八百長
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八百長(やおちょう)とは、前もって勝敗を打ち合わせておき、表面だけ真剣に勝負を争うように見せかけること。 転じて、一般に、前もってしめし合わせておきながら、さりげなくよそおうこと[1]
概説

選手、審判およびその家族や関係者を脅し(または人質を取り)、わざと敗退を強要する場合もあれば、選手に金品などの利益を供与し、便宜を図って行われる場合もある。

勝負事においては競技の如何を問わず、常にブックメーカーや暗黒街の暴力団マフィアの主導による非合法の賭博が絡むなどの現実的側面が付きまとっているため、公営ギャンブル対象競技はもちろん、公営ギャンブル対象ではない他の競技でも組織の内部規定によって永久追放・出場停止・降格など厳しく処分される。

なお、複数の選手が同時に参加する個人競技において、同じチームメイトが複数人参加している場合はチーム側の意向で参加選手の前後位置を入れ替える例(モータースポーツチームオーダー)や、自身の好記録を目標とせずに仲間の走行を容易にするためにペース作りや風除けなどでサポートする例(自転車ロードレース競技アシスト陸上競技ペースメーカー・競馬のラビット)がある。これらの行為は個人競技において「個人の上位進出を目指さず、故意に敗退すること」を前提としているため、スポーツマンシップに反するとしてかつてはタブー視されたり明文ルールで禁止された事例もあるが、現在は日本競馬のラビットを除き容認ないし黙認されている。

日本においては公営競技競馬競輪競艇オートレース)やJリーグなど、「合法的な賭博」の対象となる競技は競馬法第32条の2?第32条の4・自転車競技法第60条?第63条・小型自動車競走法第65条?第68条・モーターボート競走法第72条?第75条・スポーツ振興投票実施法第37条?第40条で選手などに対し八百長などの不正行為に対する刑事罰が規定されている。

また賄賂でなくても選手が金銭的利益のために競走について他人に得させるために全力を出さない状況にしないため、競馬法第29条・自転車競技法第10条・小型自動車競走法第14条・モーターボート競走法第10条・スポーツ振興投票実施法第10条で選手などが投票券を購入や譲り受けをすることについて刑事罰が規定されている。また競技場への選手による通信機器[† 1]の持ち込みを禁止し、違反者は長期間の出場停止や選手資格の剥奪など処罰の対象になる[2]

さらに競馬では競馬法第31条で自己が財産上の利益を得なくても、「一時的に馬の競走能力を減ずる薬品などを使用した者」や「(競走について他人に得させるため)競走において馬の全能力を発揮させなかった騎手」に対する刑事罰が規定されている。陸上競技のペースメーカーに類似した競馬のラビットは、刑事罰を規定した競馬法第31条の条文「他人に得させるため競走において馬の全能力を発揮させなかった騎手」に解釈次第によっては該当する可能性がある。

公営競技とJリーグを除く勝負事の八百長を刑事罰に規定する直接の法律はない[3] が、闇社会による賭博が絡む場合、賭博罪詐欺罪の対象となる可能性がある[3]。また懸賞金がからむ勝負事での八百長については懸賞金を出す者に対する詐欺罪、勝負事を業務とすることができれば偽計業務妨害罪の適用可能性がある[3]

八百長に伴う金銭の授受があった場合は、課税上の問題として現金を受け取った側に贈与税や雑所得としての所得税の課税対象になる可能性があるが、小額の場合は資産蓄積や対価性認定の問題もある[3]
由来

八百長は明治時代の八百屋の店主「長兵衛(ちょうべえ)」に由来するといわれる。八百屋の長兵衛は通称を「八百長(やおちょう)」といい[† 2]大相撲年寄伊勢ノ海五太夫と囲碁仲間であった。囲碁の実力は長兵衛が優っていたが、『八百屋の商品を買ってもらう商売上の打算』、『勝負の時間を、縮める』(説)、等から、一勝一敗になるように手加減した碁で機嫌を取っていた[4]

しかし、その後、回向院近くの碁会所開きの来賓として招かれていた本因坊秀元と互角の勝負をしたため、周囲に長兵衛の本当の実力が知られるようになった。長兵衛が伊勢ノ海五太夫に行っていたのは相手には秘密の接待碁であったが、その後は真剣に争っているようにみせながら、事前に示し合わせた通りに勝負をつけることを八百長と呼ぶようになった。

2002年に発刊された日本相撲協会監修の『相撲大事典』の八百長の項目では、おおむね上記の通りで書かれているが、異説として長兵衛は囲碁ではなく花相撲に参加して親戚一同の前でわざと勝たせてもらった事を挙げているが、どちらも伝承で真偽は不明としており、「呑込八百長」とも言われたと記述されている。

1901年10月4日付の読売新聞では、「八百長」とは、もと八百屋で水茶屋「島屋」を営んでいた斎藤長吉のことであるとしている。
隠語

大相撲の隠語で、八百長は「注射」と呼ばれ、逆の真剣勝負は「ガチンコ」と呼ばれる。

対戦者の一方のみ敗退行為[5] を行う場合は「片八百長」「片八百」「半八百長」と呼ばれることがある。
主な事件・疑惑
関係者が処分された例
日本

山岡事件競馬[† 3]

黒い霧事件日本野球機構オートレース[† 4]

新潟事件(競馬)

大相撲八百長問題大相撲日本相撲協会

最高位戦八百長疑惑事件麻雀[6]

西川昌希による八百長行為(競艇、順位不正操作)

鈴鹿ポイントゲッターズの八百長未遂(日本フットボールリーグ、クラブ幹部による敗退行為指示[7][8]

