全身麻酔
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全身麻酔
全身麻酔にて使われる器具の一例
MeSHD000768
MedlinePlus007410
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全身麻酔(ぜんしんますい、: General anesthesia)は、痛覚刺激を与えても患者が覚醒しないように、人為的に誘発される意識喪失である[1]。この効果は、静脈内または吸入の全身麻酔薬を投与することで得られ、しばしば鎮痛剤および神経筋遮断薬が併用される。手術中は自発呼吸が十分でないことが多く、気道を保護するための介入が必要となることが多い[1]。全身麻酔は一般に手術室では患者にとって耐え難い痛みを伴う外科手術を可能にするために、集中治療室救急外来では重症患者の気管挿管機械換気を容易にするために実施される。

日本では、全身麻酔の目標は「麻酔の3要素」、すなわち鎮静・鎮痛・筋弛緩とされることが多い[2][3][4]。有害反射の抑制も加えて麻酔の4要素とされることもある[5][6]が、これは元はWoodbridgeらが1957年に提唱した麻酔深度の概念に遡ることができる[7]。英語圏では、意識消失健忘鎮痛自律神経系の反射消失、場合によっては骨格筋麻痺を達成することが全体目標とされることもある。すなわち、4要素ないしは5要素となっており、鎮静において意識消失と健忘が別個の評価項目となっていることによる。

患者や処置に最適な麻酔薬の組み合わせは、麻酔科医が患者、外科医、歯科医師、または手術処置を行う他の施術者と相談しながら選択する[8]

現在では多様な気道確保器具が存在するが、かつては全身麻酔時の気道確保は、麻酔マスクないしは気管挿管に限られ、麻酔薬も吸入麻酔薬が主であったことから、後者が気管内麻酔法(intratracheal anesthesia)[9][10][11][12]と呼ばれていたが、現在はこの名称は、ほぼ用いられない[注釈 1]
歴史詳細は「全身麻酔の歴史」および「麻酔#歴史」を参照

全身麻酔の試みは、古代シュメール[13]バビロニア[14]アッシリア人[15]エジプト人[16]ギリシャ人ローマ人インド人[17]中国人[18]の書物から、歴史的にたどることができる。2世紀から3世紀に書かれた『三国志』には、中国後漢末期に華陀が「麻沸散」という麻酔薬を用いて手術を行ったと記載されている[19]。この「麻沸散」は全身麻酔薬であろうと考えられているが、どのようなものであったかは明らかではない[20]

中世には、東洋においてもヨーロッパにおいても科学は医学的に大きな進歩を遂げた。

ルネッサンス期には、解剖学外科学に大きな進歩があった。しかし、このような進歩にもかかわらず、手術は依然として最後の治療法であった。手術は痛みを伴うため、多くの患者は手術を受けるよりも死を選んだ。全身麻酔の発見については、誰が最も功績を残したかについて定説は無いが、18世紀後半から19世紀初頭にかけてのいくつかの科学的発見が、近代的麻酔技術の導入と発展に不可欠であった[21]。特に薬剤投与経路としての気体吸入の開発が重要であった[22]

正確に確認できる全身麻酔の記録としては、文化元年10月13日(1804年11月14日)に華岡青洲が行った乳癌の手術が初出である[23]。このとき用いられた経口麻酔薬「通仙散」はチョウセンアサガオトリカブトトウキなどを配合した薬品であった。西洋では、1846年アメリカウィリアム・T・G・モートンが行ったジエチルエーテル吸入による手術が初の全身麻酔手術となる[24]。エーテルは引火性が問題であり、すぐにクロロホルムに取って代わられたが[25]、クロロホルムも毒性のために死者が相次ぎ、使われなくなるのに時間はかからなかった[25]

19世紀後半には、近代外科学への移行を可能にする二つの大きな飛躍があった。病原菌の発見と麻酔である。病気の病原体説の理解により、外科手術における感染予防技術の開発と応用が急速に進んだのである[26][27]。防腐法(英語: antisepsis)はやがて無菌法(英語: asepsis)に変わり、外科手術の合併症死亡率は、以前の時代よりはるかに低くなった[27]。「病気の病原体説」および「無菌」も参照

一方、この時期はエーテルなどの単一の揮発性麻酔薬を用いて、麻酔の4要素全てを達成する努力がなされたが、麻酔をかけるのに時間を要し、手術に必要な筋弛緩を得るには高濃度の麻酔薬が必要であった[28]。また、この吸入自体、麻酔薬の臭気のためもあり、一部の患者にとっては不快な経験であり、他の投与経路、例えば直腸や静脈から投与できる薬剤の試行錯誤が続いた[29]

1934年に、アメリカのアーネスト・ヴォルワイラー(英語版)によって開発された静脈麻酔薬チオペンタールは、現在に至るまで全身麻酔薬として使用されており[30]WHOの必須医薬品リストにも指定されている[31]。チオペンタールなどの静脈麻酔薬によって、麻酔をかけるのに要する時間は短縮されたが、これらは呼吸抑制が強く循環抑制も強かったため、依然、死亡リスクが高かった[28]

20世紀には、気管挿管やその他の高度な気道確保技術を日常的に使用し、局所麻酔や複数の麻酔薬を組み合わせるバランス麻酔(英語版)の概念が提唱され、全身麻酔の安全性と有効性が改善された[32]。また、モニタリングの大幅な進歩や、薬物動態学的および薬力学的特性が改善された新しい麻酔薬も、この傾向に貢献した[33]
目的

麻酔の目的は、次の4つの基本的な要素またはエンドポイント(臨床評価項目)に集約される[34][35]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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