再生検波
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自作の再生式短波ラジオの例。1930年代には多くのアマチュアがこのような受信機を自作した。上のラジオを後ろから見たもの。再生回路は単純で部品点数が少ない。

再生回路(さいせいかいろ、英語: regenerative circuit)、あるいは再生検波回路(さいせいけんぱかいろ、英語: regenerative detector circuit)とは、正帰還(ポジティブフィードバック)を加えて感度と選択度を高めた検波回路である。

再生回路は1912?1913年頃に発明され、この回路を検波回路として用いた再生式受信機(英語: regenerative receiver)は簡単な回路で比較的優れた性能が得られたため、ラジオ受信機として1920年代から1940年代頃まで広く使用された。この回路は帰還量を大きくしすぎると発振してしまう欠点があり調整が難しく、その後スーパーヘテロダイン方式が一般的になるとラジオ受信機に使われることは無くなった。

この方式を改良し意図的に発振を断続(クエンチング)させることで帰還量の調整を不要にした超再生検波回路(英語: super-regenerative detector circuit)は、単純でLSI化しやすく消費電力が低いため現在でも研究が行われ、低価格、超低消費電力が要求される近距離無線通信システムに用いられている。
概要再生式受信機の回路例。検波出力の一部を再生コイル経由で入力側に戻している。

真空管トランジスタなどの能動素子を用いた増幅回路検波回路の出力の一部を正帰還で入力に戻すと、入力信号をより強める方向に働くため出力は帰還(フィードバック)が無い場合より大きくなる。帰還量を発振直前の状態に近づけるに従い増幅率は増加する。再生回路はこのような原理により元の増幅回路より大きな増幅率を得る回路である。

さらに、再生回路内に共振回路が含まれると、その共振周波数で強い正帰還がかかる。共振周波数の信号のみが高い増幅率で増幅されるため、回路全体では単体の共振回路より高い選択度も得ることができる。

十分な感度と選択度を得るために高価な真空管が多数必要だった時代、少ない真空管と単純な回路で大きな増幅率と高い選択度を得られる再生回路の発明は非常に重要なものだった。

再生回路には多くのバリエーションがある。最も一般的な再生検波回路は、真空管などを用いた検波回路(例えばグリッド検波回路)の出力の一部を再生コイル(: tickler coil)経由で入力側の同調回路に戻すものである。

現在の一般的なラジオ受信機と比べると、再生式受信機は調整が難しく慣れが必要だった。

アメリカなどでは1930年代から、国内でも第二次世界大戦が終わるとスーパーヘテロダイン受信機がラジオ用として一般に使われるようになった[1]アマチュア無線などでは自作向けの初心者用受信機としてその後も使われ続けたが、1970年代以降にダイレクトコンバージョン受信機が一般的になるとそのような分野でも使われなくなった。

再生の技術は検波回路だけではなく増幅回路などにも応用できる。性能が優れ煩雑な調整が不要なスーパーヘテロダイン受信機がラジオ用として一般に使われるようになった1950年代以降も、より少ない部品で高い性能を得るため、スーパーヘテロダイン受信機の検波回路や、高周波増幅回路、周波数変換回路、中間周波数増幅回路に再生をかけた回路が一部で使われた[2]
長所と短所6球式ストレート式受信機の内部。電球のようなものが当時の真空管。再生式受信機と比較すると複雑で高価だった。

再生回路の長所として最も大きいのは以下のものである。

単純な回路で高い増幅率と選択度が得られる。

ラジオ放送が開始された1920年代?1930年代頃、真空管は高価で増幅率も小さかった。例えば1925年頃の真空管199の増幅率は6.6倍、201Aの増幅率は10倍で、国内での価格はどちらも10円程度(当時の小学校教員の初任給は45円前後)だった[3]。この頃の再生回路を使用しないストレート式受信機(TRF受信機、Tuned RF receiver)は、5?6本の真空管と複数の同調回路とを組み合わせ必要な感度と選択度を得る必要があり、当時としては非常に複雑で高価なものだった[4]。この時代の高級受信機の日本での価格は小さな家一軒分くらいだったと言われる[5]。また、1920年代頃の受信機はまだ電灯線式の電源を使っておらず、真空管のためのA、B、Cの各電源用に電圧の異なる3種類の電池を使用していた。そのため真空管が多く消費電力が高い受信機は電池のコストもかかった。このような時代、単純な割に感度と選択度が高いという長所は非常に重要視された。

再生回路の短所として以下の項目が挙げられる[6]

