八元数
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数学における八元数(はちげんすう、: octonion; オクトニオン)の全体は実数体上のノルム多元体で、ふつう大文字アルファベットの O を使って、太字の O(あるいは黒板太字の 𝕆)で表される。実数体上のノルム多元体はたった四種類であり、O のほかは、実数の全体 R, 複素数の全体 C, 四元数の全体 H しかない。O はこれらノルム多元体の中で最大のもので、実八次元、これは H の次元の二倍である(O は H を拡大して得られる)。八元数の全体 O における乗法は非可換かつ非結合的だが、弱い形の結合性である冪結合律は満足する。

より広く調べられ利用されている四元数や複素数に比べれば、八元数についてはそれほどよく知られているわけではない。にもかかわらず、八元数にはいくつも興味深い性質があり、それに関連して(例外型リー群が持つような)例外的な構造もいくつも備えている。加えて、八元数は弦理論などといった分野に応用を持っている。

八元数は、ハミルトンの四元数の発見に刺激を受けたジョン・グレイヴスによって1843年に発見され、グレイヴスはこれを octaves と呼んだ。それとは独立にケイリーも八元数を発見しており[1]、八元数のことをケイリー数、その全体をケイリー代数と呼ぶことがある。
定義

八元数は実数の八つ組と見做すことができる。任意の八元数 x は、e0 をスカラー元あるいは実元(実数 1 と同一視される)とする単位八元数 { e 0 , e 1 , e 2 , e 3 , e 4 , e 5 , e 6 , e 7 } {\displaystyle \{e_{0},e_{1},e_{2},e_{3},e_{4},e_{5},e_{6},e_{7}\}}

の実係数線型結合として、適当な実係数 {xi} を以って x = x 0 e 0 + x 1 e 1 + x 2 e 2 + x 3 e 3 + x 4 e 4 + x 5 e 5 + x 6 e 6 + x 7 e 7 {\displaystyle x=x_{0}e_{0}+x_{1}e_{1}+x_{2}e_{2}+x_{3}e_{3}+x_{4}e_{4}+x_{5}e_{5}+x_{6}e_{6}+x_{7}e_{7}}

の形に書くことができる。

八元数の加法及び減法は(四元数の場合と同様に)、それぞれの対応する項においてそれらの係数に対する加法及び減法によって定める。乗法についてはより複雑である。積は和の上に分配的であり、従って二つの八元数の乗法は(やはり四元数の場合と同様に)、それぞれの項の積の総和として計算することができる。各項の積は係数の積と単位八元数に対する乗積表から決まる。乗積表としては例えば[2]

 ×  e0 e1e2e3e4e5e6e7
e0e0e1e2e3e4e5e6e7
e1e1?e0e3?e2e5?e4?e7e6
e2e2?e3?e0e1e6e7?e4?e5
e3e3e2?e1?e0e7?e6e5?e4
e4e4?e5?e6?e7?e0e1e2e3
e5e5e4?e7e6?e1?e0?e3e2
e6e6e7e4?e5?e2e3?e0?e1
e7e7?e6e5e4?e3?e2e1?e0

を考えるとよい。この表の非対角成分のほとんどは反対称で、主対角線と e0 に対応する行と列とを消せば歪対称行列が作れる。

この乗積表は以下の関係 e i e j = − δ i j e 0 + ε i j k e k {\displaystyle e_{i}e_{j}=-\delta _{ij}e_{0}+\varepsilon _{ijk}e_{k}}

(ここで εijk は ijk = 123, 145, 176, 246, 257, 347, 365 のとき値が +1 となる完全反対称テンソル)、および e i e 0 = e 0 e i = e i ; e 0 e 0 = e 0 {\displaystyle e_{i}e_{0}=e_{0}e_{i}=e_{i};\quad e_{0}e_{0}=e_{0}}

(e0 はスカラー元で i, j, k = 1, …, 7)にまとめることができる[3]

