六フッ化タングステン
[Wikipedia|▼Menu]

フッ化タングステン(VI)

IUPAC名

六フッ化タングステン
フッ化タングステン(VI)
識別情報
CAS登録番号7783-82-6 
PubChem522684
SMILES

F[W](F)(F)(F)(F)F

InChI

InChI=1S/6FH.W/h6*1H;/q;;;;;;+6/p-6

特性
化学式WF6
モル質量297.830 g/mol
外観無色気体
密度12.4 g/L、気体
4.56 g/cm3 (-9 °C、固体)
融点

2.3 °C, 275 K, 36 °F
沸点

17.1 °C, 290 K, 63 °F
への溶解度加水分解
構造
分子の形正八面体
双極子モーメント0
危険性
EU Index不記載
引火点不燃性
関連する物質
その他の陰イオン塩化タングステン(VI)
臭化タングステン(VI)
その他の陽イオンフッ化クロム(IV)
フッ化モリブデン(IV)
関連物質フッ化タングステン(IV)
フッ化タングステン(V)
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

六フッ化タングステンもしくはフッ化タングステン(VI)はWF6の組成式で表されるフッ素タングステンからなる無機化合物である。腐食性を有する気体または液体である。25°C100kPaにおいて気体である既知の物質の中で最も重い物質の一つであり[1]、その密度はおよそ13 g/Lと空気の約11倍重い[2][3][4]。WF6は集積回路プリント基板の製造において低抵抗の金属配線層を形成するのに利用される。これは化学気相蒸着法を用いて基板上でWF6を分解させることによって金属タングステンを堆積させるものである[5]
性質

WF6の常圧(100kPa)における沸点は17.1°Cであるため、室温付近では気体または液体として存在している。反磁性を有し気相では無色である。WF6分子は点群Ohで表される八面体形分子構造を取る。タングステン原子とフッ素原子間のW-F結合の結合距離は183.2 pmである。融点は2.3°Cであり、2.3°Cから17.1°Cの狭い温度範囲においては凝縮して淡黄色の液体となる。液体状態での密度は15°Cにおいて3.44 g/cm3。2.3°C以下で凝固して白色の立方晶固体となる。固体状態における格子定数は628 pm、計算密度は3.99 g/cm3である。-9°C以下で斜方晶に転移し、その格子定数はa = 960.3 pm、b = 871.3 pm、c = 504.4 pmであり、密度は4.56 g/cm3。この相でのW-F結合の結合距離は181 pmであり、最近接分子間距離は312 pmである。気体状態のWF6ガスは最も重い気体元素であるラドンの9.73 g/Lよりもさらに重いが、一方で液体および固体のWF6の密度はむしろ中程度である。WF6の蒸気圧は- 70°Cから17°Cの間では以下の式で記述することができる[6][7]log10(P) = 4.55569 ? (1021.208/ (T+208.45)) :P = 蒸気圧 (bar)、T = 温度(°C)。
合成

WF6は通常、フッ素ガスと金属タングステン粉末を350から400°Cで反応させることで製造される[8]。 W   + 3 F 2 ⟶ WF 6 {\displaystyle {\ce {W\ + 3F2 -> WF6}}}

通常、この反応ではオキシフッ化タングステン (WOF4) が副生し不純物となるため、得られたガス状の生成物を凝縮および蒸留によって分離精製を行う。このようなフッ素との直接反応では、金属タングステンを加熱した反応容器に入れ1.2から2.0 psi (8.3から14 kPa)にわずかに加圧し、生成したWF6が一定の流量で安定して流出するように少量のフッ素ガスを吹き込む[9]

上記の方法におけるフッ素ガスはフッ化塩素 (ClF)、フッ化塩素(III) (ClF3) もしくはフッ化臭素(III) (BrF3) に置き換えることも出来る。WF6を合成する他の方法としては、酸化タングステン(III)フッ化水素 (HF)、フッ化臭素(III) (BrF3) もしくは四フッ化硫黄 (SF4) と反応させることによっても合成することができる。WF6はまた、塩化タングステン(VI)からも合成することができる[1]。 WCl 6   + 6 HF ⟶ WF 6   + 6 HCl {\displaystyle {\ce {WCl6\ + 6 HF -> WF6\ + 6 HCl}}} WCl 6   + 2 AsF 3 ⟶ WF 6   + 2 AsCl 3 {\displaystyle {\ce {WCl6\ + 2 AsF3 -> WF6\ + 2 AsCl3}}} WCl 6   + 3 SbF 5 ⟶ WF 6   + 3 SbF 3 Cl 2 {\displaystyle {\ce {WCl6\ + 3 SbF5 -> WF6\ + 3 SbF3Cl2}}}
反応

WF6は加水分解を受けてフッ化水素 (HF)とオキシフッ化タングステン (WOF4)を生成し、オキシフッ化タングステンはさらに加水分解して最終的に酸化タングステン(VI)となる[1]。 WF 6   + 3 H 2 O ⟶ WO 3   + 6 HF {\displaystyle {\ce {WF6\ + 3 H2O -> WO3\ + 6 HF}}}

WF6は他の金属フッ化物とは異なり有用なフッ素化剤ではなく、また強力な酸化剤でもない。WF6は還元されることでWF4を与える[10]
半導体産業における用途

WF6の用途の大半は半導体産業にあり、そこでは化学気相蒸着法によって金属タングステンを堆積させるために用いられている。1980年代から1990年代にかけての産業の拡大によってWF6の消費量は増加し、世界の年間消費量は200トン前後となっている。金属タングステンは抵抗が低く (5.6 μΩ・cm)、エレクトロマイグレーションが少ないというのみならず、熱的および化学的安定性が比較的高いことから魅力的な素材である。WF6はその蒸気圧の高さに起因して蒸着速度が速いため、塩化タングステン(VI) (WCl6)や臭化タングステン(VI) (WBr6)のような同じタングステンのハロゲン化物よりも好まれる。1967年以降、WF6の分解方法は熱分解法および水素還元法の2つが開発され、使用された[11]。この方法で用いられるWF6ガスの純度は非常に高く、用途に応じて99.98%から99.9995%までのものが必要となる[1]

WF6分子は化学気相蒸着法の過程において分解され金属タングステンとならなければならない。WF6を水素、シランゲルマンジボランホスフィンおよび関連物質の水素含有ガスと混合させることで分解が促進される。


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:36 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef