循環する。ここから圧縮型と呼ばれる。家庭用では圧縮をするために電気作動のコンプレッサを使用するのが一般的である。そのために冷蔵庫といえば電気冷蔵庫が多いが、ガス圧を利用して圧縮する型もある。また、エキスパンションバルブの代わりにエジェクタを使い、効率を上げた冷蔵庫もある (エジェクタサイクル)。 冷媒にはフロンが使用されていたが、フロン禁止以降はイソブタンなどに移行している。ただし、イソブタンはまったく新規の冷媒ではなくフロン以前に使用されていたこともある。冷媒用途としてはフロンが完璧なものであったが、環境への影響を考慮して使用が禁止されている。近年では効率に優れる無水アンモニア 冷媒の循環のために、液体を使用する。この液体が冷媒を吸収(吸着)して循環することにより冷媒を移動させている。この液体を吸収液とよび、このため吸収型と呼ばれる。熱することにより液体を循環させる。このために熱源が用いられるが、ジェネレーターにガスバーナーを用いたガス冷蔵庫、電気ヒーターを用いた電気冷蔵庫がある。この吸収型では、ガス/電気交流100V切替方式のような2ウェイ型や、ガス/電気交流100V/直流12V切替方式のような3ウェイ型なども一般的である。コンプレッサーを必要とする圧縮型に比べ、静穏性に優れており、また動力源が電気でなくても良いため医療(病院向けなど)、ホテル、レジャーに使用されることも多い。 閉じたパイプの中を冷媒が循環するのは同じであるが、冷媒の循環のために冷媒とは別の液体を使用する。「アンモニア(冷媒)と水(吸収液)」の組み合わせや「水(冷媒)と臭化リチウム(吸収液)」などがある。冷却器または蒸発器(エバポレーター)・吸収器(アブソーバー)・再生器または発生器(ジェネレーター)・凝縮器(コンデンサ)。蒸発器(エバポレーター)によって気化される。なお、吸収型冷蔵庫=ガス冷蔵庫ではない。 吸収器でアンモニアを水が吸収しているアンモニア水溶液がつくられる。ジェネレーター(ボイラー)ではアンモニア水溶液が加熱される。水よりも沸点が低いため、アンモニアは溶液からガス化し泡状となる。分離器にてアンモニアガスが水と分離される。水は吸収器 (absorber) に戻される。放熱器では気体となったアンモニアが、熱を放出して液体となる。蒸発器で濃度が濃くなったアンモニア液は、減圧され、気化する。冷却が生じる。吸収器では水が別の経路を通って戻ってきたアンモニアを吸収し、アンモニア水溶液となる。 スウェーデンに本社を置くドメティック かつて気化圧縮型で冷媒として使用されていたアンモニアは無水アンモニアだが、気化吸収型で冷媒として使用しているアンモニアはアンモニア水溶液 (Aqua Ammonia)である。 スターリングエンジンを外部の動力で回転させることで温度差を生じさせる。地球観測衛星ふよう1号の光学センサの冷却に使用された。他に赤外線撮像素子や超伝導磁石の冷却にも使用される。 冷媒を用いない。ペルチェ効果を利用し温度を下げる。 ペルチェ冷却システムは、圧縮機(コンプレッサ)を使用しないため、作動音がほとんどない。そのため、吸収型と同様の用途に使用される。圧縮型や吸収型に比べると非常に安価だが、冷却効率は良くない(エネルギー効率は数パーセントにとどまる)ことから、小型の自動車用冷蔵庫や、ペットボトルが数本入る程度の超小型冷蔵庫などに利用されている。 可逆的化学反応を利用して熱の出し入れを行う[3][4]。 水素吸蔵合金に水素を吸収、放出する時に発熱、吸熱する現象を利用する。 現在、一般家庭用冷蔵庫市場は主に以下の2つに大別される。 冷蔵庫の庫内にコンプレッサー(冷却管)を張り巡らせ、管からの冷気で直接冷却する方式。庫内温度差を利用して対流を期待する。50?70リットル(L)前後の小型冷蔵庫などに用いられることが多い。欠点と利点は以下のとおりである[5]。 冷却機にファンを取り付け、強制的に庫内に行き渡らせる方式。一般家庭用大型冷蔵庫では主流となっている。
概説
家電製品としての冷蔵庫
家電製品以外の冷蔵庫
冷却の原理詳細は「冷凍機」を参照
気化圧縮型
コンデンサ
エクスパンジョンバルブ
エバポレータ
コンプレッサ
コンデンサ(放熱器、凝縮器):冷媒は高圧ガス状態で蓄熱しており、放熱することで、液体に戻る。(液体)
