内名
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「内名」はこの項目へ転送されています。その他の用法については「内名 (曖昧さ回避)」をご覧ください。

エンドニム(: endonym)とエクソニム(: exonym)とは、特定の地名 (toponym) 、民族名 (ethnonym) 、言語名 (glossonym) などを、命名の主体となった民族・言語に内生した呼称と外来の言語における呼称とに区分する術語。また、その区分された特定の地名呼称、民族呼称、言語呼称のこと。主に国際連合地名標準化会議などにおける地名行政や文化人類学の文脈で用いられる。日本語ではそれぞれ、内名(ないめい)と外名(がいめい)と訳される[1]

一般的に内名は、地名でいえば現地の人々の言語における呼称、民族名でいえば当該の民族自身の言語における呼称、言語名でいえば当該の言語自体における呼称を指す。自称についてはオートニム(: autonym)とも呼ばれる。

同様に外名は、地名でいえば現地の公用語以外の諸言語における異称、民族名でいえば当該の民族以外の民族の諸言語における異称、言語名でいえば当該の言語以外の諸言語における異称を指す。類義語に「外国性の名前」を意味するゼノニム(: xenonym)がある。

例を挙げれば、「日本」(にほん・にっぽん)や Nippon という内名に対して、英語の Japan やフランス語の Japon 、イタリア語の Giappone 、ロシア語の Япония などは外名の一例である。

内名・外名は自称・他称と混同されやすいが、正確には似て非なるものである。
語源

autonym (オートニム)、 endonym (エンドニム)、 exonym (エクソニム)、 xenonym (ゼノニム)は、いずれもインド・ヨーロッパ祖語の *h?nomn? に由来するギリシャ語起源の onoma (?νομα, 'name') に特定の接頭辞を付加した英単語である。

これらの接頭辞もギリシャ語から派生している。

autonym: autos (α?τ??, 'self')

endonym: endon (?νδον, 'within')

exonym: ex? (?ξω, 'outside')

xenonym: xenos (ξ?νο?, 'foreign')

このうち、 autonym と xenonym については、異なる用語法で用いられる場合があるため、 endonym と exonym の語形が優先的に用いられる。
地名に対する用語法

地名に関する限り、エンドニムは内生地名(ないせいちめい)、エクソニムは外来地名(がいらいちめい)とも和訳される[1][2][注 1]。原初的にある個人や集団の内に生まれた地名が、次第にまとまって民族全体の内生地名となり、そのまとまってゆく段階において他の民族集団と接触して、一つの地域に対して地名を与える主体が複数現れたとき、その交流・対立・交代などにより、外来地名が発生する[4]。たとえば、東北日本で生まれたアイヌ地名は日本人にとって外来地名であったし[注 2]、同様に日本語から持ち込まれた地名はアイヌ人にとっては外来地名である[6]。つまり、土地に名前を与えた主体が誰であるのかによって、内生地名と外来地名は逆転する[4]
定義と例示

国際連合地名標準化会議 (UNCSGN) の地名専門家グループ (UNGEGN) が取りまとめ、公表した地名標準化用語集によれば、エンドニムとエクソニムは次のように定義されている(下記和訳は田邉 (2020)による)。.mw-parser-output .templatequote{overflow:hidden;margin:1em 0;padding:0 40px}.mw-parser-output .templatequote .templatequotecite{line-height:1.5em;text-align:left;padding-left:1.6em;margin-top:0}076 endonym

Name of a geographical feature in one of the languages occurring in that area where the feature is situated. Examples: V?r?nas? (not Benares); Aachen (not Aix-la-Chapelle); Krung Thep (not Bangkok); al-Uq?ur (not Luxor); Teverya (not Tiberias). [7]

076 エンドニム(内生地名)

地理的実体が存在する地域に生まれた諸言語のうちの一つで表される名称。例示:インドの Benares ではなく V?r?nas? 、ドイツの Aix-la-Chapelle ではなく Aachen 、タイの Bangkok ではなく Krung Thep 、エジプトの Luxor ではなく al-Uq?ur 、イスラエルの Tiberias ではなく Teverya 。[8]

