内呼吸
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好気呼吸の概略図

細胞呼吸(さいぼうこきゅう、英語: Cellular respiration)または内呼吸(ないこきゅう)は、生物における呼吸の一過程で、酸素栄養素からアデノシン三リン酸(ATP)として化学エネルギーを取り出し、老廃物を排出する生物の各細胞で起こる一連の代謝反応である[1][2]。また人間などが肺などで行う呼吸(外呼吸)とは区別されるが、以下、呼吸と称する。呼吸に関わる反応は異化反応であり、酸素のような高エネルギーの結合を解離させて生成物の安定な結合に置き換え、エネルギーに変える[3]。細胞呼吸は一連の生化学的な反応から成っており、細胞からの化学エネルギーの放出によって細胞の活動を促進する体内における重要な反応の1つとなっている。細胞呼吸は燃焼反応の1つであるが、エネルギーがゆっくりと放出されるために生体内の他の燃焼反応とは明確に異なる反応となっている。動植物細胞の呼吸では、大部分を酸素分子を酸化剤とした反応が起こり、化学エネルギーを生産している[1]。また、アミノ酸脂肪酸などの栄養素からも化学エネルギーが生産される。細胞が使用するエネルギーはリン酸基とATP分子の他の部分との結合が切れて、より安定なアデノシン二リン酸(ADP)が形成されることで放出される[4]。放出されたエネルギーは生合成、運動、細胞膜を介した分子輸送などに使われる。狭義には好気呼吸(こうきこきゅう)、酸素呼吸(さんそこきゅう)など酸素を用いる呼吸となる。広義には酸素を用いない嫌気呼吸を含め、細胞の行う異化代謝系すべてを指すが、狭義に用いられる場合が多い。
好気性生物の誕生

酸素地球誕生時大気には今より少ない濃度しか存在していなかった。しかし、植物のような光合成を行うものが出現したことで大気には徐々に酸素が蓄積された。

本来、酸素は強い酸化力をもった性の強い気体である。しかし、一部の生物は酸素を利用した酸化過程を通じて大きなエネルギーを利用できるようになった。現在、酸素を利用した代謝のできる生物は細胞内のミトコンドリアにより炭水化物を酸化し、最終産物として二酸化炭素 (CO2) と水を排出する。青酸シアン化水素酸)はミトコンドリアの電子伝達系を阻害するため、好気的な生物にとって猛毒である。
細胞呼吸の代謝系

呼吸代謝には大きく分けて以下の3つの代謝が関わる。糖類はこれらの代謝系によって二酸化炭素 (CO2) および水にまで分解され、その過程で「ATP」が生産される。
解糖系
細胞質基質で行われる酸素を使わない糖の酸化過程。
クエン酸回路
ピルビン酸などから変換されたアセチルCoA二酸化炭素に分解する酸化過程。真核生物ではミトコンドリア基質で、原核生物では細胞膜近辺で行われる。
酸化的リン酸化
NADHなどの水素受容体を酸化し、酸素に電子を伝えて水を生成する過程を電子伝達系と呼ぶ(光合成の電子伝達系と区別するため、呼吸鎖とも呼ばれる)。それと共役してATP合成酵素によりATPが生成する。真核生物ではミトコンドリア内膜で、原核生物では細胞膜で行われる。高校の生物では「酸化的リン酸化」という言葉を用いず、呼吸鎖とATP合成酵素反応全体を含めて「電子伝達系」と呼ぶ。

なお、脂肪酸などの有機酸の酸化においては、解糖系の代わりにβ酸化(大部分の反応がミトコンドリア基質で行われる)がかかわる。

細胞呼吸
細胞呼吸によるATP生成量

以下にグルコース1分子を代表として、ミトコンドリアを有する真核生物の細胞呼吸における物質の収支を示す(高エネルギーリン酸結合形成における脱水と、NADHを除くpHバランスに伴うプロトンの収支は省略)。
解糖系(10段階の酵素反応より成る)
グルコース ( C 6 H 12 O 6 ) + 2 NAD + + 2 ADP + 2 Pi ⟶ 2 {\displaystyle {\ce {(C6H12O6) + 2NAD+ + 2ADP + 2Pi -> 2}}} ピルビン酸 ( C 3 H 4 O 3 ) + 2 NADH + 2 ATP + 2 H + {\displaystyle {\ce {(C3H4O3) + 2NADH + 2ATP + 2H+}}} ピルビン酸から乳酸エタノールへと発酵する過程も解糖系に含むのが普通である。
クエン酸回路

ピルビン酸脱炭酸反応
2 ピルビン酸 ( C 3 H 4 O 3 ) + 2 NAD + + 2 HSCoA ⟶ 2 {\displaystyle {\ce {(C3H4O3) + 2NAD+ + 2HSCoA -> 2}}} アセチル CoA ( CH 3 COSCoA ) + 2 CO 2 + 2 NADH + 2 H + {\displaystyle {\ce {CoA (CH3COSCoA) + 2CO2 + 2NADH + 2H+}}} 解糖系とクエン酸回路を結ぶ反応で、しばしばクエン酸回路にも解糖系にも分類される。
狭義のクエン酸回路 (10段階の酵素反応より成る)
2 アセチル CoA ( CH 3 COSCoA ) + 6 NAD + + 2 FAD + 2 GTP + 2 Pi + 6 H 2 O ⟶ 4 CO 2 + 6 NADH + 6 H + + 2 FADH 2 + 2 GTP + 2 HSCoA {\displaystyle {\ce {CoA (CH3COSCoA) + 6NAD+ + 2FAD + 2GTP + 2Pi + 6H2O -> 4CO2 {+}6NADH + 6H+ + 2FADH2 + 2GTP + 2HSCoA}}} スクシニルCoA合成酵素を通じてGTPからは当量のATPが合成される。
酸化的リン酸化

電子伝達系(4種類の呼吸鎖複合体による3段階の酸化還元反応が関与する)
10 NADH + 10 H + + 2 FADH 2 + 6 O 2 ⟶ 10 NAD + + 2 FAD + 12 H 2 O {\displaystyle {\ce {10NADH + 10H+ {+}2FADH2 + 6O2 -> 10NAD+ + 2FAD + 12H2O}}}
ATP合成酵素によるATP合成反応
(10 NADH由来): 30 ADP + 30 Pi ⟶ 30 ATP {\displaystyle {\ce {30ADP + 30Pi -> 30ATP}}} (2 FADH2由来): 4 ADP + 4 Pi ⟶ 4 ATP {\displaystyle {\ce {4ADP + 4Pi -> 4ATP}}} NADHからは約3当量、FADH2からは約2当量のATPが合成されるとされてきた。


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