エクスパンジョンバルブ(膨張弁):細い管が急に太い管となることで減圧し、沸点が下がる。(液体 低圧液体)
エバポレータ(蒸発器、気化器):沸点の下がった液体は、周囲から蒸発熱を奪い、蒸発(気化)する。(気化による冷却:液体が気体となる→冷却が生じる)(この部分が冷蔵庫内に置かれる)
コンプレッサ(圧縮器):気体の状態の冷媒は圧縮により高圧のガスとなる。(高圧気体)
気化吸収型
アブソーバー(吸収器)
ジェネレーター(再生器、発生器、ボイラー)
セパレーター(分離器)精留器 rectifier
コンデンサ(放熱器 凝縮器)
エバポレーター(蒸発器) 冷却を行う。
スターリング冷凍機詳細は「スターリング冷凍機」を参照
ペルチェ効果型詳細は「ペルチェ素子」を参照
ケミカルヒートポンプ詳細は「ケミカルヒートポンプ」を参照
水素吸蔵合金
冷却方式(主に一般家庭用)
直冷式(自然対流式)
利点
ファンを利用しないため、ファン式と比べると静穏性が高い。
消費電力がファン式と比べて少ない。
欠点
自然対流に任せるがゆえに庫内に完全に冷気が行き渡らず、冷却効率に難がある。
冷蔵庫に物を詰め込み過ぎた場合、自然対流が起こらずファン式と比べると腐敗が発生する可能性が高い。
霜取りが必要である。霜を取らないと冷却効率が低下する。
ファン式(強制対流式)
利点
ファンで強制的に対流させるため、庫内は全体的に平均的な温度に保たれる。
冷却効率が良く、冷えが良い。
霜取り機能がついているものがある。
欠点
直冷式と比べると騒音が大きい。
歴史冷蔵庫の広告(1926年)「冷凍技術の年表」も参照
年表(1933年まで)
1748年 ウィリアム・カレン(Dr. William Cullen; 英国スコットランド グラスゴー大学)がエーテル気化熱を発見。
1803年 豪農トマス・ムーア(Thomas Moore 米国メリーランド州)が「氷を利用して冷蔵する道具」を作成し、これを「refrigerator(冷蔵庫)」と名づけた。Frigerareとはラテン語でcoolという意味で、re frigeratorはto coolである。電気冷蔵庫が一般化して以降、それらが新たに「refrigerator」と呼ばれ、旧来のrefrigeratorには「icebox(アイスボックス)」の名が与えられた(=レトロニム)。
1805年 オリバー・エバンス(Oliver Evans
1820年 マイケル・ファラデー(英国ロンドン) 液化アンモニアによる冷却を発見。
1834年 ジェイコブ・パーキンス(Jacob Perkins
1848/1849/1855 ジョン・ゴーリエ(John Gorrie
1850年 エドモン・カレー(Edmond Carre フランス) 水と硫酸を使用した吸収型冷蔵庫を開発。
1852年 ウィリアム・トムソンとジェームズ・プレスコット・ジュール(William Thomson & James Prescott Joule) 冷却が圧力差の比率を増加させる。
1856年 アレクサンダー・トワイニング(Alexander C. Twinning 米国) 米国初の冷蔵庫の商用化(とされている)。
1856年 ジェームス・ハリソン(James Harrison
1859年 フェルディナン・カレー(Ferdinand Carre フランス エドモンの弟) アンモニアと水を使用した吸収型冷蔵庫を開発。
米国では、南北戦争(1861-65年)により北側から氷が届かなくなったため、冷蔵庫は南部側で商業的な成功を見た。
1866年 ケモジン(chemogene、エーテルとナフサの混合物)が冷媒として特許取得。
1867年 サザーランド(J.B. Sutherland 米国ミシガン州デトロイト)の冷蔵列車が特許取得。
1870年 米国ニューヨーク、ブルックリンのS. Liebmann’s Sons Brewing Companyで熱吸収型冷却冷蔵庫が使用される。商用の冷蔵施設はビール工場で最初に使われだし、1891年までに全てのブルワリーで冷蔵施設が装備された。
1873年 アンモニアが冷媒として初めて使用される。
1875年 硫化ダイオキサイドとメチルエーテル。
1876年 カール・フォン・リンデ(Carl von Linde(ドイツ語版)(英語版) ドイツ ミュンヘン) アンモニアを冷媒に使用し、1877年に特許取得。