081 exonym

Name used in a specific language for a geographical feature situated outside the area where that language has official status, and differing in its form from the name used in the official language or languages of the area where the geographical feature is situated. Examples: Warsaw is the English exonym for Warszawa; Londres is French for London; Mailand is German for Milano. The officially romanized endonym Moskva for Москва is not an exonym, nor is the Pinyin form Beijing, while Peking is an exonym. [7]

081 エクソニム(外来地名)

ある特定言語において公用語の域外にある地理的実体のために用いられ、公用語あるいは地理的実体の存在する地域の諸言語に用いられる名称とは異なった形態であるような名称。例示: Warsaw は Warszawa の英語の外来地名であり、 Londres は London のフランス語の外来地名、 Mailand は Milano のドイツ語の外来地名である。ただし Moskva は Москва の外来地名ではなく、 Beijing の?音 (P?n-y?n) 形も外来地名ではないが、 Peking は外来地名である。[9]UNGEGN、Glossary of Terms for the Standardization of Geographical Names (2002)

ただし、領土変更などによって内生地名はエクソニム化する可能性があり、反対に古くからあるエクソニムが内生地名化してエンドニムとなる場合もしばしばあるので、エクソニムは相対的な概念にすぎない[2]。また、田邉 (2020)は、上掲の定義には、歴史的視点が漠然としており、外来地名が住民に受け入れられて内生地名になってゆく過程や、使用言語が外来語を自分の言語の中に消化・吸収する過程が省略されていることを指摘している[10]

かつてケーニヒスベルクと呼ばれた都市は、20世紀にソビエト領を経てロシア領になり、現在はカリーニングラードの名でも呼ばれるが、ロシア人にとってはケーニヒスベルクは外来地名であり、カリーニングラードが内生地名となっている一方、ドイツ人にとってはケーニヒスベルクは(今や異国の都市になっているが)昔からの内生地名であって、カリーニングラードは外来地名である[11]

また、もともと内名でグダニスクと呼ばれていたポーランドの同都市は、1793年にプロイセン王国に併合されてドイツ語名の「ダンツィヒ」(外名)に改称されたが、第二次世界大戦でドイツが敗戦してポーランドが独立を回復した後、1952年に再び元の都市名「グダニスク」(内名)に復帰した。

このように、ドイツ語系住民が入植したり、ドイツ帝国オーストリア帝国に占領されたりした歴史的背景をもつ東ヨーロッパ地域には、もともと内生地名だったドイツ地名が各国語の呼称に置き換えられて外来地名になったドイツ語地名の事例が多い[12]。1989年に始まる東欧革命に伴って、東欧諸国で地域の伝統文化や歴史への関心が高まり、地域固有の言語による地名呼称が重視されるようになり[13]、ドイツ語圏においても1990年代以降、地理学雑誌で用いられる地名表記がドイツ語の外名表記から現地語の内名表記へと変化するなどしている[14]

フランス人が命名したアメリカ合衆国の都市名デトロイトは元の綴り字 Detroit のまま英語読みされる一方、バトンルージュ Baton Rouge は綴りも読みもフランス式を維持している[15]。いずれも外来地名化した内生地名の事例である[15]

反対に、内生地名化したエクソニムの実例を挙げると、16世紀に日本と交流のあったポルトガル語の外来地名 Holanda に由来する「オランダ」は日本語において内生地名化したが、同国の内生地名の「ネーデルラント」は依然、日本人にとっては外来地名である[8]U.S.A. に対する「米国」、 U.K. に対する「英国」「イギリス」なども、現在の国名である the United States of America および the United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland を取り入れる以前の外来地名を元に成立した、日本語の中に内生化した地名である[16]

このように、遠方で自分の生活圏に入り込まなかった地名は外来地名を内生地名として取り込むことが多く、逆に早い時期から交易・接触のあった土地には、現地名に優先して自分の言語の文脈の中で自らの文化圏において内生地名を誕生させていくことになる[17]、と田邉 (2020)は説明している。

上掲の国連による内生地名の例示では、パレスチナ側のアラビア語の地名 Teverya が内生地名とされ、イスラエル側のヘブライ語の地名 Tiberias は内生地名ではないとみなされているが、ユダヤ人から見れば全く逆の位置づけとなる[18]


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