上記の積の決め方は一意的に決まるものではないが、八元数の乗法を定義しうるたった 480 種類の乗積表のうちの一つになっている。他の乗法は非スカラー元を並べ替えて得られるもので、基底の取り換えを行うことに相当する。それ以外の場合には、いくつかの積の法則を固定すると八元数が持つ他の法則が崩れることを見る。それら 480 種類の八元数の代数系は互いに同型であるから、実用上は同一視してかまわないし、そもそもどの乗積表を用いたかを考慮する必要が生じることは稀である[4][5]
ケイリー–ディクソン構成

より機械的な八元数の構成がケイリー・ディクソン構成を用いて与えられる。四元数を複素数の対として構成したのとまったく同じに、八元数は四元数の対として定義できる。対における加法は成分ごとに行い、乗法は四元数の対 (a, b) および (c, d) に対して   ( a , b ) ( c , d ) = ( a c − d ∗ b , d a + b c ∗ ) {\displaystyle \ (a,b)(c,d)=(ac-d^{*}b,da+bc^{*})}

で定める。ここで z∗ は四元数 z の共軛を意味する。この定義で、当初定義における八つの単位八元数を、以下の八つの対(1, 0), (i, 0), (j, 0), (k, 0), (0, 1), (0, i), (0, j), (0, k)

と同一視してやると、当初定義と同値になる。
ファノ平面による記憶法単位八元数の積の簡単な記憶法

図に示した単位八元数の積を記憶する便利な記憶術がある。これはケイリーとグレイブスの乗積表を表すものである[2][6] 七つの点と七つの直線(1,2,3 を通る円も直線のひとつ)を持つこの図はファノ平面と呼ばれる。直線には向きがつけられており、また七つの点は純虚八元数の空間 Im(O) の標準基底に対応する。相異なる点の対ごとにそれらを通る直線が一意的に定まり、また各直線にはちょうど三つの点が載っている。

点の順序三つ組 (a, b, c) が図の中の与えられた直線にその向きに沿ってこの順番で載っているとすると、これらの乗法はab = c, ba = ?c

およびこれに三点の巡回置換を行って得られる関係式で与えられる。この規則に

1 は乗法単位元である

図の各点に対して ei2 = ?1 が成り立つ

を加えたものから八元数の乗法構造は完全に決定される。また、七つの直線のそれぞれから生成される O の部分多元環は、四元数体 H に同型になる。
共軛、ノルムおよび逆元

八元数 x = x 0 e 0 + x 1 e 1 + x 2 e 2 + x 3 e 3 + x 4 e 4 + x 5 e 5 + x 6 e 6 + x 7 e 7 {\displaystyle x=x_{0}\,e_{0}+x_{1}\,e_{1}+x_{2}\,e_{2}+x_{3}\,e_{3}+x_{4}\,e_{4}+x_{5}\,e_{5}+x_{6}\,e_{6}+x_{7}\,e_{7}}

の八元数としての共軛は x ∗ = x 0 e 0 − x 1 e 1 − x 2 e 2 − x 3 e 3 − x 4 e 4 − x 5 e 5 − x 6 e 6 − x 7 e 7 {\displaystyle x^{*}=x_{0}\,e_{0}-x_{1}\,e_{1}-x_{2}\,e_{2}-x_{3}\,e_{3}-x_{4}\,e_{4}-x_{5}\,e_{5}-x_{6}\,e_{6}-x_{7}\,e_{7}}

で与えられる。共軛は O の主対合であり、(xy)∗ = y∗ x∗ を満足する(積の順番が逆になることに注意)。

共軛を用いると、八元数 x の実部が x + x ∗ 2 = x 0 e 0 {\displaystyle {\frac {x+x^{*}}{2}}=x_{0}\,e_{0}}

で、同様に虚部が x − x ∗ 2 = x 1 e 1 + x 2 e 2 + x 3 e 3 + x 4 e 4 + x 5 e 5 + x 6 e 6 + x 7 e 7 {\displaystyle {\frac {x-x^{*}}{2}}=x_{1}\,e_{1}+x_{2}\,e_{2}+x_{3}\,e_{3}+x_{4}\,e_{4}+x_{5}\,e_{5}+x_{6}\,e_{6}+x_{7}\,e_{7}}


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