日本国外

ブラックソックス事件(メジャーリーグ)

エスケープ事件(競馬)

2011年発覚イギリス競馬八百長事件(競馬)

黒鷹事件(台湾プロ野球)

黒米事件(台湾プロ野球)

2009年欧州サッカー八百長疑惑事件(2009 European football betting scandal)

Kリーグ八百長事件

ギリシャにおけるプロサッカースキャンダル

Vリーグ八百長事件

NBA八百長事件(プロバスケットボール、審判による八百長)

男子プロテニス八百長事件[† 5][9][10]

セリエBの2010-11シーズンにおける八百長(イタリア[11]

オリンピック・マルセイユの八百長スキャンダルフランス

2012年韓国プロ野球八百長事件

クラッシュゲート(F1世界選手権2008年シンガポールグランプリ

韓国プロバスケットボール八百長事件

2016年韓国プロ野球八百長事件

2019年テニス選手八百長事件[12]

後日になって八百長を持ちかけられていたと告白した例

1973年10月20日中日対阪神戦(セ・リーグペナントレース)
[† 6][13][14]

1987年世界卓球選手権女子シングルス準決勝 何智麗対管建華戦(何智麗事件[15][16]

2006 FIFAワールドカップ一次リーグ チェコガーナ[17]

大相撲

前提として日本相撲協会は、八百長の概念を認めておらず、2011年の大相撲八百長問題においても「故意による無気力相撲」という表現を用いるにとどまっている。故意による無気力相撲の定義は「怪我や病気をしたままで場所に出ること」としている(週刊現代との訴訟における、当時の北の湖理事長の発言による)。
主な疑惑
1958年1月場所14日目:鏡里 - 千代の山
鏡里はこの場所「10番勝てなければ引退」と発言したが、13日目に6敗となり、10勝を挙げることは不可能となった。鏡里は翌日の千代の山戦に勝ち、勝ち越しを決め、千秋楽も勝って9勝6敗とした(結局引退した。)。しかし、鏡里は千代の山にもろ差しになられながらも寄り切りで勝ったが、千代の山が有利な体勢なのに負けたのは「八百長ではないか」という疑惑が生じた。
1963年9月場所千秋楽:大鵬 - 柏戸
ともに全勝の横綱同士の対戦。前場所まで4場所連続休場だった柏戸が勝って優勝を決めたが、場所後石原慎太郎が9月26日付の日刊スポーツ紙上に手記を寄せこの一番を八百長として糾弾。協会の告訴にまで発展したがのちに和解。
1970年1月場所千秋楽:北の富士-玉乃島
ともに優勝と横綱昇進をかけた大関同士の対戦。前場所優勝しこの場所も1敗で優勝争いの先頭を行く北の富士はすでに横綱昇進決定的と報じられたが、2敗で追う玉乃島は本割で勝たないと「話にならない」[18]。本割では玉乃島が一方的な相撲で北の富士を吊り出したが、優勝決定戦では北の富士が立ち合いで右上手を素早くとると一気に寄り立て、こらえた玉乃島を外掛けで下した[19]。場所後の横綱審議委員会で2人の横綱推薦が決まったが、委員長の舟橋聖一がこの取組を念頭に「疑惑を招くような相撲を絶滅して欲しい」と協会に強く申し入れた[20]
1971年7月場所11日目:大麒麟-琴櫻
全勝の玉の海を1敗で追う好調の大麒麟に対し、この場所角番の琴櫻はここまで5勝5敗。大関同士の対戦はあっけない相撲で琴櫻が勝ったが、取組後に「八百長ではないか」とファンから非難が集中し、翌日記者クラブからの質問に協会理事長の武蔵川(元幕内・出羽ノ花)は「ファンの疑惑を招いたことは申訳ない」と遺憾の意を表明し、武蔵川の意向を受けた審判部は緊急審判部会を開き、両力士に対し「今後このようなことがないよう」厳重に警告した[21]
1972年の相撲競技監察委員会発足後
1971年12月4日に協会は臨時理事会を開き、「無気力相撲」を防止するための対策のひとつとして「故意による無気力相撲懲罰規定」を制定し、1972年1月場所より施行することとした。規定に基づき設置された相撲競技監察委員会は、無気力相撲がなかったか確認するとされているが、実際に無気力相撲を認定した例は極めて少ない。「相撲競技監察委員会#実際に処分された者」も参照
1980年-1999年週刊ポストによる八百長報道(角界浄化キャンペーン)
1980年、元十両四季の花範雄によって現役時代に金銭の絡む八百長の仲介者として働かされたことが暴露された。この証言に対して賛同するように、元前頭禊鳳英二、元十両八竜信定、元幕下谷ノ海太一が八百長を証言した。その後、元立行司木村庄之助 (26代)、元序二段大ノ花、元序二段戸山、元三段目富士昇(元大関北天佑の弟)が八百長を証言した。1988年、元横綱双羽黒光司の元付け人上山進によって現役時代に金銭の絡む八百長の仲介者として働かされたことが暴露された。1996年、元関脇高鐵山孝之進によって現役時代における金銭の絡む八百長が暴露された。1996年、元小結板井圭介の元付け人(匿名)によって現役時代に金銭の絡む八百長の仲介者として働かされたことが暴露された。1997年、当時の現役横綱曙太郎の元付け人高見旺によって現役時代に八百長の仲介者として働かされたことが暴露された。1999年、「千代大海の大関昇進の裏に九重親方の八百長工作があった」と報じられ[22]、「引退のかかった若乃花琴錦が800万円で持ち掛けたが断られた」と報じられた[23]
1988年3月場所-11月場所:千代の富士貢の53連勝による八百長疑惑


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