円相場
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円相場(えんそうば)は、に対する外貨の相対的価値(為替レート)のこと。通常は外貨1単位に相当する円貨額で表示する(通貨や市場によっては別の慣行もある)。

特に、米ドルユーロとの比較によって示され、その中でも、米ドルに対する円の相対価値を示すことがある[1]
解説

国際市場において、日本通貨である円の相対的価値が過去のレートや政治の目的など、何らかの意味で基準とみなされる水準よりも高い状態を「円高」、逆に、低い水準であるとき「円安」という。例えば、今まで1ドル120円だったが、1ドル110円になった場合には円高になっている。(これは1円の価値が1/120ドルから1円1/110ドルにまで上がったということである。)つまり、より少額の「円」で1ドルと交換できるようになる訳である(同じ円貨額でより多くのドルを買えるようになったと考えると、通貨価値が上がったということが理解されやすい。後述のとおり「1ドル100円」ではなく「100円1ドル」とする表記法もあり、こちらはより直感的に理解しやすい。)。
現代の主な為替政策「為替レート#現代の主な為替政策」も参照

為替レートのうち、国際的な金融取引や貿易の決済に利用されることが多いアメリカドル(米ドル)との為替レートは最も重要視されている。2007年には1米ドルは95円 - 125円の比率で交換されていた。日本の為替レートの変遷はを参照のこと。
円相場の影響「為替レート#為替レートの影響」も参照

円高のメリットとして、輸入品が安くなる(原材料も含む)、日本からの海外旅行が安くなるというプラス面がある一方で、輸出品が外国で高くなる、輸出品が売れなくなり国内産業が打撃を受け不景気となる、日本の観光収入が減るなどのマイナス面がある[2]。円安になると、円建ての海外資産所得が増加する[3]

「円高になると、交易条件が向上する(日本国外からの購入が有利になる[4])のでよい」という議論があるが[5][6]、交易条件は輸出物価と輸入物価の比率であるので、円高になると輸出物価も輸入物価も下がるため、交易条件に系統的な影響は与えない[5]。それどころか、比較優位をもつ輸出産業(比較優位性をもつからこその輸出産業)が採算ラインを割るような円高になって、日本国外に製造拠点を移転するなどすれば、平均的な生産性が下がり、賃金も下がって生活水準の低下にもなりかねない(円高不況を参照)。円高は、対外直接投資を増加させる要因となる[7]

さらに、円高になると日本の労働力などの生産要素価格が他国に対し相対的に高くなる[6]。円高は日本国外の賃金を日本の賃金に比べて低下させる[8]。このコスト高になった結果、輸出財の競争力は低下することになり、輸出が減少して輸出企業やその下請など関連企業の業績が悪化する要因となる。反対に輸入財は相対的に割安になるため国内生産品より競争力が増し、輸入が増加することになる。

円高で1万円で買えるものの量が増えるから一見メリットがあるように考えがちだが、その1万円を稼ぐこと自体が困難になるため、円高で有利になるとは言えない[6]

また、円高が起きた場合、生産活動はすぐには変化しない一方で、将来の景気悪化を懸念して消費や設備投資の方がより早く反応して落ち込む。その結果、国内の貯蓄超過(貯蓄?投資)が増加し、これは経常収支の黒字増加を意味する(貯蓄投資バランス[9]。すなわち、円高が起きた直後には貿易黒字の拡大が起きやすい。その後、国内の消費や投資の落ち込みによる景況感悪化に合わせて生産活動も停滞する中で、貿易黒字は縮小していく。円高直後の貿易黒字拡大を見て円高の悪影響を過小評価しないよう注意する必要がある。

経済学者翁邦雄は「円安で輸出が増え経済が回復するという効果は非常に限定的である。また、大企業の製造業の労働や株を持っている人にはプラスであるが、そうではない人にはマイナスという分配効果によって不満が高まりかねない」と指摘している[10]