調整が難しく、増幅度を上げようとすると容易に発振してしまう。

受信周波数で発振しアンテナから電波として放出され他の受信機に妨害を与える(高周波増幅段が無い場合)。

ダイナミックレンジの制限のため強い信号に対して選択度が悪い。

選択度は増幅度に依存するため受信信号に最適な選択度が得られない。

バンドパスフィルタは単純な単極フィルタに限定される。

周波数安定度が悪い。

現在のラジオ受信機が周波数を合わせるだけで受信できるのと比べると、受信周波数と再生の両方を適切に調整しなければならない再生式受信機は操作が難しい。また、受信する信号の強さが変わると再生のかかり具合も変わるため、受信する局ごとに再生の再調整が必要になる。

再生を強くかけすぎることによる発振も他の受信機への妨害につながる。特に真空管を再生回路に使用していた時代、現代の半導体と比べ再生回路で扱う電力レベルが大きかったため妨害電波も強くなり問題になりやすかった[7]。例えば、第二次世界大戦後に日本を統治したGHQは、再生回路による電波障害(再生妨害)を起こす受信機の生産を禁止し、スーパーヘテロダイン受信機を推奨した[8][9]。当時アメリカ占領軍が多用していたテレックス通信が家庭用の再生式ラジオからの電波により妨害されたためとも言われる[9]

また、再生回路は弱い信号に対して増幅度と選択度が良いが、強い信号に対しては選択度が悪く、混信が起こりやすくなる。逆に、微弱な信号に対して増幅度を上げようとすると、選択度が鋭くなりすぎてラジオ放送では音質が悪化する問題もある。

再生回路は近くに強い信号があると周波数の引込現象(Interlocking)が起きて発振が強い信号に同期してしまい[10]、弱いCW信号(モールス信号)受信時にビートがかからなくなる[2]

現在の受信機で一般的に使われているスーパーヘテロダイン方式やダイレクトコンバージョン方式には上記の欠点が無い。調整が不要で受信動作も安定しており、バンドパスフィルタの特性も受信対象となる信号の帯域幅に合わせて自由に設計でき、受信信号の強さによらず選択度は一定である。受信周波数を決める局部発振器が信号を増幅する経路と独立しているため安定度も高くしやすい。
受信方法

再生受信機は、通常のAM放送で使われるAM信号以外に、CW信号、SSB(Single-Sideband)信号も受信することができる。受信したい電波型式により再生の調整方法が若干異なる。

AM放送などAM信号の受信の場合、周波数を合わせた後に再生の量を調整してビート音直前の状態にして使用する[11]。再生の量が少ないと感度が低く放送は小さな音でしか聞こえないが、再生の量を増やすに従って増幅度が上がり、ビート音直前の状態では感度が最も高い状態になる。再生の量を増やすと選択度も上がり周波数のずれが目立ってくるため、受信周波数の調整も同時に行う必要がある。再生の量を減らすと帯域幅も広がるので、ある程度強い信号であれば再生を弱めて音質を向上させることもできる[11]。再生の量を増やし過ぎて再生回路が発振してしまうと、AM信号の搬送波と発振周波数の差によるビート音が発生し正常な受信ができない。

逆にこのビート音の発生を利用し、わずかにビート音が聞こえる状態まで再生の量を調整してから、目的のAM信号との間のビート音ができるだけ低い音になるよう受信周波数を調節し、その後再生の量をわずかに減らして最良の状態に調整する方法もある。再生調整後は必要に応じ受信周波数を微調整する。

発振周波数を搬送波の周波数と同じにし(ホモダイン検波)ビート周波数を0 Hz付近に維持すれば、発振している状態でも受信が可能で感度もさらに高くなる。周波数が数十ヘルツずれただけでビート音が発生するため受信周波数の調整を頻繁に行う必要があり、帯域幅もかなり狭くなるため音質が悪化する。

無線電信(CW)信号の受信では、わずかに再生回路が発振している状態(オートダイン検波)で受信する[11]。CW信号それ自身は変調されておらず、発振していない状態で受信するとモールス信号による電波のオン / オフを聞き取ることができない。そのため回路をわずかに発振させてキャリアとの間にビート音を発生させることで、電波のオン / オフが聞き取れるようにして受信する。この時の再生回路は増幅器としてだけでなく発振器(BFO、Beat Frequency Oscillator)としても機能している。周波数をずらすことでビート音の高さの調節ができる。

SSB信号を受信する際も、搬送波が抑圧されているのでそのままでは復調できない(もごもごいうだけで内容がわからない。)。CW信号と同様、再生回路がわずかに発振している状態で受信する[11]。聞こえる音声の音調が低すぎたり高すぎたりしないように受信周波数を微調整する。


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