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線型代数学における内積(ないせき、英: inner product)は、(実または複素)ベクトル空間上で定義される非退化かつ正定値のエルミート半双線型形式(実係数の場合には対称双線型形式)のことである。二つのベクトルに対してある数(スカラー)を定める二項演算であるためスカラー積(スカラーせき、英: scalar product)ともいう。内積を備えるベクトル空間は内積空間と呼ばれ、内積の定める計量を持つ幾何学的な空間とみなされる。エルミート半双線型形式の意味での内積はしばしば、エルミート内積またはユニタリ内積と呼ばれる。
定義「半双線型形式」も参照
複素数体 ? 上のベクトル空間 V 上で定義された二変数の写像 ⟨,⟩: V × V → ? が内積あるいはエルミート内積であるとは、x, y, z ∈ V および λ ∈ ? を任意として
第一変数に関する線型性: ⟨λx + y, z⟩ = λ⟨x, z⟩ + ⟨y, z⟩;
第二変数に関する共軛線型性(英語版): ⟨x, λy + z⟩ = λ⟨x, y⟩ + ⟨x, z⟩;
エルミート対称性: ⟨x, y⟩ = ⟨y, x⟩;
非退化性: V の元 x に対して ⟨x, x⟩ = 0 ならば x = 0;
半正定値性: V の任意の元 x に対して ⟨x, x⟩ ≥ 0
を満たすことを言う(ここで上付きのバー • は複素共役を表す)。すなわち、複素ベクトル空間上の内積は非退化正定値のエルミート形式である[注釈 1]。
実ベクトル空間の場合も同様で、実ベクトル空間 V 上の二変数の写像 ⟨,⟩: V × V → ? が内積であるとは、それが非退化正定値の対称双線型形式であるときに言う[注釈 2]。
場合によっては、非負の「半定値」半双線型形式を考える必要があることがある。つまり、⟨x, x⟩ は非負であることのみが要求され、非退化でないものも考えるということである(後述)。 エルミート対称性に注意すれば、任意の x に対して ⟨ x , x ⟩ = ⟨ x , x ⟩ ¯ {\displaystyle \langle x,x\rangle ={\overline {\langle x,x\rangle }}} ゆえ、これは実数値である。さらに半双線型性により ⟨ − x , x ⟩ = − 1 ⟨ x , x ⟩ = − 1 ¯ ⟨ x , x ⟩ = ⟨ x , − x ⟩ {\displaystyle \langle -x,x\rangle =-1\langle x,x\rangle ={\overline {-1}}\langle x,x\rangle =\langle x,-x\rangle } が成り立つ。 線型性により、「x = 0 ならば ⟨x, x⟩ = 0」が成り立ち、また非退化性はその逆「⟨x, x⟩ = 0 ならば x = 0」を言うものであるから、これらを合わせて、⟨x, x⟩ = 0 ⇔ x = 0 を得る。 内積の半双線型性を用いれば、平方展開 ⟨ x + y , x + y ⟩ = ⟨ x , x ⟩ + ⟨ x , y ⟩ + ⟨ y , x ⟩ + ⟨ y , y ⟩ = ⟨ x , x ⟩ + 2 ℜ ⟨ x , y ⟩ + ⟨ y , y ⟩ {\displaystyle \langle x+y,x+y\rangle =\langle x,x\rangle +\langle x,y\rangle +\langle y,x\rangle +\langle y,y\rangle =\langle x,x\rangle +2\Re \langle x,y\rangle +\langle y,y\rangle } が成り立ち、特に係数体が ? の場合には内積は対称だから、 ⟨ x ± y , x ± y ⟩ = ⟨ x , x ⟩ ± 2 ⟨ x , y ⟩ + ⟨ y , y ⟩ {\displaystyle \langle x\pm y,x\pm y\rangle =\langle x,x\rangle \pm 2\langle x,y\rangle +\langle y,y\rangle } を得る。また線型性においてスカラーについて特に考えないとき ⟨ x + y , z ⟩ = ⟨ x , z ⟩ + ⟨ y , z ⟩ , ⟨ x , y + z ⟩ = ⟨ x , y ⟩ + ⟨ x , z ⟩ {\displaystyle {\begin{aligned}\langle x+y,z\rangle &=\langle x,z\rangle +\langle y,z\rangle ,\\\langle x,y+z\rangle &=\langle x,y\rangle +\langle x,z\rangle \end{aligned}}} が成り立つが、これは分配性あるいは加法性(双加法性)とも呼ばれる。 様々な空間に複数通りの内積が定義できる。一覧表で概要を、各節で詳細を説明する。 具体的な内積ベクトル空間内積関数notes ⟨ x , y ⟩ A {\displaystyle \langle x,y\rangle _{A}} とも表記 ⟨ x , y ⟩ H {\displaystyle \langle x,y\rangle _{H}} とも表記
基本性質
例
?n x ⊤ y = ∑ i = 1 n x i y i {\displaystyle {\boldsymbol {x}}^{\top }{\boldsymbol {y}}=\sum _{i=1}^{n}x_{i}y_{i}} 別名: 標準内積
x ⊤ A y {\displaystyle {\boldsymbol {x}}^{\top }A{\boldsymbol {y}}} A は正定値対称行列
?n x ¯ ⊤ y = ∑ i = 1 n x ¯ i y i {\displaystyle {\bar {x}}^{\top }y=\sum _{i=1}^{n}{\bar {x}}_{i}y_{i}}
x ¯ ⊤ H y {\displaystyle {\bar {x}}^{\top }Hy} H は正定値エルミート
Sn×n Tr ( X Y ) {\displaystyle \operatorname {Tr} (XY)}
L2(Ω) ∫ Ω f g ¯ d μ {\displaystyle \int _{\Omega }f{\bar {g}}\,d\mu }
実n次元ベクトル空間 ?n
実 n-次元数ベクトル空間 ?n において、任意の二元 x = (x1, x2, …, xn), y = (y1, y2, …, yn) に対し、 ⟨ x , y ⟩ := ∑ i = 1 n x i y i {\displaystyle \langle x,y\rangle :=\sum _{i=1}^{n}x_{i}y_{i}} とすると、この ⟨,⟩ は(正定値な)内積の性質を満たす。これを、?n の標準内積と呼ぶ。標準内積は ?n を n行1列の行列と同一視することで、転置?と行列積を用いて ⟨ x , y ⟩ = x ⊤ y {\displaystyle \langle x,y\rangle =x^{\top }y} と表わせる。また、n 次の(正定値)対称行列 A を用いて ⟨ x , y ⟩ A := x ⊤ A y {\displaystyle \langle x,y\rangle _{A}:=x^{\top }Ay} とおくと、これも(正定値)内積の性質を満たす。