元日銀理事の早川英男は「円安は実質賃金の低下をもたらす。円安は交易条件を悪化させ、賃金は企業収益と並行して増えないため、短期的には労働分配率を低下させる」「多くの外国人観光客が訪れるのを、日本人が相対的に貧しくなってしまった結果だと考えると好ましくない」と指摘している[11]

エコノミストの岩田一政は「円安が進みエネルギー価格も上昇・高止まりすると、交易条件は大幅に悪化する。企業の仕入れ価格は大きく上がる一方出販売価格が上がらず、利潤が圧縮され賃金も抑制される」「実質所得の国外流出が輸出・生産、所得の増加といった効果を上回ると、経済全体として消費者の効用の水準は低下する」と指摘している[12]

経済学者の小幡績は「円安になれば、輸入品の価格は確実に上がる。庶民の生活は苦しくなる。自動車・電機など一部の大企業にはメリットがあるけれど、日本経済を支えている内需関連の中小企業にとっては、輸送費・電気代が上がるなど、マイナスのほうが大きい」と指摘している[13]

大和総研は「円安は、資源が乏しく食料自給率が低い日本にとって望ましくない」と指摘している[14]

経済学者の浜田宏一は「古典派的に言えば、交易条件はアラブの王様が決めることであり、金融政策による為替レートの変動と交易条件の変動は無関係である。ただし、そのような関係があるというデータもある。石油はドル建てで決められるため、円安によって交易条件が悪化する傾向がある」と指摘している[15]

早川英男は「交易条件に与える影響は、為替レートより原油価格の方がずっと大きい」と指摘している[11]。経済学者の高橋洋一は「交易条件と為替レートにはほとんど関係がなく、交易条件は原油価格で決まる」と指摘している[16]

「円安になっても輸出は増えないようになっている」という議論について、エコノミストの村上尚己は「自国通貨が安くなれば、国際市場での価格競争力が高まるメカニズムが働く。このメカニズムが働かないなどというのは、経済原理を無視している」と指摘している[17]。村上は「円安の進行によって、企業の利益が増えて株高・外貨建て資産が増加することによって、民間部門のバランスシートが強固になり、設備投資・雇用拡大をもたらすメカニズムが一段と強まる」と指摘している[18]

経済学者のポール・クルーグマンは「歴史的に通貨安は輸出を推進するという有力な証拠がある一方で、その影響は数回の四半期まで結果がはっきりしないという経済データもある。普通10%円安になると10%輸出が伸びるはずである。総合的に見て円安のマイナス面よりもプラス面のほうが大きい」と指摘している[19]

経済学者の若田部昌澄は「円安によって、輸入競合企業(例:タオルメーカーなど)の収益が上がる」と指摘している[20]

経済学者の原田泰大和総研は「10%の円高は、実質GDPを0.54%押し下げる」と指摘している[21]。原田は「完全雇用になる程度の為替レートの水準が良い。完全雇用になった後の円安はデメリットとなる」と指摘している[22]

経済学者の岩田規久男は「過度の円高は、非正規雇用の比率を引き上げ、製造業を中心とした海外移転を促進し、国内雇用の需要の減少・失業率の上昇をもたらした」と指摘している[23]

経済学者の田中秀臣は「生産性の向上という実力以上の円高が発生すると、企業収益の圧迫による賃金・投資の抑制、雇用の減少、それを通じた国民消費の減退が起きる」と指摘している[24]。田中は「日本の代表的産業を苦境に立たせているのに関わらず、世の中には円高は『強い証拠』『国力が上がる』『日本にとって望ましい』といった言説が存在するが理解できない。また、円高が企業を淘汰し、過当競争を防ぎ、経済効率を上げるという見方もある。優良企業が、国際的に定評のある技術や販売力への評価ではなく、予期せぬ為替レートだけで窮地に追い込まれて淘汰されるのがいいのであろうか」と指摘している[25]

若田部昌澄は「円高に耐えられるように更なる企業努力をすべきだという声があるが、無責任極まりない意見である。円高に対して企業が努力をすれば、生産拠点を海外に移すだろう」と指摘している[26]
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