八重山諸島のマラリア
[Wikipedia|▼Menu]

八重山諸島のマラリア(やえやましょとうのマラリア)では、沖縄県八重山諸島で1961年まで感染者が発生していたマラリアについて記述する。八重山諸島のうち石垣島西表島小浜島与那国島の4島では、48時間おきに発熱する三日熱マラリア、72時間おきに発熱する四日熱マラリア、不規則に熱発する熱帯熱マラリアの3種類のマラリア感染が見られた。南部沿岸部を除く石垣島と西表島が流行の中心である。加えて流行が見られない地域からマラリア有病地である南部沿岸部を除く石垣島や西表島へ通って耕作を行う通い耕作と呼ばれる風習があったため、実際には八重山諸島全体でマラリアの感染者が見られた。八重山諸島のマラリアの特徴のひとつとして悪性の熱帯性マラリアが多数を占めており、琉球王国時代から多くの人々を苦しめてきた。とりわけ第二次世界大戦末期に発生した戦争マラリアでは多くの感染者、犠牲者を出した。

明治時代以降、たびたび八重山諸島のマラリアの実態調査が行われた。1921年からはマラリア対策も進められ、一定の成果を挙げたものの撲滅には至らなかった。戦後、アメリカによる沖縄統治下において、ウイラープランと呼ばれる本格的なマラリア撲滅計画が実施され、1961年を最後に八重山諸島のマラリアは消滅した。八重山諸島のマラリア撲滅によって石垣島と西表島の観光開発が可能となり、また八重山諸島のマラリア撲滅は熱帯の開発途上国のマラリア対策のモデル事業のひとつとされている。
特徴ヒトに感染する種のライフサイクル。1がスポロゾイド、3がメロゾイド、6がオーシストである。

熱帯亜熱帯の高温多湿環境は、細菌ウイルスリケッチア原虫などの病原となる生物や、それらの中間宿主となる生物の繁殖に適しており、病原となる生物による感染症が多発している[1]。沖縄は亜熱帯性気候であり[2]マラリアフィラリアが代表的な風土病として知られていた。中でも八重山諸島のマラリアは多くの死者を出していて恐れられ、地域開発の障害となっていた[3]

マラリアはマラリア原虫を蚊がヒトに媒介することによって発病する感染症であり、結核AIDSとともに三大感染症のひとつとされている[4]。ヒトにマラリアを引き起こすマラリア原虫には三日熱(P. vivax)、四日熱(P. malariae)、熱帯熱(P. falciparum)、卵型(P. ovale)、サル・マラリア(P. knowlesi)の5種類が知られていて、いずれもハマダラカのメスが行う吸血行動に伴い、人体に原虫が取り込まれ発病する[4]。具体的にはまずハマダラカのメスの唾液腺に集まったマラリア原虫のスポロゾイドが吸血時に人体に注入される。人体に侵入したスポロゾイドは肝細胞に取り込まれ、肝細胞内で増殖を繰り返し、数千個のメロゾイトとなった時点で肝細胞を破壊して血中に放出される。メロゾイドは赤血球に侵入して輪状体、栄養体、分裂体と変化していき、分裂が進むと赤血球を破壊して放出され、他の赤血球に侵入し、破壊するというサイクルが続く。そのような無性生殖を繰り返す中で一部が性の区別がある生殖母体となり、生殖母体が吸血時にハマダラカのメスに取り込まれると腸内で合体、受精が行われ、オーシストと呼ばれるマラリア原虫となる。オーシストは大量のスポロゾイドを形成し、それが人体へと取り込まれるというサイクルを形成している[5]。人体内でのマラリア原虫の増殖によるマラリア抗原、赤血球の破壊、それらに伴う炎症反応によって発熱、悪寒、振戦というマラリア発作を引き起こし、その他、貧血黄疸脾腫、肝腫大といった症状が引き起こされる[6]。中でも熱帯熱マラリアはマラリア原虫に感染した赤血球が血管内皮細胞に付着する性質がある。そのため毛細血管の閉塞に伴い脳や腎臓、肺、消化器などで組織の低酸素症を引き起こしやすく、未治療のままでいると致死率が高い疾患を引き起こす可能性が大きく、他の種類のマラリアよりも危険性が高い[7]八重山諸島でマラリアが見られたのは南部沿岸部を除く石垣島、西表島、小浜島、与那国島であった。

八重山諸島全体でみるとマラリアが見られたのは石垣島、西表島、小浜島、与那国島の4島であった[8]。また西表島に近接する内離島外離島もマラリアの蔓延地であった[9]。その他の有人島である黒島竹富島新城島鳩間島波照間島にはマラリアは無く、また石垣島も南部沿岸地域ではマラリアが見られなかった[8]


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:294 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef