円の面積(えんのめんせき) S {\displaystyle S} は、円周率を π {\displaystyle \pi } 、円の半径を r {\displaystyle r} としたとき、
S = π r 2 {\displaystyle S=\pi r^{2}}
で表される[1]。
歴史
古代エジプト円の直径から、その1/9を引いたものを2乗すると円の面積になる(リンド・パピルス)
古代エジプトにおいては、リンド・パピルスの問題50に円の面積を求める方法が記録されている[注釈 1]。
リンド・パピルスでは、円の直径 d {\displaystyle d} [注釈 2]からその 1 9 {\displaystyle {\frac {1}{9}}} を引いた数の2乗、
S = ( d − d 9 ) 2 = 64 81 d 2 {\displaystyle S=(d-{\frac {d}{9}})^{2}={\frac {64}{81}}d^{2}}
として円の面積を求めている。これは半径 r {\displaystyle r} を用いて書き直せば、
S = 256 81 r 2 {\displaystyle S={\frac {256}{81}}r^{2}}
となる。したがって、現代の視点ではリンド・パピルスにおける計算は円周率を
π ≈ 256 81 ( = 3.16 … ) {\displaystyle \pi \approx {\frac {256}{81}}\,(=3.16\ldots )}
と近似したものと見なせる[2]。ただしこのことは、古代エジプト人が円周率を知っていたことや円周率の近似値を種々の計算に利用していたことを直ちに意味しない。 バビロニア数学では、円周の長さを c {\displaystyle c} としたとき、 S = 5 c 2 60 {\displaystyle S={\frac {\ 5c^{2}}{60}}} で求めていた[3]。また、円周率に相当する数値は、円に内接する正6角形によって近似した 3 [4]や、内接および外接する正12角形で円の面積を近似して求まる 3.125 であったといわれている[3][5]。 ヘブライ語最古とされる幾何学書『ミシュナート・ハ・ミッドット
古代バビロニア
ヘブライ
S = d 2 − 1 7 d 2 − 1 14 d 2 = 11 14 d 2 {\displaystyle S=d^{2}-{\frac {1}{7}}d^{2}-{\frac {1}{14}}d^{2}={\frac {11}{14}}d^{2}}
である[6]。したがって、半径 r {\displaystyle r} で整理すれば、
S = 22 7 r 2 {\displaystyle S={\frac {22}{7}}r^{2}}
となり、円周率に相当する数値は 22 7 ≈ 3.14 … {\displaystyle {\frac {22}{7}}\approx 3.14\ldots } と求まる。
古代ギリシャ円の面積は、円周 c を底辺、半径 r を高さとする直角三角形の面積に等しい
エウクレイデスは『原論』において、直径 d {\displaystyle d} の円の面積が1辺を d {\displaystyle d} とする正方形の面積に比例することを証明した[7]。しかし、円周率の値には言及していなかった[8]。円に内接する正6,12,24角形
アルキメデスは『円の計測』において、
命題1
円の面積は、円周の長さを底辺、半径を高さとする直角三角形の面積に等しい
命題3
円周と直径との比は、 3 10 71 {\displaystyle 3{\frac {10}{71}}} より大きく、 3 1 7 {\displaystyle 3{\frac {1}{7}}} より小さい[注釈 3]
を、取り尽くし法を用いて証明した。命題1は、円に内接および外接する正方形(正4角形)から辺数を増やしていき、円の面積が円周の長さを底辺、半径を高さとする直角三角形の面積よりも「大きくなく」「小さくない」ことで等しいことを証明[注釈 4]した[11][12]。命題3は、円に内接する正多角形の辺長と外接する正多角形の辺長の間に円周の長さがあることを用いて、円に内接および外接する正6角形から出発して正96角形で証明した[1][13][14][15][16]。
古代中国『九章算術』劉徽による円に内接する正多角形を用いた円の求積
『九章算術』に註釈をつけた魏の劉徽は、円の内接する正6角形から正12角形、正24角形と辺数を増やしていくと、やがて内接多角形の面積は円の面積に差は無くなる、としている[17]。
具体的には、円に内接する正n多角形のうち1つの三角形(△OAB)に対し、三角形の底辺とそのの二等分線と円周上の交点を高さとする長方形で囲まれる面積(□AA'B'B)を考えると、内接する正n角形の面積とその面積に長方形の面積を加えたものの間に円の面積がある、ということを利用している(右図)。
正n角形の面積を a n {\displaystyle a_{n}} 、円の面積を S {\displaystyle S} としたとき、
a 2 n < S < a 2 n + ( a 2 n − a n ) {\displaystyle a_{2n}<S<a_{2n}+(a_{2n}-a_{n})}
となり、半径10の円に対する正192角形までを評価して[注釈 5]、 314 64 625 < 100 π < 314 169 625 {\displaystyle 314{\frac {64}{625}}<100\pi <314{\frac {169}{625}}} を得た[18]。さらに内接多角形の辺を増やしていくことによって、 314 4 25 {\displaystyle 314{\frac {4}{25}}} を得ている[19]。 江戸時代初期に発行された算術書である吉田光由の『塵劫記』において、直径 d {\displaystyle d} の円の面積は、直径の自乗に「まるき法」を掛けて求める。ここで、まるき法は π 4 {\displaystyle {\frac {\pi }{4}}} に相当する値で、0.79 である。面積 S {\displaystyle S} で表せば、 S = 0.79 d 2 {\displaystyle S=0.79d^{2}}
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