公理(こうり、英: axiom)は、その他の命題を導きだすための前提として導入される最も基本的な仮定のことである。一つの形式体系における議論の前提として置かれる一連の公理の集まりを公理系(英語版
) (axiomatic system) という[1]。公理を前提として演繹手続きによって導きだされる命題は定理とよばれる。多くの文脈で「公理」と同じ概念をさすものとして仮定や前提という言葉も並列して用いられている。公理とは他の結果を導きだすための議論の前提となるべき論理的に定式化された(形式的な)言明であるにすぎず、真実であることが明らかな自明の理が採用されるとは限らない。知の体系の公理化は、いくつかの基本的でよく知られた事柄からその体系の主張が導きだせることを示すためになされることが多い。
なお、ユークリッド原論などの古典的な数学観では、最も自明(絶対的)な前提を公理、それに準じて要請される前提を公準 (postulate) として区別していた。目次 以下にいくつかの公理の例を示す。 公理にもとづいて証明される命題は定理という。以下に定理の例を示す。 axiomという言葉の語源はギリシャ語のαξιωμα (axioma、価値があり適切と考えられるものあるいはそれ自身明らかなもの)である[2]。公理の概念が明確に記述された現存する文書のうちで最も古いものは、紀元前300年頃にギリシアで書かれたユークリッドの原論である。詳細は「平行線公準」を参照 原論には以下の5つの公準[3]が挙げられている: やがてこれらの公準は公理として認識されるが、最後の第5公準(平行線公準とも呼ばれる)は他の公準ほど自明ではない。このため平行線公準は公準ではなく、他の4つの公理から導ける定理なのではないかという疑問が生じ(平行線問題)、証明が試みられたがいずれもうまくはいかなかった。 19世紀にガウス、ボヤイ、ロバチェフスキーらによって、最初の4つの公理が成立しかつ平行線公準が成立していないような幾何学の体系(楕円幾何学、双曲幾何学)が構成された事によって平行線問題は否定的に解決された。もし最初の4つの公理から平行線公理が導けるのであればこのような幾何学は存在するはずがなく、よって平行線公準は他の4つの公理からは導けないのである。平行線公理を仮定して展開されるユークリッド幾何学に対し、双曲幾何学のように最初の4つの公理は満たすが平行線公理のみは満たさないような幾何学を非ユークリッド幾何学という。
1 公理の例
2 歴史
3 公理の形式性
4 公理の直観的・歴史的な妥当性
5 脚注
6 関連項目
公理の例
命題 P が成立するなら、命題「PまたはQ」も成立する。
2つの点が与えられたとき、その2点を通るような直線を引くことができる(ユークリッド幾何学)。
平行でない二つの異なる直線はただ一点で交わる(ユークリッド幾何学)。
a=b なら、a+c = b+cである(ユークリッド原論を参照)。
どんな自然数に対しても、その数の「次の」自然数が存在する(ペアノの公理)。
どんなものも含まないような集合(空集合)が存在する(公理的集合論)。
集合 S と条件式 P が与えられたとき、S の元のうち、条件 P(x) を満たすような x だけからなる集合を作ることができる(公理的集合論)。
すべての集合 x に対して、x ∈ {\displaystyle \in } U のようなグロタンディーク宇宙 U が存在する(グロタンディーク宇宙)。
2本の平行な線とそれに平行でない一本の直線が成す錯角は等しい(ユークリッド幾何学)。
三角形の内角の和は180度である(ユークリッド幾何学)。
円周角の定理(ユークリッド幾何学)。
歴史
第1公準 : 点と点を直線で結ぶ事ができる
第2公準 : 線分は両側に延長して直線にできる
第3公準 : 1点を中心にして任意の半径の円を描く事ができる
第4公準 : 全ての直角は等しい(角度である)
第5公準 : 1つの直線が2つの直線に交わり、同じ側の内角の和が2つの直角より小さいならば、この2つの直線は限りなく延長されると、2つの直角より小さい角のある側において交わる。